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第七話 転生者

「おー! おひさー。やっと連絡してくれたんだ。どうせ、電話の着信とか気にしてなかったんでしょー」


 夕飯の準備をしていると、キュアレの声が聞こえた。

 フライパンでジュウジュウと肉が焼ける音よりも大きく。

 どうやら知り合いから電話がかかってきたようだが。

 キュアレの知り合いと言えば、同じ神様しかいない。

 いや、最近だとみややあおねとも交流を持っているが、久しぶりということなので違うだろう。


「え? こっちは元気だよ。神界に居るよりも楽しくやってるー」


 甘辛なタレがよく染み込んだ豚肉をひっくり返す。

 十分に焼けたのを確認し、俺は千切りキャベツと共に皿に盛る。

 そのまま手に持ちキュアレが居る部屋へと向かうと。


「それはそれは。やっぱりてんちゃんは天才だねぇ」


 電話の相手は、てんちゃんというらしい。

 本名か、愛称かはわからないが。

 テーブルの準備をしてくれと頼んだのに、それをせずにだらだらと寝転がりながら会話に夢中である。


「おい、テーブルは?」

「あっ」


 やっぱり忘れていたな。

 俺に言われ、キュアレはスマホを一度置き、いそいそとテーブルを準備する。

 そして、それが終わると。


「それで、今はこっちはねぇ」


 また会話を開始した。

 いや、止めろよ。

 そう思いながら、俺はテーブルの上に皿を置く。

 

「飯の時間だ。電話をやめなさい」

「もうちょっとだけだから!」


 完全に子供がよく言う言い訳である。


「今すぐやめないと飯なしだぞ」

「なんと!? あ、ごめんてんちゃん! 今から夕飯だから! また後でかけるね! そうだ! どうせだったら、今度うちにおいでよ! 歓迎するよー、じゃ!」


 なんか勝手に自分の家みたいな感じになってるんだが。

 

「よし! ご飯だご飯! 白飯ー!」

「おい、勝手に変な約束するなよ。というか神様が勝手こっちに来ていいのか?」


 俺は炊飯器から白飯を椀に盛りながらキュアレに聞く。


「別に変なことじゃないよ。私以外にも昔から神様なんてちょいちょい来てるし」

「そういうもんなのか」

「そういうもんだよ。今の私のように肉体を持ってね」


 ということは、今もどこかで神様が肉体を持ってうろうろしてるんだろうか。


「で、話は変わるが。さっきのは例に転生神か?」

「そ」


 やっぱりそうだったか。

 

「じゃあ、例の転生者については当然聞いたんだよな」

「……」


 俺の質問に、キュアレは箸を止める。

 ……うん、まあ会話が丸聞こえだったからわかってはいたが。


「い、今聞く」

 

 そう言って、箸を置き素早くスマホを操作する。

 それからしばらくして、なんとか情報を引き出すことができたようで。


「どうやら私達の予想は当たってたみたいだよ。白峰楓。彼女は……もうひとつの世界。つまり三次元世界から転生してきたんだって」

「三次元世界から?」


 転生者だってだけでも凄いことだが、まさか関わることがないと思っていた三次元世界からの転生してきたとは。

 

「あむ……んぐ。それで、どうして転生させたのかだけど。なんかあっちの世界で結構な有名人らしくてさ。人生これからだー! て時に死んじゃったみたい」

「有名人か。俳優とか?」


 味噌汁をすすり、ほっとしたところでキュアレは俺に問いに答える。


「いや、どうやらその人漫画家なんだって」

「漫画家……まさか、転生した理由ってその漫画家のファンだったからとかそういうのじゃないよな?」


 キュアレの話だと、転生専門の神様もよほどの二次元好き。神界ではよくキュアレと共に遊んでいたみたいだし。


「……」


 しばらくスマホを見詰めた後、キュアレは静かに口を開いていく。


「そういう感じもあるかも! だって」

「……あ、そう」


 あまり転生させない神様だったらしいし、久しぶりの転生を個人的な理由でやっちゃえー的な感じだったのだろうか。

 そもそもどうしてあまり転生させないんだろう。

 異世界ものだとほいほい転生させてるけど。


「ちなみに、記憶のほうはバッチリ引き継がれてるみたいだね」

「てことは、自分が死んで転生したってことは理解してるってことか……」

 

 漫画家らしいし、その辺の知識はちゃんとありそうだよな。

 となると、前世の記憶を持ったまま今は第二の人生を謳歌してるってことか。

 しかも、女の子で。

 

「まあ、こっちの世界は色々と混ざった感じだからね。転生者がいても別段おかしくないでしょーってさ」

「まったく、好き勝手し過ぎだろ……」

「それでどうする?」

「なにが?」


 俺は、ため息を漏らしながら味噌汁をぐいっと流し込む。


「こっちから接触する?」

「なんでそうなる」

「だって、情報知っちゃったし」

「知ったからなんだ。ただ知っただけだろ。彼、いや彼女は別段なにをするでもなく第二の人生を楽しんでるみたいだし。そのままでいいだろ」


 こっちの世界に巻き込むのはどうかと思うんだ。


「まあ、零がそれでいいならいいけど」

「ああ、それでいいんだ」


 せっかく転生したんだ。

 前世でできなかったことを……できるかわからないけど。ともかく! 楽しんでもらいたい。

 俺は、ひっそりとそれを見守る。転生者だということを胸に秘めて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 45歳漫画家おじさん、人生絶頂を前に女児転載する。〜転生先の兄が男の娘過ぎて最高です〜……ありそうだなぁ、この作品……。
[一言] ひっそり出来るのかなぁ
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