第三十四話 楽しみ方
ちょっと短め。
「なるほど。それはよかったわ。私も一緒に祝えたらよかったのだけれど」
かむらの誕生日を祝った後のこと。
改めて、プレゼントを持参して盛大に祝うと約束し、一旦は別れた。
かむらは、もういいと言うが、やはりちゃんと祝いたい。
そして、今度こそ休憩するため教室から出ると遅れてセリルさんが一人で現れた。
ちなみにみやも一緒に休憩することになっているので、今は二人に挟まれている。
出店で買ったチュロスを購入し、ベンチに腰掛けながら会話をしているのだ。
「その代わりにエルさんが、祝っていましたよ」
今も思い出す。
エルさんが、ホットケーキを食べさせようとぐいぐいいき、かむらはそれを恥ずかしがり頑なに拒否するが結局食べる。
あおねやここねはそれを微笑ましそうに眺め、楓は興奮した様子でスケッチし、霧一さんは……めちゃくちゃ興奮した様子でカメラのシャッターを切っていた。
クラスメイトも、他のお客さん達も、かなり和んだ様子だったな。
「それはよかった。でも、ちゃんとプレゼントは用意してきたから、後でちゃんと」
その時は俺達も一緒に。
「ふふ」
「どうかしましたか?」
ふいにセリルさんが優しい微笑みを浮かべる。
みやも気になったのか、口にチュロスを加えたまま視線を向けた。
「こういう穏やかな日々はやはりいいものだと思ったら、つい」
「……そうですね」
セリルさんが言うと本当に重みがある。
彼女は、聖女として、その身を犠牲にして戦ってきた。そんな彼女にとって、今の日常は本当に笑みを浮かべてしまうほど嬉しいものなのだろう。
「というわけで」
ん?
「はい、チュロスのおかわりをどうぞ」
そう言って、笑顔で自分の食べかけチュロスを差し出してくる。
「こらこら、変態聖女さん。何をしているのかな?」
は!? 一瞬にして表みやに……。
「何をって、零様はひとつじゃ物足りないと思って」
ちょ、まだ周りに人が居るんですが。
「だったら、私のをあげるね、零くん。はい、あーん」
対抗してか、表みやも自分のチュロスを差し出してくる。
「あらあら。いいんですよ、みやさん。あなたはそのまま全部食べても」
「そっちこそ、お仕事のためにちゃーんと食べたほうがいいんじゃないのかな?」
や、やばい。徐々に周りの視線が集まって。
「なんだあの羨まし空間は」
「あーんだけでも羨ましいのに、食べかけだと?」
やはりこの二人を一緒にするのはよくなかったか。
とりあえずここは。
「二人とも。とりあえずここから離れよう。セリルさんも色々と見て回りたいですよね?」
「そうですね。こうしてゆっくりするのもいいですが、楽しみたいという気持ちもあります」
「みやもいいよな?」
「零くんと二人きりじゃないのは不満だけど……」
可愛らしくふくれっ面を見せながら、周囲を見渡す。
「うん、いいよ」
どうやら前みたいに暴れることはないようだ。
これは成長したと思っていいだろう。
さすがにここまで人が多い場所では……プールの時は周囲に人が居なかったから、うん。
「よし、じゃあ二人とも行こう」
速足でその場から離れる。
と、とりあえずはこれでいいだろう。しかし油断はできない。この二人が揃うと、何が起こるかわかったものじゃない。
何も起こらないように、なんとかうまく立ち回らないと。
「ところで、どっちのチュロスを食べるの?」
「ふふ。私のですよね?」
「……どっちもいただくってことで」
どこかでお茶買わないとな。
さすがに、チュロス三つは口の中が……。