第二十七話 次も
「ぬぬぬ……」
あおねは身構えている。
分身を使い、逃げていった者達を捕まえるべく奮闘していたのだが。
やはり相手が相手だけに苦戦している。
かむらやここねも成長し、昔のようには捕まらない。
みや、セリルも同様にかなりの抵抗だ。
そんな中、新たな強敵との対面。
視界に映るのは、気に入ったのかメイド服を身に纏ったエルがマシンガンを構えている姿。
その小さく可憐な姿に似つかない物騒なものを両手に持ち、無表情のまま分身体のあおねへと銃口を向けている。
「エルさん。これは鬼ごっこですよ?」
「そうですよ。さすがに近代兵器を持ち出すのは」
もっともなあおねの問いに、エルは。
―――じゃあ、分身はいいの?
と、頭からプラカードを出現させる。
なんとも奇妙な光景だが、両手が塞がっているがゆえなのだろうとあおねは納得する。
「確かに」
「まあ、鬼ごっこのルールに銃を使ってはならないなんて書いていませんし」
そもそも鬼ごっこにおいて銃を使う状況とは?
そこへ突っ込みを入れたくなる。
しかし、この場にはそんな突っ込みを入れてくる者はいない。
そうなれば、ちょっと天然な子達は……。
「では、納得したところで捕まえます!」
「銃弾の雨だろうと、なんだろうとかかってこいですよ!!」
止まらない。
あおねの言葉にエルも。
―――うむ。ならば見事突破しタッチしてみせよ!!
と書かれたプラカードを地面から出現させ、トリガーを引く。
撃ち出された銃弾。
ゴム弾ではあるようだが、勢いは本物の弾の如し。
・・・・
ん? なんか銃声みたいなのが聞こえるような気がするが。
気のせい、だよな。
猟銃とかじゃない。
なんかこう連続して撃ち出されているような音。
マシンガン、か? いや、さすがにないだろ。
誰がこんな場所でマシンガンを撃つんだ。
それよりも今は。
「ふっふっふ。タッチですよ、セリルさん」
「申し訳ありません、零様……がくっ」
目の前の状況だ。
俺を狙うあおねに対して、みやとセリルさんが全力で護ってくれていた。しかし、その状況も長くは続かず、セリルさんがあおねにタッチされてしまう。
忘れてはいないが、あっこれ鬼ごっこだったと思う瞬間である。
完全にバトルものな展開になっていたが、セリルさんは鬼ごっこだということを忘れておらず、あおねに肩をタッチされ、大人しく膝から崩れ落ちた。
「いやぁ、本当はパイセンから捕まえようと思ったのですが」
最初より分身の数が減っている。
やはり、俺達だけにかまっているわけがないか。おそらく他の分身は、康太達を探しに行ったのだろう。
「さあ、やみや先輩。次はあなたです」
「その力を結構自在に操っているようですが」
「長続きはしないみたいですね」
「その証拠に、最初より小さくなってますよ」
あおねの言う通り、みやが操っている謎の黒いオーラが最初よりも小さくなっている。
ここまで数十分ほどの攻防を繰り広げていたが、徐々に力は弱まっていき、今となっては二回りほど小さくなり、迫力に欠けている。
「そんなことないよ。まだまだやれるから」
いや、どう見てもふらふらだ。
オーラを維持するだけで精一杯のように見える。
「パイセンも今のうち逃げてもいいんですよ?」
何を言うのか。
このまま動いたら一瞬のうちに捕まってしまうのは明白。
やはりというか、なんというか。
こうして俺は改めて実感した。
あおねは……只者ではないと。いつもはハイテンションで皆を楽しませようと動いている少女だが、今のあおねは強者たる雰囲気がバリバリと感じる。
あおねが鬼となった時点でもう決まっていたことなのかもしれない。
「逃げるたってどこに逃げるんだよ」
「ですよねー」
やはり、忍者相手にこういう遊びはだめだな。
なんていうか……勝ち目なし。
「あおね」
「なんでしょうか?」
とりあえず、ここまで来たら俺はみや達の気持ちを尊重し、護られることにする。
そして、遊びにも全力で挑むあおねに俺はこう言った。
「次も、全力で遊ぼうな」
「はい!!」
その後は言わずもがな。
結局俺達は捕まってしまい、希望があるかむら、ここね、エルさんの三人を待つことに。
しかし、十数分後にはここねが。
そのまた数分後にはかむらが。
そして最後にエルさんが捕まり、最初に捕まった康太を入れて全員捕らえられた。
戻ってきた康太はこう言った。
「なんかよくわからないけど、気づいたらあおねちゃんにタッチされてた」
自分ではうまく隠れていたつもりだったようだが、呆気なく捕まってしまいなんとも言えない気持ちになったようだ。
ここねは落ち込んでいたようだが、かむらほどではない。
まるで強敵との戦に負けたかのように、ぐっと拳を握り締めていた。
エルさんは……うん、楽しかったとプラカードを見せ付けてきた。
まあ、一番落ち込んでいたのはみやとセリルさんかもな。
俺のことを護れなかったと。
俺は別に気にしなくてもいいと励ましの言葉をかけ元気を取り戻した感じはあったが、それでも悔しかったみたいだ。
こうして、俺達の全力鬼ごっこは幕を閉じた……。




