第二十四話 いい加減にしないと
十月に入り、より肌寒さが増したような気がする。
俺も寒がりというわけではないのだが、上着にマフラーを装備。
少し長めの赤いマフラーで、背の方にうさぎの耳かのように垂れている。
「ふう……大分冷えてきたな。去年はそこまででもなかったが」
キュアレもこたつなんて買いやがって……まあ、自分の金だからあまり文句は言えないんだが。
俺もなんだかんだでぬくぬくとさせてもらってるからなぁ。
そんなわけで、今日もさっさと帰ってこたつでぬくぬくとするかな。
「幼馴染くーん。今日はこたつでぬくぬくしてよいかねー」
意外と寒がりなみやは、厚着のコートにマフラー、毛糸の手袋までしているが、それでも寒いようで俺に擦り寄ってくる。
小さい頃もよくこんな感じだったな……。
「別にいいが、このまま行くのか?」
「うむ。我が部屋の温まり機械さんが壊れてしまってな。直るまでこたつさんでぬくぬくしたいのじゃ」
実家が喫茶店なのだから熱いコーヒーでも飲めばいいじゃないかと思ったが、こたつって変な魔力があるんだよな。
俺も最初は、そこまでのものか? と疑っていたのだが、いざ試してみると……うん。
今ではこたつに入りながらだらだらするのが日常。
しかも、ここから冬になれば更に寒くなる。
暖房もいいが、こたつも悪くない。なんていうか……安心感? 心が落ち着くというか。
「おや? あそこに居るのは楓ちゃんではありませぬか?」
途中の自動販売機で温かいコーヒーを購入していると、みやが美少女の皮を被っただらしないおっさんを発見した。
どうやら小太りの男と何やら話しているようだ。
楓の方は、笑顔で話し相手になっているようだが、まさか相談にのっているのか?
「事案?」
「まさか……」
もしそうだとしても、周囲には俺達以外にも通行人は居る。
視線が多いところでそんな危ないことをするとは思えない。
もし、やろうとしても俺達が止める。
図々しくて、結構イラっとくるおっさんだが、助けないというわけにはいかない。
「あ、終わった」
缶コーヒーを口にしながらしばらく様子を見ていると、小太りの男はへこへこと頭を下げて去っていく。
その後、楓はスマホを取り出し、何やら親指を高速で動かした後、何気なくこっちへと視線をやる。
俺達のことを視界に入れた楓は、獲物を発見したかのように軽快な足取りで近寄ってきた。
「こんにちは、零さん。みやさん。お二人とも仲良く下校ですか?」
「ふっ。この後はアパートへ直行さ!」
なぜか親指を立ててそんなことを言うみや。
「ほほう。その後はしっぽりと」
「何がしっぽりだ。おっさんが滲み出てるぞ」
「ええ? おっさんってなんのことですかぁ?」
まあ、まだ他の視線がある中で素なんて出さないよな。
「ところで、さっきの男の人は知り合い?」
正直、このまま立ち去りたいところだが、さっきのことが気にならないと言えば噓になる。
能力のテスターとして、人間観察をやっているうちに、こう感覚的にその者から欲が滲み出ていて、それが誰に向けられているのかがわかるようになっている。
で、俺から見たらさっきの小太りの男は明らかに楓に対して何かしらの欲を向けていた。
「知り合いと言えば知り合いですかね。クラスメイトの義理の兄だそうで。その子が、私のことを鬼凄い相談役なんだと自慢したらしく。それを聞いた彼は前々から相談をしに来るようになったんです。まあ、こういうことはよくあることなので、慣れっこですが」
つまり楓は小学校だけではなく、大人の相談も聞いているということか。
とはいえ。
「気づいているかわからないが。さっきの男」
「あー、もしかして私のことをそういう感じの目で見ていた、とかですか?」
気づいていたか。
「それをわかってるなら、どうして」
「大丈夫ですよ。相談にのる時は必ず人が多いところで、そして常に明るい時に。私、か弱い小学生ですから。零さん……守ってくれますか?」
可愛く、そして媚びるような声。
そこに上目遣いもプラスして、俺を見詰める。
「気が向いたら」
「おいおい、そこは俺が必ず! とか決めるところだろ?」
周囲に人がいなくなると途端に素になる。
「本当にピンチな時は助けるが。なるべくそうならないように気をつけろよおっさん。最近のあんたは、ちょっと調子に乗り過ぎだ」
「だって、零さんがなんだかんだで付き合ってくれるから、いっぱい甘えちゃうんです……」
「幼馴染くんは、世話好きだからねー」
別に俺は世話好きじゃ。
『諦めたまえ。君は、すでに私の世話係を全うしているのだよ!! というわけで、早く帰って私の相手をしておくれー』
なんでこうなってしまったのか。
最初は、仕方なくやっていたんだが、いつの間にかキュアレの世話をするのが当たり前かのようになっている。
「……」
「あれ? どうしたんですかぁ、零さん。無言で立ち去ろうとしないでくださいよ」
「とりあえず忠告だけはしておくぞ」
「なんですか?」
隣で、これまた可愛らしく首をかしげる。
「あんまり調子にのりすぎると、痛い目に遭うからな」
「はいはい。肝に免じますよ」
本当にわかっているんだろうな……たく。
「大丈夫! 危険なことがあったら、私達がなんとかしてみせる!」
「達って、俺も入ってるのか?」
「頼りにしてますよ?」
はあ……なんだかなぁ。