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第三十八話 電話越しの

「……ここは」


 楓が目を覚ますと、自室のベッドの中だった。

 窓に視線をやると日が落ち、すっかり暗くなっていた。

 眠気眼のまま、どうしてベッドで眠っていたのかを思い返す。


「……そうだ。俺は」


 眠気も覚め、徐々に思い出してきた楓は苦笑する。


「俺、知らないうちにやられてない、よな?」


 まさか薬で眠らされるとは。

 自分が体験することになるとは思わなかった。

 気怠さが残る体を無理矢理起こし、楓は毛布越しに自分の下半身を見詰める。


「……い、痛みはないけど。結構時間が経ってるからなくなったってこともあるし……」


 どうやって確かめようと悩んでいると、ドアが開き涼佳が入ってきた。


「あ、目が覚めたのね」

「母さん……えっと、私、どうしたの?」


 動揺を隠せない楓の問いかけに、涼佳はその場に膝をつき、優しく楓の左手を両手で包む。


「あなたは、帰ってくる途中で倒れたらしいわ。それを零くんが見つけて家まで運んできてくれたのよ」

「……」


 倒れた、ということになっているのだろう。

 楓はすぐ理解した。

 これは零が考えた偽のシナリオ。

 本来は、薬で眠らされ、そのまま誘拐されそうになった。そこを零が助け、偽のシナリオを涼佳に伝えたのだ。

 

「ごめんなさいね。あなたがそんなに疲れていたことに気づかなくて」

「い、いいよそんなことぉ。というか、母さんこそ大丈夫? もう熱は引いたの?」

「ええ。もうすっかり。あ、お腹減ってるでしょ。今から卵がゆを作ってくるからちょっと待ってて」

「あ、うん。ゆっくりでいいよ。治ったって言っても無茶したらぶり返しちゃうかもだから」

「ふふ。心配してくれるのは嬉しいけど、今は自分の体のことを大事にしなさい」


 そう言って、涼佳は部屋から出ていく。

 再び一人になった楓は、机に置いてあったスマートフォンを手に取り、操作する。

 そして、耳に当てしばらく。


「よ、兄ちゃん」

《なにがよ、だ》


 零に電話をかけたのだ。

 電話越しからでもわかるほど、ものすごく呆れた声が耳に届く。

 

「兄ちゃんが助けてくれたんだってな。とりあえず、礼を言っておくぜ。ありがとうよ」

《たまたまだよ》

「なにがたまたまなんだよ。俺が誘拐されるところを見たのがか? 時間帯的にまだ兄ちゃんは東栄高だろ?」


 思わず笑ってしまう楓。

 だが、すぐ真面目な表情に変わり口を開く。


「……本当にありがとうな。まさかあんなことまであるなんて。二次元世界……思っていた以上にやばいな」

《あれはまだ序の口だ。自慢じゃないが、俺はあれ以上のことを体験してるからな》

「マジか。よくそんなことがあったのに、普通に生活してるな。鬼メンタルか?」

《自分でも驚いてるよ。とんでもないことを体験したのに、こうやって普通に生活できていることに》

「やっぱ神様に選ばれた主人公は格が違ったってところか?」

《そうかもな》


 まさかの肯定に一瞬驚くもすぐ笑みが浮かんだ。


「なあ、兄ちゃん」

《なんだ?》

「兄ちゃんが見たもの、全部教えてくれねぇか? 兄ちゃんの考えたシナリオでは俺は道端で気絶していたってことになってるけど……」


 実際はどうなのか。

 少し怖いが、真実を知っておきたい。知らないままの方が幸せなこともある。だが、知らないままもやもやしているのは、不安が募るだけだ。

 

《別に不安がるようなことにはなってないって》


 その言葉に、楓の不安が一気に晴れる。


《薬で眠らされたお前を誘拐しようとしていた男が居たが、それを俺が見つけて、そのままおっさんを奪取。男はなんやかんやあってこわーい思いをしている、かもしれない》

「怖い、思い?」


 まさかみややあおねのような超人達によって……という考えが過る。


《あのまま警察に連行していくつもりだったんだが、あんたを大事に思ってる小さな子達がな》


 大事に、という言葉に気恥ずかしさが込み上げてくる。


《まあ、一緒に居た霧一さんはちょっと暗示をかけるだけだとか、拷問はしないとか言っていたから大丈夫だろ》

「いや、暗示をかけるって……だ、大丈夫なのか?」

《めちゃくちゃする連中だが、悪人じゃない。悪いようにはしないだろ》


 自分を薬で眠らせ、誘拐しようとした者だが、なぜか可哀そうに思えてしまう楓だった。

 

《ああ、そうそう》

「ん?」

《迷惑料として、アイスを一個貰ったからな》

「え? あ、ああ。それぐらいだったら別に構わねぇよ」


 今回の件でまたぐだぐだと何かを言われると身構えていたため、気が抜ける。


《それと》


 がしかし。


《今度あんなことがあっても、都合よく助けられると思った大違いだからな。そこんところちゃんと理解しろよおっさん。そもそもあんたはな》


 結局ぐだぐだと説教をされてしまう。

 今回ばかりは、自分に非があるため言い返すことができず、ただただ零からの説教に耳を傾けるばかりだった。

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