第一話 予想できたか?
「これは、かなりの予想外だ」
「え? なにが?」
俺は、テーブルの上に両肘を乗せ、どこかの指令官かのように構えながら眉をひそめる。
「お前、見てなかったのか?」
いつもなら、テレビ感覚で視界を共有して見ているくせに。
「だから、なんのこと?」
「白峰先輩の誕生日会の時の話なんだが……」
俺は、その時のことを思い出しながらキュアレに語る。
その時、何を見たのかを。
これまでの経験上、能力を使うことで普段は知らないことが知ることができる。
幼馴染が知らぬ間に夜這いしてたり。
後輩が、忍者だったり。
明らかに小学生なのに、年上だったり。
あげれば切りがない。
しかも、最近は能力を使うべきタイミングというか、そういうのがなんとなくだがわかってきた。
これも俺が能力に馴染んできたということなんだろう。
で、ついこの間、白峰先輩の妹である白峰楓ちゃんに能力を使ったのだが……今までにないパターンだった。
「ほう、それでそれで?」
もはや自分の家感覚で部屋に入ってくるあおね。
俺の隣に座り、耳を傾ける。
「……」
そして、いつの間にか部屋の隅に居たエルさんも、逆側に座り込む。
「あ、エル先輩。ちーっす」
律儀にあおねはエルさんに挨拶を交わす。
対して、エルさんはうむ。今日は押し掛けメイドエルさんなので、よろと書かれたプラカードを取り出す。
そう。エルさんはメイド服を身に付けている。
どうやら、今日はセリルさんに言われて昼食を届けに来たようだ。
セリルさんは、大学の友達と買い物へ出掛けている。
なんていうか、セリルさんが上に居る時って異様な気配というか、視線が感じるから、今はちょっと落ち着く。
「それで?」
「ああ。あおねやエルさんは知ってると思うが、楓ちゃんな」
「はいはい。あの小学生とは思えない雰囲気の子ですね」
そうだ。
あの小学生とは思えない雰囲気。
それに違和感を持った俺が能力を使ったら……。
・・・・
「くうぅ……」
「きゃー! 可愛い!! 特のこの袖部分のリボンがいい具合に涼くんの可愛さを上げてる!!」
「私としては、襟部分のレースがいいアクセントになってると思うわねぇ」
凉佳さんと風子さんに連行されてしばらく。
白峰先輩は見事なまでにリオとなって俺達の前に戻ってきた。
着ていたのは、俺が初めて会った時に着ていたものの色違い、か?
いや、ところどころ違うな。
風子さんの言っている袖のリボンや、凉佳さんの言う襟の部分。そしてなによりあの時の服の色は黒だったが、今着ている服の色は白。
まるで、どこかのお姫様かのような格好だ。
「やー、さすが兄さん。可愛いねぇ」
「こんな……皆の前で……」
赤面し、視線を泳がせ、両手を股のところで重ねるその姿は、完全に女子。
長年の女装生活が染み付いているのか。自然と女子の仕草をとっている白峰先輩。
凉佳さんや風子さんは、きゃーきゃー騒ぎながら色んなアングルからスマホやカメラでシャッターを切っている。
「お、おぉ……久しぶりに見たけど、ちょっとどきっとしちまった」
「くっ! 正直、女子であるあたしもどきっとしてしまいました!」
「こ、これほどのものなのか。これならば、潜入任務もできるんじゃないか?」
白峰先輩の女装姿にどきっとしてしまった康太とあおね。かむらは、予想外のできに驚きを隠せないでいた。
確かに、これほどまでの変装ならば男だとはそう簡単にはバレないだろう。
「あら? もしかして、プールの時に居た子って」
女装姿を見て、セリルさんがプールの時のことを思い出したようで、口を開く。
それに対して、白峰先輩はまずいとばかりに人差し指を口に近づけ言わないようにとジェスチャーする。
あー、そうか。家族には海パンを穿いて楽しんだことにしているのか。もし、ここで大胆にも女ものの水着を着ていたなんてバレたら。
その意図を察したのか、セリルさんはわかったとばかりに人差し指を口に近づける。
さて、皆が白峰先輩の女装姿で盛り上がっている中、俺は気になってしょうがないことがある。
それは。
「夏の間は、すっかり女装しなくなったけど。涼しくなれば女装の回数も増えるよね? 兄さん」
「いや、それは……」
「えー? しないのー? 皆さんももっと見たいですよね?」
妹の楓ちゃん。
この子に違和感を感じたので、能力を使ったところ……衝撃の事実が明らかとなったのだ。
これまで、予想外のことを多く経験してきた俺だが。
今回のは、今までにない事例だ。
俺は、今一度能力を使い楓ちゃんを見る。
彼女は、白峰楓。十二歳の小学校六年生。
軽いプロフィールだが、こんな感じだ。
しかし、能力により明らかになった。
彼女は……。
「もう、兄さんってば。恥ずかしがり屋は治ったんじゃなかったの?」
「す、少しだけだよ! それにそれは女装していない時であって」
小学生、ではない。
いや、正確には小学生なのだが。
違うんだ。
俺の目には、彼女の年齢が……四十五歳と見えている。
どういうことなのか最初は理解できなかった。
だが、名前。
白峰楓という名前の上に、なぜかもうひとつ名前が表示されていたのだ。
しかも、その名前は……浅田秋太郎。
明らかに男の名前なのである。
正直、やっちまった感はあると思ってます。
でも、普通じゃだめなんです。
こういう世界観だからこそ、こういうことをやらなくてどうするんだと。
ちなみに、皆さんはここまでの情報でどう予想しますか?