第十話 寒気?
遅くなりました。
もしかしたら、明日も遅くなるかもしれません。
「ふむ」
漫画やライトノベルなどが大量に並べられた本棚。
美少女のポスター、フィギュア。
一人で過ごすには少し広い部屋で、白峰楓は机に向かってペンを走らせていた。
そこに描かれていたのは、零だ。
ささっと描いた程度だが、なかなかの完成度。
そんな絵を見ながら、楓はペンを回す。
何度も何度も回しながら、思考する。
「やっぱり何かある……」
そう呟いた刹那。
ドアをノックする音が響く。
「楓ちゃん。ちょっといい?」
姉の風子だ。
楓が一言いいよと伝えると、静かにドアを開け入ってくる。
「どうしたの?」
くるっと椅子に座ったまま風子の方へと楓は体を向ける。
「えへへ。今日も絵を見せてもらおうと思って」
「うん、いいよ。丁度三枚描けたから」
風子の願いに、楓は机の端に置いてあった三枚の用紙を渡す。
それを受け取った風子は目を輝かせながら確認していく。
「おお。今回の女の子は、結構エッチな格好なんだね」
「この間まで夏だったからね。ちなみに三枚目は秋をイメージしたなんだけど。どう?」
楓に言われ、風子は三枚目の絵を確認する。
「なんだか背伸びをしている女の子って感じだね」
描かれていたのは、金髪のツインテールが特徴的な少女。
白いセーターに、赤いスカート。
すらっと伸びた両足にはガーターベルトが伸びており、ニーソックスと繋がっている。
恥ずかしがっているようで、頬を赤く染め、どう? という視線を送っている。
「いいよねぇ。好きな人のためにちょっと大胆になる女の子」
「相変わらず、楓ちゃんの女の子への愛は凄いなぁ」
「姉さんのことも愛してるよ」
「おうふっ! ストレートな言葉にお姉ちゃんのハートが……!」
妹の言葉に、オーバーリアクションでその場に倒れる風子。
が、すぐに起き上がり三枚の絵をテーブルに並べ始めた。
「ねえ、楓ちゃん。楓ちゃんはやっぱり漫画家になるの?」
「どうだろう。それも将来的にはありかなって思ってるけど」
「絶対なったほうがいいよ! もしなったらお姉ちゃん応援のためにいっぱい買っちゃうから!」
「応援してくれるのは嬉しいけど。簡単じゃないんだよねぇ、漫画家って」
どこか遠くを見詰めるような瞳で、楓は言う。
そんな様子に、風子は首をかしげながら、再び絵を見る。
「本当にうまいよねぇ。楓ちゃんって幼稚園の頃からめちゃくちゃ上手かったよねぇ」
「そう?」
「そうだよ! しかも頭もよくて、礼儀正しくて、さらにさらにこんなに可愛い! もう完璧美少女だよ!!」
「あはは。そこまで褒められるとさすがに照れちゃうな」
照れる楓ににこにこと満足げな笑顔を振り撒きながら、ふと風子は机へと近づいていく。
「これ……零くん?」
「あ、わかっちゃう?」
ささっと描いた絵だが、すぐ零だとわかってしまうようだ。
すると、風子は何かに気づいたようで嬉しさ半分、心配半分な絶妙な表情で口を開く。
「も、もしかして楓ちゃん。零くんのこと……す、好きになっちゃった?」
「そう思う?」
「だ、だって最近楓ちゃんって零くんとよく関わってるでしょ? 連絡先交換したり、一緒にスケッチに行ったり、涼くんにも色々聞いてるよね?」
相変わらず情報が早い姉だと、思いつつ楓は色を塗っていく。
「大丈夫だよ。そういうのじゃないから。ただ」
「ただ?」
「ちょっと気になるなぁってだけ」
「それってやっぱり!」
「だからぁ、そういうのじゃないってば。それに、私に好きな異性なんてできないって」
「そ、そんなことないと思うよ? 楓ちゃんだって女の子だし。絶対将来好きな人ができて、結婚して、子供を作って」
風子の家族に対しての愛をひしひしと感じつつ、楓はにっと笑みを浮かべる。
「そう。男を好きになるなんてことは……あるわけねぇよ」
「え? なにか言った? 楓ちゃん」
「ううん。なんでもないよー。よぉし、今度零さんに悪戯でもしてみようかなぁ」
そんな意味深な言葉に、風子はまたもや慌てる。
「や、やっぱり楓ちゃん零くんのことが!?」
「だから、そんなんじゃないってば」
・・・・
「……なんだろう、変な寒気が」
「秋だからねぇ。明日の夕飯はおでんにする?」
「なんだよ、お前が作ってくれるのか?」
「零が作って~。具はおまかせでー」
夕飯を食べ、風呂に浸かり、今はキュアレと一緒にゲームでモンスターを狩っていた。
すると、突然妙な寒気が襲ったのだ。
湯冷めでもしたか? と思ったが、そういうのではないような気がする。
「それにしても、最近は平和だねぇ」
そんなことを布団の上でごろごろしながら呟くキュアレ。
「平和が一番だよ。そもそもこれまでがおかしかったんだ」
能力を授かってからというもの、徐々に日常は非日常へ。
しかし、夏休みが終わってからというものそんなことは嘘だったかのように平和だ。
まあ、神と同居している時点で非日常なのは変わらないけど。
「あっ! 尻尾! 尻尾斬れた!」
「そろそろ弱ってきたな。捕獲するか?」
「もちろん! おらぁ! 玉だせぇ! 玉ぁ!!」
とはいえ、今の俺にとってはこれが日常なんだよなぁ。
これが日常……。
「うひゃ!? こ、こいつ瀕死だっていうのにまだ暴れるんだけど!?」
ふと、俺の脳裏に今の日常の終わりがよぎる。
今の日常は、能力のテスターをやっているからだ。だけど、もしテスターとしての役割を終えたら……。
「ちょっとちょっと! 止まってるんだけど、零」
「あ、悪い」
キュアレも、俺のサポートってことで今はここに居るけど。全てが終わったら神界に帰るんだろうな。
「よっしゃー! 捕獲完了! さーて、玉出たかぁ、出たかなぁっと」
なんだかんだで、こいつとの生活を楽しんでるんだな、俺。
「で、出ない……」
「まあ低確率だからな。もう一回やるか?」
「やるー!」
いつ終わるのかはわからないけど。その時が来るまで、この日常を楽しむとしますか。
「零ー、アイスー」
「自分で取ってこい」
「けちー」