第十三話 とある休日の出来事
今日は土曜日。
特に用事はないので、今は部屋でのんびりしている。
「あー! 零! 回復! 回復薬尽きちゃった!!」
「はいはい」
本来なら、一人でまったりとしているところだが、勝手に住み着いた神様の相手をしなくてはならないのだ。
キュアレはすっかり人間の暮らしに順応している。
とはいえ、相変わらず外に出ることはなく。
出るとしても、ベランダに出るだけ。
俺としては、出てほしくはないのだが。
学生で、一人暮らしなのに、女性と同居だなんて家族にも言えない。しかも、その女性が神様。
でも、管理人さんにはばれているんじゃなかろうか? だって、俺が学校に行っている間も、キュアレは部屋でごろごろしているし、通販を使っているため、配達員の人はキュアレと出会うことになる。
その辺りは、大丈夫! 神的な力でなんとかしてるから! とか言うのだが、心配だ。
「ふいー、緊急クエストクリアーっと」
「おつかれさん。……ん?」
ゲームが一段落したところで、タイミングよくメッセージが送られてくる。
みやからだった。
「……本当、仲が良いな」
メッセージと一緒に、写真も送られてきていた。そこに写っていたのは、私服のみやとあおね。
さっそく女子同士で、休日を満喫しているようだ。
<てか、あおね。眼帯はどうした?>
と、写真を見た時の違和感をメッセージとして送る。
写真に写っているあおねは、いつもの眼帯をしていない。出会った頃から隠れていた左目が露になっているのだ。
運命眼。
その瞳の色は、右目とは違い黄金。ちなみに、右目は赤だ。
これはカラーコンタクトをしているのか。それとも。
「お、返ってきた」
<いつもしてるわけじゃありませんよ! ちなみに、左目のこれはカラーコンタクトではありません!>
あおねだな。
にして、カラーコンタクトじゃないってことは、元からこうなのか。じゃあ、やっぱり俺とは違う能力者という可能性が更に高まってきたな。
「楽しそうだねー」
「そうだな」
ずいっと横から出てくるキュアレ。
「零も参加したい?」
「どうだろうな……今は、二人で楽しんでいる感じだから。下手に割り込むのはよくないと思う」
けど、能力のレベルを上げるために、街に出るのが一番。
キュアレが言うには、能力は使えば使うほど体に馴染んでいき、レベルも上がる。
そうなれば、勝手に発動することも少なくなっていくだろうと。
「……」
「出掛けるの?」
「ちょっと外の空気を吸いに行くだけだ。ついでに、買い物」
とはいえ、それじゃテスターとしては失格。
能力を貰ったからには、やることはやらないとな。キュアレも、これが終わらないと、帰れない。
「行ってきます」
「いってらっしゃーい」
いい天気だ。
雲ひとつない晴天。まさに、お出掛け日和。
・・・・
「マジマジ。俺達マジでラブラブなんだよ! なー?」
「うん。これから、水族館に行くんだよ」
街に出て、所謂人間観察をしている。
今見たカップルは、言葉ではラブラブだと言って、体をくっ付けあい友人達に見せつけているが。
「これは、今にも別れそうだな」
恋人の証を繋ぐ線が細い。
目を凝らさないといけないぐらいの細い繊維のようだ。
おそらく、二人は色々あって喧嘩をし、今はギリギリのところで保っている感じなんだろう。
キス(唇)八十七回。キス(頬)三十四回。抱擁(前)七十三回。
これに加え、Sという名の性行為が、三十回を超えている。
正直、恋人の平均的な行為回数はわからないが、ラブラブだったというのは本当なのだろう。
まあ、それも過去形だが。
「それじゃあね!」
「お前らも、彼女作れよ!」
と、ギリギリな二人は友人達と別れる。
気になって追いかけてみると、角を曲がり、友人達が見ていないところで。
「はあ……おい、少し離れろ」
「はいはい」
さっきまでのラブラブカップルぶりはどこへいったのか。
とりあえず、この先どうなるのかは二人次第ということで、俺は退散しよう。
テスターとしては、こういう感じで良いのだろうか。
「っと、あれは」
元の周囲が見やすい広場へと戻ろうとしたところで、見覚えのある二人が視界に入った。
「いやぁ、みや先輩は本当に楽しい人ですね」
「はっはっは! あおねちゃんもね!」
みやとあおねだ。
遭遇するかもしれないと思っていたが、意外とあっさり見つけてしまった。
話しかけるか?
「いやー、そう言ってもらえると嬉しいですねぇ」
「あ、そういえば。来年は、高校生だよね? どうだい? 我が、東栄高校に来ないかい?」
と、親指を立てる。
まだ先の話だが、もしあおねが東栄高校に来たら……楽しそうではあるな。
「魅力的なお誘いですねー。どうしましょうかー」
「こーいこい! こっちにこーい!」
「きゃー! 体が勝手にー!!」
「うりゃー! 捕まえたぞー!!」
……これは、入っていけない空気だ。
所謂百合かのように、イチャイチャしている二人の空間に踏み込むのは、勇気がいる。
百合を邪魔するのはよくない、と思っているネット民は多い。
「ねぇねぇ、君達。可愛いね」
しかし、そんなことなど知らぬとばかりにナンパをするチャラい格好をした茶髪の男。
「実はさ、俺今暇してるんだ。よかったら、一緒に遊ばない?」
「先輩。ナンパですよ」
「これで、何回目だっけ?」
これが初めてじゃないのか? いや、二人の容姿なら普通にありえるか。
「実は、彼女と最近別れちゃってさ。めっちゃ落ち込んでんだよ。図々しい頼みだと思うけど、ちょっと! ちょっと遊ぶだけだから。俺を励ましてくれない?」
嘘だ。
俺には見えている。ナンパ男は、彼女と別れていない。その証拠に恋人が居る証がある。
どうやら近くにはいないようだが……典型的な女遊びが好きな男だな。
「よっ、二人とも待たせたな」
「あっ! パイセン! ヘルプです! ナンパですよ! ナンパ!!」
「助けておくれー!」
先ほどとは状況が違うので、俺は二人を助けるため姿を現す。
「悪いんですが、俺達。これから三人で遊ぶ予定なんで」
「……ちっ」
おい、聞こえてるぞ。
ナンパ男は、明らかに機嫌を損ねた感じで立ち去っていく。
まったく、あんな男と付き合ってる彼女は可哀想だな。
「大丈夫だったか?」
「はい! ナンパには慣れてるので! もし、零先輩が来なかったらお友達を呼んでいたところでした!」
そういえば、あおねは運命眼のおかげで良い友達が多いんだったな。
「凄いんだよ、あおねちゃんのお友達! 電話したらマッハで助けに来ちゃうんだぜ?」
「皆は、運命により出会った魂のフレンドですから!」
じゃあ、俺が助けた意味はあまりなかった、のか? 正直、その魂のフレンドという人達を見てみたくなった。
「まあ、ここで会ったのも縁! このまま三人でエンジョイしましょうー!!」
「いえーい!! はい! 零も!」
「い、いえーい!」
「うぇーい!!」
結局、二人と合流した俺は、そのまま休日をエンジョイするのだった。