第五話 百合の防衛
「いやぁ、美味しかったですねぇ」
みや、あおね、ここね、かむらの四人はとあるスイーツ店にて仲良く甘い甘いスイーツを食べ、満足げな表情を浮かべていた。
「リサーチは完了ぞ。次は、零を誘っていざ行かん!」
「お土産もたくさん」
「まあ、たまにはいいかもな。こういうのも」
更なる親睦を深めるという目的で、あおねが提案。
新しくできた店へと女子だけで突撃した。
セリルやエルも誘ったのだが、丁度外せない用事があるということで断られてしまった。
「喧嘩するほど仲が良いとは言いますが、やはり喧嘩はあまりよくありません。みや先輩……特に表のみや先輩とセリルさんの仲を改善したいと思って計画したのですが」
「いやぁ、すまないねぇ。気を利かせちゃって」
「いえいえ。やはり仲良く、そして楽しく! それが楽しい生活を送るためには必須ですから!」
それに、とあおねは顔を赤らめ乙女のようにもじもじと身を揺らす。
「あたし、みや先輩のこと大好きですから!」
「あ、あおちゃん……!」
「きゃっ! 言っちゃいました!」
「私も、あおちゃんのこと大好きだぞー!!」
「わーい!!」
二人は、周囲の目を気にせず熱い抱擁を交わす。
それを見て、ここねとかむらはまたか、と見慣れた光景のごとく見守っていた。
「あっ」
「どうしたんですか? ここね」
周囲に百合の波動を飛ばしている中、ここねが声を漏らす。
「零が、楓と連絡先交換したみたい」
「ほほう。これは、浮気ですかな?」
「浮気もなにも、零は誰とも付き合っていないだろ」
「ついで、康太も交換したみたい」
「楓ちゃんって、白峰先輩の妹さんだったよね」
現在、ここねの分身が遠くから零の監視と護衛をしている。
あおね達は、自分の分身と感覚を共有できるため、携帯電話よりも迅速な報告ができるのだ。
「で? どっちから連絡先の交換を提案したんですか?」
「楓からみたい」
「ほうほう」
「そういえば、楓ちゃんって転生者? なんだよね」
零が能力により見た情報は、みや達にも知らせている。
そのため、小学生に手を出すつもりか!? という疑いもされないで済む。
四人は、何か目的があるんじゃないかと思考する。
「元が男という話だが」
「今年で四十五歳です」
「見た目が小学生の女の子なのに、四十五歳……」
「しかも中身はおじさん」
「精神的にはどうなんでしょうね? 前世の記憶とか」
真面目に話し合っていると、四人に近づく二つの人影が。
「やあ、君達」
「もしかして学校の帰り?」
制服を着た男達。
一人は、カチューシャをした茶髪。もう一人は、帽子を逆に被った黒髪。
四人は、すぐ察した。
ナンパか、と。
「あ、はーい。そうなんですよ」
まず、あおねが笑顔で対応する。
すると、カチューシャの男が人の良さそうな笑顔を振り撒きながら口を開く。
「ねえ、もし暇なら俺達とカラオケでもどう? ほら、明日休みだしさ」
「実は、バイト代が入ったばかりで結構金があるんだ、俺達」
もちろん四人は、そんな誘いなどにはのらない。
これから、用事があるのだ。
「なんだったら、カラオケの前に」
さっさと断って、零のところに突撃しようと思った刹那。
「あ、れ?」
「な、なんだ……眠く……」
突然の眠気に襲われたようで、ふらふらと危うい足取りになる。
「大丈夫ですか?」
「まさか熱中症か? おい、しっかりしろ」
そこへ、どこからともなく男二人が現れ、学生達を連れていった。
・・・・
「よくやった。その男達は、離れた場所で起こすように」
霧一は無線を片手に、望遠鏡を覗いている。
その視線の先には、みや、あおね、ここね、かむらの四人の姿が映っていた。
「ふっ、百合の園に介入しようとは。愚かな男達だね」
無線を切ると、霧一は静かに笑みを浮かべた。
「ところで隊長。やはり遠くから狙撃したほうがよかったのではないでしょうか?」
と、ライフルのスコープから目を離し、男が問いかける。
「それはだめだ。相手は民間人。なるべく傷つけない睡眠針を打ち込むのがベストだ。む? かむらちゃんが、周囲を見渡している。やはり気づいたんだね。さすがかむらちゃんだ。あおねちゃんも、ここねちゃんも気づいているようだね」
「しかし、隊長。であるなら、どうしてライフルを?」
続いて、ポニーテールの女が霧一に紙コップに飲み物を入れ、手渡しながら問いかける。
「保険だよ。もし、民間人以外の邪魔者が近づいた時のね」
「なるほど。そこまで読んでの準備だったのですね」
「それにしても、霧一さん……あ、いや隊長がそういう趣味をお持ちだったとは、驚きです」
スコープを覗きながら男は、霧一の意外な趣味に小さく笑みを浮かべた。
「私もです。てっきり妹萌えだけかと」
相手が上司だろうと容赦のない言葉。
だが、霧一はそんなことは気にしていないとばかりに望遠鏡から一度目を離し、語りだす。
「可愛い女の子達が、ああやって笑顔を振り撒き、イチャイチャしている姿を見ていると、癒されるんだ。君達もわかるだろ? 可愛いは正義なのだ!!」
「まったくですね!」
「右に同じ!」
気持ちがひとつになったところで、霧一は再び望遠鏡を覗く。
どうやら四人は移動を開始したようだ。
周囲を警戒しながら。
「うーん、それにしてもかむらちゃんも一層可愛くなった。これで、昔みたいに甘えてくれれば嬉しいんだけど」
「え? かむらちゃん、甘えたことあったんですか?」
「それは初耳ですね」
「もちろん、僕の妄想だけど!」
「なるほど」
「いつも通りですか」