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第三話 同じところに住む者

「つい買ってしまった」


 学校からの帰り道にあるコンビニで俺は今日の冷え込み用からついおでんの誘惑に負け、大根、卵、はんぺんなどを買ってしまった。

 しかも、キュアレも欲しいと言ってきたので追加。

 

「仕方ありませんよ。寒い時に温かいものを食べたくなるのは自然なことです。あ、大根おいしいです」

「その通りだよ、幼馴染くん。特に私のような寒がりには……あふぅ、お汁もいいですなぁ」


 今日は、みやが家の手伝いがない日なので、あおねと共に俺のところへ遊びに来ることになった。

 自宅には帰らずそのまま直行。

 コンビニで買ったおでんを食べ、体を温めながら。


「そういえば、明日でしたっけ?」

「ん? なにがだ?」

「なにって我らが白峰涼先輩のご帰還ですよ」

「っと、そうだったな」


 白峰先輩は、ここ数日学校には来ていない。

 いや正確には東栄の二年生と言ったほうがいいか。

 高校二年の一大イベントのひとつである修学旅行だ。旅行先は、京都らしく。俺達にいっぱいお土産を買ってくると、行く前に欲しいものを聞いて来た。


「今頃京都の美味しい食べ物をいっぱい食べてるんでしょうねー」

「先輩はそういうキャラじゃないだろ」


 まあ食べていないことはないだろう。

 先輩だって、お洒落だけが生きがいじゃなくなったのだ。今の先輩は、クラスメイトとも大分打ち解けてきているみたいだし、出かける前に見せたあの笑顔は本当に楽しそうだった。


「……」


 アパートに到着すると、俺は自然にエミーナさんの部屋へと視線がいく。

 特別に仲良くなりたい、ということではないが、やはり気になる。

 それに、かなみさんもまだ帰ってきていないのも気がかりだ。


「あそこですよね? エミーナさんという女性が住んでいるのは」


 おでんを食べ終わったあおねがひょこっと出てきてエミーナさんの部屋を見詰める。


「今日も部屋に?」

「どうだろうな。もしかしたら、出かけているかもしれない」


 俺は、視線を外し自分の部屋へと向かう。


「突撃します?」


 鍵を開けようとしていると、あおねがにやりと笑みを浮かべながら言う。


「やめなさい」

「そうだよ、あおちゃん。無理矢理はだめ!」


 みやが言うとなんだか違和感が凄いのだが、まあいいだろう。


「ただいまっと」

「お邪魔しまーす」

「お邪魔しますぞー」

「ういー」


 部屋に入ると、もう溶けるんじゃないかと思うほどだらしなく寝そべっているキュアレが視界に入る。

 

「ふいー、さむさむー」

「おこたー、おこたー」


 そして、みやとあおねはそそくさとこたつの中へと入っていく。


「パイセーン。何か飲み物ー」

「あ、零。私のおでんは?」

「みかんうめー」

 

 もはや自分の家感覚だ。

 さて、俺は夕飯の下準備でもしようかな。



・・・・



 零達が住むアパートはなぜか住む者が増えない。

 立地もよく1LDKではあるが、風呂やトイレもある。

 そんなアパートにいち早く住み着いた者が居る。

 上の階の端に住み着き、現在二年。

 

「……ふう」


 太陽の日差しが差し込まないようにぴっちりとカーテンは閉められており、部屋はテレビの明かりだけで照らされている。

 そんな中で、一人の女性はゲームのコントローラーから手を放し、テーブルに置かれた赤いマグカップを手に取り、一息つく。


「あの時の子……下の階に住んでいる」


 エミーナ・ロサフィー。

 アパートに住んでから一切部屋から出ることなく、買い物も全て宅配。

 人と関わることが苦手で、これまでまともに会話できたのは家族だけ。

 なんとか喋ろうとしても、目が泳ぎ、言葉もちぐはぐ。

 そして最後には奇妙な悲鳴を上げて逃げてしまう。


「確か、明日部、零くんだったよね」


 エミーナは部屋にずっと引きこもっているが、管理人であるかなみとは比較的まともな会話ができているため同じアパートに住む者達の情報は手に入れている。

 

「高校生って言ってたけど……お、大きかったなぁ」


 エミーナの脳裏に浮かぶのは、かなみだと思って油断し、玄関で鉢合わせた零の姿。

 見上げてしまうほどの高い身長にぎらついた目。

 肩幅も広く、服の上からでもがっちりした体系だとわかる存在感。


「最近の高校生って皆あんな感じなのかな……」


 高校に通ったことがないエミーナにとっては今の高校生の体系など想像できない。

 ゆえに、零を見た時は大人の男だと思ってしまった。


「そ、それにしてもなんでかなみさんじゃなくてあの子だったの……うぅ」


 零と会った時のことを思い出し、身を抱くように縮こまる。

 同じ女性であるかなみだと思い、かなり油断していた。

 そのため衣服のことなど全然気にしていなかった。

 

「み、見られちゃったよね……」


 ぐいっといつも身に着けている大きめのパーカーに両足を入れる。

 

「ひゃああっ!? 思い出したら恥ずかしさで……!」


 これまで異性に下着など見られたことはなかったエミーナは、恥ずかしさのあまりその場でころころと転がる。


「はっ!? も、もしかしてあれがきっかけで私に興味をもったり?」


 かなみからは人当たりがよく、他人のことを気に掛ける心優しい子だと伝えられていた。

 

「な、なーんてそんなことない、よね……私なんかに……」


 少し恥ずかしさがなくなったところで、エミーナは再びコントローラーを握り締め、オンラインゲームに勤しむ。

 

「こんなこと考えちゃうなんて……私ってば意外と飢えてる、のかな……」


 エミーナ・ロサフィー。

 臆病で、人と話すのが苦手な……二十八歳独身女性。


「あ、武器変えるのは忘れちゃった」


 そして、サキュバスである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 出掛けた時のサキュバスは何の前振りだ?と思ったらお前かーい! 確かに顔合わせた時零が能力つかってないからなんかあるだろうなぁとは思ってたけど
[一言] 陰キャで引きこもりで職務を全うしないサキュバス。うん、普通だな!極めてよくいるタイプの普通の人だ!
[一言] 対人性能皆無のサキュバス…致命的すぎないか?ww
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