第十七話 遠くから応援
零達が体育祭で奮闘している頃。
東栄高校の屋上には複数の影が。
「はあん……! さすが零様です! なんて素晴らしき俊足! みやさんが邪魔ではありますが、ルールだから仕方ないとここはぐっと我慢します!!」
望遠鏡を食い入るように覗くセリル。
零の走る姿に興奮しながらも、ペアであるみやがどうにもくっつき過ぎだと嫉妬の炎を燃やしている。
「まあまあ、あまり殺気を出していてはバレちゃいますよ?」
その隣では、チアリーダーの恰好をしたあおねが双眼鏡を覗いていた。
「あおねちゃん。いつの間にそんな恰好を」
「ふっ、応援と言えばこの恰好です。この日のために丹精込めて作りました!」
どうですか! とばかりのその場でくるっと一回ターンする。
下着が見えるか見えないかのギリギリを攻めたスカートに、袖のない服。
今日は、まだ暖かいが、中々寒そうな恰好だ。
ここねも同じものを着ているが、布面積を増やしてほしかったとホットレモンティーを飲みながら思うのだった。
「ちなみにかむらちゃんにも用意したのですが」
そう言って、かむらの体系にしては小さいチアリーダー衣装を取り出すあおね。
「そういえば、かむらちゃんの姿が見えないですね」
今日は、かむらが護衛と監視の任につく日なのだが、姿がどこにもない。
かむらの性格上、任務を何も言わずにサボることはないはずだ。
「たぶん、他の場所で静かに応援してるんじゃない?」
「ありえますね。かむらちゃん恥ずかしがり屋さんですからねー。そうだ! セリルさん! 代わりのこの衣装着ませんか!?」
「え? そ、それを?」
かむらですら小さいと思われる衣装なのに、それをセリルの体格で着るというのは……。
「あおね。さすがに小さ過ぎない?」
「い、いえ! 零様を応援するために私は! むしろ、これを着た姿を零様に見せ付けて……はあ……! はあ……!」
衣装を手に妄想の世界へと入り込んだセリルの表情はそれはもうだらしないものだった。
「ところで、本当にあたし達の姿は見えないんですか? セリルさん」
妄想の世界で暴走しているセリルに問いかけるが、耳に届いていないようだ。
「そして、跨ったまま、頑張れ、頑張れと零様を応援しながら……じゅるっ」
「おーい、セリルさーん!」
「え? あ、はい。なんでしょうか?」
「ですから、あたし達の姿は本当に見えていないんですかって」
屋上に居るとはいえ、完全に見えないというわけではない。
想像してみてほしい。
体育祭で、汗を流しながら協力しあって、優勝を目指している中。ふと、学校の方を見るときらりと太陽の日差しで光る望遠鏡を発見。
しかも、なぜかリアリーダーの恰好をした者達がこちらを食い入るように見ている。
もしそんなことになってしまえば、せっかく楽しんでいる零達の邪魔をしてしまう。あおねは、それが心配で気が気ではないのだ。
「大丈夫です。私の術は完璧! こちらからはちゃんと見えますが、あちらからは人っ子一人いない屋上にしか見えないでしょう」
「おおー!」
「じゃあ、こんな恰好をしてても」
「問題ナッシングってことですね!」
「ちなみに、防音の結界も張っておりますのでいくら叫んでも問題はありません。あ、そうそう。零様の雄姿はちゃんとシスター達にこっそりと撮ってもらってますから」
それを聞いたあおねはならば! と先輩方ファイト! と書かれた旗を持ち出し力いっぱい振る。
「頑張れー! 頑張れー!! 先輩方!!」
「負けるなー、負けるなー」
続くように、頑張れと書かれた扇子を両手に持ち、淡々と応援するここね。
それを見たセリルは、チアリーダー衣装の意味は? とは突っ込まず、負けてられない! とまるで魔法かのように一瞬で貰った衣装を身に纏った。
「くっ! やっぱり胸の部分が……それに、下着も見えそう……で、でも!」
恥じらいなどなんだと言うのだ。
セリルは、長い髪の毛をポニーテールに束ねた後、メガホンを口元に近づけ。
「フレー!! フレー!! 零様!!!」
必死に零のことを応援するのだった。
明らかに異質な光景だが、零達には一切聞こえないし、見えていない。
しかし、三人は応援をするのをやめない。
聞こえなくてもいいのだ。
その気持ちが大事なのだからと。
「……チアは?」
居てもたってもいられなかったかむらは、背後で静かに突っ込みを入れた。