第十八話 青春の汗
「ふう……なんだかんだで皆やる気だな」
体育祭なんて、と言う者が多かったが、実際始まってみると、そのほとんどががむしゃらに体を動かし、汗を搔いている。
俺も、こういうイベントは久しぶりな気がするからつい力が入ってしまった。
「それにしても、白峰先輩も結構頑張ってるよなぁ」
と、二年生が綱引きをしている光景を眺めながら康太は呟く。
白峰先輩が居る二年一組と三組との勝負だ。
どちらも全力で綱を引いており、中々動かない。
白峰先輩も、自分なりに全力で取り組んでいるようで顔が赤くなっている。あれはよほど力を込めている。
「先輩も、今を楽しんでいるんだろ」
「俺もなんだかんだで、頑張ってるからなぁ」
そういえばそうだった。
当日になって、いきなりやる気を出して……何か良いことでもあったんだろうか。
「……ん?」
なんだろう。
誰かに見られているような。
そういえば、あおね達は応援に来るって言っていたけど……どこに居るんだろう。
周囲を見渡しても、それらしい姿は見えない。
あおねのことだから、変装してどこかに居る可能性がある。
……まさか、屋上とかじゃないよな。
そう思い、俺は学校の屋上付近へと目をやる。
「まあ、いないか」
「何が?」
友達と話していたみやが隣に並びながら問いかけてくる。
「いや、あおね達が屋上で応援でもしているんじゃないかと思っただけだ」
「あー、ありえそうだよね。こう、チアの衣装着て!」
「チアか……うん、実に滾る!」
「あおねだったらやりそうだが」
ここねもいつもの調子で着るんだろうなぁ。かむらは……恥ずかしがって着ないか。
セリルさんやエルさんも応援に来るって言っていたけど。
さすがにチアの衣装は着ない、か?
「お? 白峰先輩のクラスが勝ったみたいですな」
「えっと、次の競技が終わったら、昼休憩だったか?」
「プログラム通りだったらそうだな」
「今のところ一年トップだけど、油断はできない! 午後からは他の二組が覚醒して我らに襲い掛かってくるのじゃ!!」
さすがにそんなことは……この世界だったらなくはないと思ってしまうが、ないだろうん。
『フラグが』
で、出たなフラグ神。
『立たない、かなぁ』
さすがに立たなかったか。
『立ったほうが面白いんだけどなぁ』
こっちは全然面白くないんだが。
『はっ!?』
『どうした? ゲームのほうのフラグが立ったのか』
などと適当に答えると。
『なんでわかったの!?』
どうやら当たっていたようだ。
「よーし! 昼食食べて午後も元気よく頑張るぞよー!!」
「ここまで来たんだ。俺も最後まで頑張るぜ……!」
午前の競技は全て終わり、昼休憩となった。
昼、か。
俺は今朝のことをつい思い出してしまった。
「そういえばお前、随分と立派な弁当持ってきたけど。どんだけ気合入ってんだ?」
生徒達はそれぞれ昼食を食べる場所を決め、いそいそと準備をする。
俺は、みや、康太、それに白峰先輩の四人で食べる約束をしていたんだが。
「……いや、これは」
俺に手にあるおせちでも入っているんじゃないかと思うほど大きな箱。
実際、弁当箱を開けると、そこには定番の卵焼きやからあげ。他にも手の込んだおかずがぎっしりと入っている。
「わあ、凄いね」
白峰先輩も自分の弁当を持ってきているようだが、それと比べたら完全に場違い。
先輩のなんて、よくあるおかずと白飯を分けるタイプだ。
「皆。食べるか? 実はこれ、セリルさんが今朝渡してくれたものなんだ」
俺が、自分の弁当を作ろうとした時だった。
朝早くからインターホンが鳴ったので、誰だ? と出てみたら。
セリルさんが、大きな弁当箱を両手で大事そうに持ちながら玄関の前で待っていたのだ。
どうやら俺のために弁当を作ってくれたようで。
多ければ、皆で分けてもいいとのこと。いや、多すぎですよセリルさん。
「ほう、やりおるな。あの聖女様」
「食べていいなら、貰うぜ! さっそく卵焼きを!」
「じゃあ、僕も。ありがとうね、零くん」
「良いんですよ。それに、俺一人じゃ絶対食べきれないですし」
気持ちは嬉しいけど、もう少し加減をしてくれませんか?
味は最高ですけど。
お? この卵焼きだし巻きか。
『もぐもぐ……いやぁ、私の分まで作ってくれるなんていい子じゃねぇ』
そうなのだ。俺の分だけでも随分と手間がかかったはずなのに、キュアレの分まで作ってきてくれたのだ。
神様の口に合うかわかりませんが……と不安そうだったが、美味しく食べてくれているようだな。
「確かにおいしい……このチーズ入りハンバーグ。冷凍かと思いきや手作り! 形もかなり均一にしてて、中のチーズの濃厚さときたら……むむむっ」
さすが喫茶店の調理担当。
まるで、観察するように。それでいて美味しく食べるのを忘れずに。
「いやぁ、セリルさんって凄いよなぁ。美人で、スタイルも抜群。人当たりもいいし、料理もできる! 弱点とかあるのかね?」
と、肉団子を口に運びながら言う康太。
弱点、か。
少し性癖があれだが、確かに弱点っぽいものがありそうには見えないよな。
「くっくっく。必ず弱点はある。見つけ出してやるぞよ!」
「お、おう。いつになくやる気だな、みや」
「もちろんだとも!」
セリルさん達は、今頃何をしてるんだろうな……。