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第二十九話 転生者の日常

 浅田秋太郎は、気づけば赤子となっていた。

 夢か? 最初はそう思った。

 だが、後に脳裏へと流れ込んでくる記憶により理解した。


 自分は死んだのだと。

 そして、夢とは思えないリアルな感覚にとあるひとつの結論へと至る。

 

(転生、したのか?)


 生前、秋太郎は漫画家だった。

 最初こそ絵がうまいだけで、漫画としては面白いものではないという評価で中々うまくいかず、日々をアルバイトで費やしていた。

 しかし、努力が実り、漫画家として人気が出て、単行本も発売。

 そこから順調に続刊していき、ついにはアニメ化まで達成する。

 このまま漫画家として、どんどん活躍していこう! と、幸せ絶頂だったのがあっさりと終わってしまう。


 不慮の事故により死んでしまった。

 所詮は人間。

 脆いものだ。

 死ぬ時はこうもあっさりなのか。死に際に、秋太郎はそう思った。


 だが、神は秋太郎を見放さなかった。

 どういうわけなのか、新たな人生を歩むこととなった秋太郎。

 それは嬉しいことなのだが、性別が女へと変わってしまい、情報を集めれば集めるほど自分の知っている地球とは何かが違うと気づく。


 まずは、髪の毛の色だ。

 どう見ても、染めているだろうと思う色。

 赤、青、緑、銀。

 だが、人々はそれが当たり前化のように全然気にしていない。

 そのためどうして皆髪の色が変なの? とも親には聞けなかった。これが、この世界では当たり前なのだろう。

 もし、そのことを聞けば、逆に自分が変なのだと思われてしまう。


「……はあ。転生したのはいいけど、なんかこう……能力とかなかったものか」


 自分が知っている地球とは違うところがあるものの、同じところもたくさんある。

 別段、魔法が使えたり、変な生き物が居たりすることもなく。

 秋太郎は、白峰楓として日々を過ごした。

 生前の記憶もあることから、楓は天才少女と周りから称されていた。


 転生者として、魔法や超能力がないのならこれぐらいはいいだろう。

 せめて生前の記憶を活用し、凄いと言われても。

 そんな生活もかなり充実したもので、家族仲もよく、学校では頼られる存在となっていた。なに不自由なく、本当に充実した日常。

 ……だが、それでもどこかつまらないと思ってしまう。


「ぐへへ……可愛い女の子達のイチャイチャを見れて眼福だったなぁ」


 転生した地球の外見レベルが二次元の美少女並みに高いため、秋太郎にとっては癒しであった。

 生前も美少女の絵を描いたり、アニメなどを観て癒されていた。

 

「さて」


 今日も今日とて、秋太郎は楓として学校へと向かう。


「いってきます」

「いってらっしゃい、楓ちゃん。今日も早いのね」


 母親である涼佳は、三人の子供を産んでいる母親とは思えないほどの美人だ。

 いつも笑顔を絶やさず、誰よりも早く家から出ていく秋太郎を必ず見送ってくれる。

 

(生前は、こんなことなかったから普通に嬉しい気持ちになるな)


 秋太郎は学生の頃は、家族仲は悪くはなかったが、毎日のように見送りなんてなかった。

 更に兄妹がいなかった秋太郎にとっては、上に兄と姉が居ることで自然と嬉しい気持ちになる。

 

「しかも、兄は女装趣味の男の娘だからなぁ」


 からかいがいがある人見知りな可愛い兄と、ちょっと天然が入ってる姉。

 しっかりものの妹である自分は、苦労が絶えない。

 

「あ、そういえば今日は兄さんの誕生日会に学校の後輩と友達が来るんだったっけ」


 昔の兄だったら誰かを誕生日会に呼ぶなんてことはしなかっただろう。

 今年になってからだ。

 兄である涼は、徐々に人見知りがなくなり、自分に自信がついてきているように見える。


 その原因は、毎日のように話題に出てくる零という後輩。

 秋太郎は、まだ名前や話に出てくる情報しか知らない。

 

「……どんな男かね」


 少し楽しみになった秋太郎。

 いったいどんな人物なのか。

 そんなことを考えながらいつもの日常を過ごし、放課後となった。

 そして、秋太郎はある意味運命の出会いをする。

 最初は、なんだか不思議な雰囲気のある男として思ってなかった。

 しかし、調べれば調べるほど、関われば関わるほど気になってしょうがない存在へと変わっていく。

 恋ではない。

 それは絶対だ。

 だが、なぜか目が離せない。


 そうしているうちに、完全にストーカーと化してしまう。

 このままでは、いつか通報されるか、変な子扱いされてしまうのでは……そう思っていたのも束の間。

 突如として、背後から謎の青髪少女に声をかけられたと思えば、ぐいぐいと背中を押され、零が住むアパートの玄関先まで連れていかれる。

 どうしようとおろおろしていると、がちゃり……ドアが開く。

 

「あっ」

「えぇ……」


 終わった。

 その時は秋太郎も観念した。

 完全に尾行がばれており、いい加減我慢の限界だった零にこのまま説教され、警察に通報されるのだろうと。

 珍しくびくびくしていた秋太郎だったが。


「……俺は、いやこの場に居る者達全員。君の正体を知っている」


 予想外の展開だった。

 今まで自分だけが特別だと思っていた秋太郎だったが、上には上が居たとこの時心の底から実感した。

 それと同時に……今までの枷が全て解き放たれた瞬間でもあった。

 

「いってきまーす!!」

「あら? 最近はなんだか元気がいいわね」

「そう? 普通だと思うけど」


 それからと言うもの、秋太郎はことある毎、零達と一緒にいる時は素を出し、今までできなかったことをとことんやるようになった。

 少し図々しい感じではあるが、なんだかんだで受け入れてくれる零。

 

「さーて、今日もいつも通り、日中は頼れる天才美少女を演じて、放課後は……よし、兄ちゃんのところでだらだらとゲームだな! くっくっく!」


 今日も今日とて、転生者の日常は始まる。

 しかし、零達との出会いを通じて、今はいつも以上に充実したものとなっている。

 それは弾むような足取りから容易にわかるほどに……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです 特にみやと零の日常が楽しいかつニヤニヤできて、好きです! 次回も楽しみです! [一言] おっさん... 性別は変わったけど今が1番楽しそうで何より
[一言] 良かったな おっさん
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