第三十三話 予想はしていたが
東栄祭一般公開日。
俺達のクラスがやっているコスプレ喫茶は、思っていた以上に繁盛している。
それも、みやの人気があってのものだろう。
実家の喫茶店でもみやを目当てに通う客が多いからな……。
「お待たせしました。ご注文のホットコーヒーです」
「こちらメニューになります」
最初はどうなるかと思ったが、皆うまくやっている。
俺も調理担当として頑張らないとな。
「零くん。三食オムライスお願いね」
「はいよ。先に注文されたハムサンドできてるから」
「はーい」
本格的なものはない。
手軽で、すっと食べられるものばかりだ。
ちなみに、一番人気なのはやっぱり三食オムライスだな。
みやのところで出しているものだが、実は東栄祭だけのオリジナルティを出している。
それは。
「はいはーい! では、僭越ながら私がケチャップで絵を描いちゃったぜ!」
そう。
よくメイド喫茶なんかでやるようなサービスをしている。
みやがメイドの衣装を着ていることもあり、まさにと言ったところか。
しかも、かなり本格的なもので、みやが勝手に描くという。
ここがオリジナルポイントだな。
メイド喫茶なんかだと、客の注文で描くところだが、我らがメイドさんは勝手に描いてしまうのだ。
「わあ! 猫ちゃん、可愛い!」
「で、でもちょっと崩しにくい……」
どうやら崩しにくいほど可愛い猫を描いたようだ。
「ここがパイセンの教室です!」
少し休憩に入ろうと思った刹那。
聞き覚えのある声が教室に響き渡る。
俺はエプロン姿のまま、声の主のもとへと向かう。
「お客様。店内ではお静かにお願いします」
「わあ、パイセン。執事さんですか、おー」
教室に入ってきたのは、あおね、ここね、かむら、エルさん、楓の五人。
「よく似合ってるじゃないですか、零さん」
「そりゃあどうも。さて、ちゃんと五人座れる席も用意してるぞ」
実は、皆に少しだけ頼みごとをしたのだ。
後輩が誕生日なので、そのための席を設けたいと。
「さすがですね。では、行きましょうかむらちゃん」
「自分は良いと言っているだろう……」
「そんなことを言いつつしっかり付き合ってくれるかむらだった」
なんだかんだ言って付き合いはいいかむら。
エルさんに背中を押されながら、用意された席へと着席する。
通常は多くて四人。
しかし、ひとつだけ少し大きいテーブルが用意されているのだ。
「へい! いらっしゃいませ、お嬢様方!!」
席へ案内すると、すぐみやがメニューを手に持ち、笑顔で近づいてくる。
「本日のおすすめは、こちらのスペシャルホットケーキになります! すっごいおすすめです!!」
おーおー、完全に注文してとアピールしてるな。
まあ、アピールもしたくなるよな。
それを察したのか、あおねはふっと笑みを浮かべる。
「では、そのスペシャルホットケーキをひとつ。飲み物は」
注文を受けたみやは俺へ親指を立てる。
仕方ない。
休憩しようと思っていたが、ここはかむらのためにやってやるか。
その後、俺は大きめのホットケーキを二枚焼き、生クリーム、フルーツを飾り、それをみやに渡す。
すると、みやは薄い板チョコにホワイトチョコレートで文字を流れるように書いていく。
「これでよし!」
文字を書き終えた後は、ホットケーキに飾り、あおね達のところへと持っていく。
「お待たせしました! こいつが、スペシャルホットケーキですぜ!!」
と、かむらの目の前に置く。
「こ、これは……」
「やはりそうでしたか」
「おー、これみやさんが書いたんですか?」
「凄い達筆」
「かむらちゃんのために、気合いを入れたのさ……誕生日おめでとう、かむらちゃん」
そう。板チョコにハッピーバースデイ、かむらちゃんと書かれている。
しかもそれだけじゃない。
「む? これはまさか……」
「くっくっくお気づきになられたようですね、お嬢様」
板チョコの他にも気になるチョコが飾られていた。というよりも刺さっていた。
それは、新しく放送されている特撮ヒーローが使っている剣。
みやが資料を見ながら作った一品。
俺も初めて見た時は、さすがみやだ……と感心するほど、細かい仕上がりだった。
「凄いな。チョコで、それもこのサイズ……この刃に刻まれている紋章も」
「おお! かむらちゃんが目を輝かせてます!」
「可愛いですねぇ」
うん。いい感じに喜んでいるようだな。
みやも満足げに頷いている。
「……その、なんだ」
一通り観察した後、それをホットケーキに再び突き刺し、恥ずかしそうにみやをちらちらと見るかむら。
「あ、ありがとう」
「どういたしましてー」
出会った当時は、印象があれだったため結構ギクシャクしていたが、大分仲良くなってきたな。
……まあ、相手が裏みやだからかもしれないが。
表の方は……どうだろうか。
「お嬢様方。ご注文のお飲み物でございます」
そんなほんわかした雰囲気の中に、俺は注文された飲み物を持っていく。
「そのホットケーキ。普通のよりクリームたっぷりで、大きめに作ってある。まあ、俺達からのちょっとした誕生日ケーキだ」
「まったく。君は自分の言ったことをわかってないじゃないか……」
「悪いな」
不機嫌そうに言うが、どこか嬉しそうに見える。
「もー、かむらちゃんツンデレー」
「ツンデレですねー」
「だ、誰がツンデレだ! ほ、ほらさっさと食べてここから出るぞ!」
あれ? そういえば霧一さんは……あっ。
先日のことを思い出し、兄である霧一さんの姿がないことに違和感を覚えた俺は、何気なく教室の入口へと視線を向けた。
「はあ……はあ……いい。いいよ、かむらちゃん」
そこには、霧一さんが、大胆にもカメラを構えて息を荒くしている姿が見えた。
「なあ、かむら」
「放っておけ」
「わ、わかった」
とはいえ、このままにしておくと他の客が驚いてしまう。
なので、場所を移動するか。撮影を止めるように伝えると、すぐ場所を移動してかむらの撮影を続行した。