第二十二話 肌寒くなったなぁ
秋と言えば。
そんな季節関連の話題が上がり、俺達は現在休日の昼下がりに焼き芋を食べていた。
「秋と言えば、やっぱり焼き芋ですよねぇ」
「そうだな……」
わざわざ街に繰り出して、俺は焼き芋をベンチに腰を下ろして食べている。
隣には、同じく焼き芋を美味しそうに食べているあおね。
赤いマフラーを巻き、ぽへーっとした表情をしている。
そして、逆隣には。
「いやぁ、零さんは本当に優しいですよねぇ。奢ってもらって感謝です」
最近、何かと俺に付きまとってくるおっさんこと白峰楓が両手で焼き芋を掴みながら食べていた。
周囲には、俺達以外にも人が居るので、今は素を出さないで居る。
しかし、素を出さずともその図々しさは健在だ。
ちなみに今日はおっさんが誘ってきたのだ。
電話で一言。
「焼き芋食べたくなった。食いに行こうぜ」
まるで友人と遊びに行く感覚で誘ってきたのだ。
しかも、タイミングを計っていたかのように買い物へ出かける寸前のところでだ。
「焼き芋を食べるっていう目標は達成しただろ。なんで帰らないんだ」
「いやですね、零さん。今日はせっかくの休日ですよ? こんな美少女と一緒に居るんですから、暗くなるまで遊びましょうよ。ね?」
遊ぶことにはなにも言わない。
俺も遊び盛りな高校生だからな。
だが、少女の皮を被ったおっさんがただ遊ぶだけなんて……絶対何かある。
そういう顔をしている。
「心配いりませんよ、パイセン! 何があっても後輩たるあたしがなんとかしてみせます!」
それは後輩の役目ではないと思うんだが。
「ということは、二股デートですか? きゃー、淫らー」
ふっ、甘いなおっさんよ。
俺がいつまでもあんたに振り回される男だと思ったのか?
「お待たせー!」
お? どうやら到着したようだな。
「あ、焼き芋。美味しそうだね」
「すみません。突然呼び出して」
「ううん。丁度暇してたから。楓? 零くんに我儘言って困らせてない?」
そう。俺は密かに兄を呼んでいた。
今日は、女装ではないが、それが良いのだ。
もし女装で来たのなら、完全に俺は男どもに殺意の目で見られるだろう。
「や、やだなぁ兄さん。私は、いい子だよ? そんな誰かを困らせるなんて」
どの口が言うのか。
とりあえずこれでおっさんの図々しさはかなり軽減されるだろう。
「それよりも兄さん。どうして女装してないの?」
「今日は、普通に遊びに来たんだよ。女装なんてしたら意味がないでしょ?」
「いやぁ、女装姿の兄さんを加えて三股デートとかしたら楽しいと思ったんだけど」
「さ、三股って……もう! 何を言ってるんだよ、楓!」
とはいえ、俺に向けられた矛先が先輩に向けられてしまうがな。
すみません……俺もできるだけこの少女の皮を被ったおっさんをどうにかしますから。
「よう、ハーレム主人公。相変わらずモテモテだな」
そんなことをしていると突然康太が現れる。
どこか満足げな表情で。
「なんだ何かと用事があったんじゃなかったのか?」
一応康太にも連絡をしたのだが、用事があるとかで断られてしまった。みやは、店の手伝い。セリルさんとエルさんは退魔士としての仕事だそうだ。
平和だと思っていたが、やはり出ないことはないようで。
数より、質なんだろうか? わざわざあの二人が行くということは。
「その用事が終わった帰りで、お前達を見つけたってわけよ。お? おいしそうじゃん。俺にも分けてくれよ」
「たく……ほれ」
「お、さんきゅ」
食べかけの焼き芋を割り、そのまま康太に渡す。
これで五人か。
まあ、康太は案外ナイスなタイミングで合流したな。
康太も楓の素を知らない者だからな。
「あ、ここね食べます?」
「うむ」
おっと、どうやら六人になったようだ。
相変わらず忍者は突然現れる……。
「かむらちゃーん! どうして僕が編んだマフラーと服一式を着てくれないんだい!?」
「ええい! しつこいぞ! 兄上!! そんな恥ずかしい模様がついたものを着れるものか!!」
……なんか聞き覚えのある声が二つ聞こえたような気がしたが。
「もう向こうに行った」
「いやぁ、相変わらず仲がいいですねぇ」
すでに視界に映らないほど遠くへ行ってしまったようだ。
人々は突風か!? と驚いている。
「うし。んじゃま、俺も参加するってことでいいか?」
俺から貰った焼き芋を素早く食べた康太はぺろっと自分の唇を舐めサムズアップする。
「ああ。人数は多い方が楽しいからな。さて、どこに行こうか」
「やっぱ定番のゲームセンターか?」
「げ、ゲームセンターかぁ。久しぶりに行ってみたいかも」
「やはり大勢とやることと言ったらゲームですね!」
そういえば最近ゲームセンターに行ってなかったな……久しぶりに遊ぶか。
「ふっふっふ。私のゲームテクを皆さんにお見せしますよ」
おっと、おっさんも燃えているようだな。
「よし。じゃあ、ゲームセンターへ」
「しゅつじーん」
ここねの緩い掛け声で、俺達はゲームセンターへと向かうのだった。