第十九話 誰がこんなものを
午後の競技も何事もなく順調に進んでいく。
そんな中、俺は借り物競争に出ていた。
学年別に選ばれし者達が、予め用意されている用紙に書かれたものを手にし、ゴールへと向かう。
一応、平日に行われているが、親が来ている生徒達も居る。
とはいえ、そこまで特殊なものは書かれていないだろう。
そんなことを思っていると康太がいち早く用紙が置かれている場所へと到着し、一枚手にする。
そこに書かれていたのは。
「……」
硬直している。
なんだ? いったい何が書かれているんだ。
が、ふっと笑いこちらへ駆けてくる。
「零」
「どうした? まさか俺が持ってるものか?」
今持っているものは、水筒ぐらいなんだが。
後、プログラムとか。
「いいから来い!」
「お、おう」
まさか、個人の名前を?
いや、それはないはずだ。
だとしたら、俺が何かの条件を満たしていることになる。
親友……クラスメイト……いや、気を許せる友達、とかか?
よくわからないが、俺は康太と共にゴールを目指す。
そして、なんとかギリギリのところで一位を獲得した。
「ふう。なんとかなったな」
本当にギリギリだっため、康太は深く息を漏らす。
そんな康太に俺はいったいどんな内容だったのか気になって問いかけてみた。
「ああ。これか? ほれ」
康太が硬直するほどの内容。
それを恥ずかしげもなく見せてくる。
「……」
用紙に書かれていたのは……心の友。
先生よ。
あなたはいったい何を書いているんですか。他の生徒達のものは、めがねだとかキーホルダーとか簡単なものなのに、なぜこれだけ。
そういえば、一枚だけシークレットがあるとか言っていたような。
「な?」
な? じゃないって。
……まあ、悪い気分じゃないけど。
「これを見た瞬間、なんだこれ!? って思ったけど。迷わずお前だって思ってよ」
「よくもまあ、恥ずかしげもなく」
「んだと、本気で思ってんだぜ?」
そう言って、肩に手を回してくる。
「はいはい。嬉しいですよ」
「もっと嬉しそうにしろよー!」
しかし、この内容から察するに。
一レース毎に、こんな変な内容の用紙が紛れていると考えると……。
まあ、借りられるものばかりだと言っていたし、大丈夫だよな?
そんなこんなで、みやの番となり。
またもや俺のところに。
「また俺か」
「そう、また君さ! さあ、仲良くお手々繋いでゴールへゴー!!」
せっかく戻ってきたのに、また俺。
今度はいったいどんな内容なんだろうと思いながら再びゴールへ。
一位を余裕で獲得した後、康太の時のように内容を確認すると。
「大事な人!」
だからなんでこんなものが。
まさか先生、人との繋がりに飢えているのか?
俺の時が心配になりつつも、ここまで連続して一位を取っているので、やるしかないと気合を入れる。
「さあ、どんとこい!!」
他の走者達を大きく突き放し、用紙が置かれたテーブルへと到達した俺は内容を確認する。
「……マジか」
なんという確率だ。
康太、みやに続いて俺もシークレットを引いてしまったらしい。
だが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
俺は、真っ直ぐ白峰先輩のところへと駆けていく。
どんどん近づいてくる俺に、先輩はぼ、僕? と戸惑いを隠せない様子だ。
「白峰先輩。一緒に来てもらえますか?」
「あ、うん」
ちなみに、俺達との仲はそれなりに知られているので、他の二年生方からもそこまで気にされなかった。
しかし、どんな内容だったのだろうとは思われただろう。
「ね、ねえ零くん。どんな内容だったの?」
先輩も気になっているようで、一緒にゴールを目指しながら問いかけてくる。
「一番好きな先輩です」
「あっ……えっと……あ、ありがとう」
なんて眩しい笑顔なんだ……。
それにしてと、内容的に最初の二人よりまだ控えめのほうだが、これまた大雑把なものだ。
これ、本当に先生が考えてるのか?
まさか誰かがすり替えていないだろうな……。
「まさか」
そこで思い浮かんだのは、あおね達だった。
彼女達だったら、気づかれずすり替えるなど容易だろう。
が、証拠もないのに疑うのはだめだ。
いくらなんでも……。
「パイセン! やっぱりそういう趣味だったんですねぇ!!」
「……ん?」
一瞬、あおねの声が聞こえたような気がしたが。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもありません」
うん。気のせいだろう。
俺は、そう思うように力強く頷きながら白峰先輩と共にゴールするのだった。