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第三十一話 楽しめ、夏を

七月です。

ここから更に暑くなっていくと思うと……。

 三年ぶりの故郷での夏祭り。

 少し見える景色が変わるかと思ったが、全然変わらない。

 まあ、三年前より身長も大分高くなったので、意外と目立つ。

 

 それに加えて。


「おー、いっぱい居ますね。これは油断してると人の波に流されそうです」

「よーし! そうならないように手を繋ぐのだ!」

「わーい、みや先輩の手だー!」

「もう、離さないぜ?」

「きゃっ」

「楽しそうだなぁ、あの二人」

「いつもよりテンション高いから余計にな」


 三年前と違って、メンバーがすごい。

 以前だったら、俺、みや、康太の三人で楽しんでいた。当然だが、父さんと母さんも一緒だ。

 が、今回は二人とも引っ越し先の家に居るのでいない。

 後で、宗英さんとみなやさんが来る予定だけどな。


「ほ、本当に凄いね。人が多い……」

「そういえば、白峰先輩は今回が初めて、でしたっけ」

「う、うん。今までは、人混みが苦手で、ずっと家に。でも、今年は零くん達のおかげで勇気を出して来たんだけど……」


 それでも、やはり人混みが苦手のようだ。

 

「手、繋ぎます?」


 と、若干冗談混じりに笑顔で手を差し出す。


「いやぁ、そこまでは。僕も、もう高校二年生だからね。いつまでも、人見知りではいられないよ!」


 おぉ、以前の先輩だったら言わないだろう発言が。

 うんうん。

 ずいぶんと男らしくなって……。


『男の娘が男らしくなっちゃキャラ崩壊が……!』

『キャラ言うな』

『キャラは大事だよ?』


 この世界においては、違和感はないのだろうが。


「ふむ。なかなかいいソースを使ってる」

「ですね。こっちのたこ焼きは、ずいぶんとでかいオクトパスを使ってるようで」


 い、いつの間に。

 先輩と会話をしているうちに、あおねとここねがすでに屋台で食べ物を買って食べていた。

 

「へい、幼馴染くん! チョコバナナをお食べよ!」


 そう言って、なぜか食べかけのチョコバナナを渡してくるみや。


「食べかけなんだが」

「なにか問題でも?」

「……いただきます」


 私達の仲だろ? と言う圧に、俺はチョコバナナを受けとり口にした。


「さあ、皆さん! まだまだ屋台は向こう側まであります! 時間が許す限り順番に行きましょう!」

「順番って……途中に、食べ物屋じゃないのもあるんだが」


 康太は、まさか……と眉をひそめる。


「言いましたよね? 屋台、オールコンプリートです!」

「あれ、本気だったんだな」


 まあ、あおねだからな


「エルも、ほら。焼きそばよ」


 衝撃を受けている康太の横で、セリルさんがパックに入った焼きそばを手渡していた。

 それをエルさんは、無言でずるずるとすすっていく。

 半分食べたところで、食べるのを止め、ぐっと親指を立てる。

 あれは……美味しいということなんだろう。


「セリルさんは、食べないんですか?」


 エルさんの分は買っているようだが、自分の分はない。

 それが気になった俺は、セリルさんに声をかけた。


「私は」

「セリルさん」


 何かを言おうとしたのを俺は制す。

 その理由に気づいたセリルさんは、俺が食べていたチョコバナナを見詰める。


「で、ではそれを」

「チョコバナナですね。ちょっと待っててください」


 丁度列が消えたチョコバナナの屋台へ俺は財布を手に移動する。

 そして、購入した後、待っていたセリルさんに手渡した。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 まだぎこちないような気もするが、少しずつ甘えるってことを覚えてくれればいい。

 それからというもの、俺達は祭りを楽しんだ。

 屋台で買った食べ物を食べ、ゲームで遊び、途中で知り合いと会って話をしたり。


「くっくっく。またもや落としました」

「お前って、射的得意だったんだな」

「もちのロンです! ちなみに二丁拳銃などもできますが」

「止めておけ。というか、まだやるのか?」


 すっかり調子にのっているあおねは、次々に商品を落としていく。

 一発も外さないため、すっかり見物客が出来ていた。

 ちなみに、他のメンバーはというと。

 

「くそ! また砕けたぞ」

「康太は、集中力がない。こうやって……ん」

「いやいや、集中力以前に割れやすくないか?」

「そんなことはないんじゃないかな? えっと……よし、できた!」

「先輩まで!? く、くそぉ! 俺だって!」


 康太、ここね、白峰先輩は型抜きに挑戦中だ。

 どうでにも康太はうまくいかないようで、苦戦している。他の二人は、ああいうのは得意そうだとは思っていたが、予想通りだな。


「あら? かむらちゃん。お口にソースがついてるわよ」

「ええい! 自分に構うな!」


 そして、更に少し離れたところでは、かむらがタレが塗られた焼き鳥を食べていた。

 セリルさんは、口についているタレを拭こうとしたが、かむらがそれを阻止。


「ん? なんだ。これが食べたいのか?」


 すると、じっと焼き鳥を見詰めるエルさんに気づいたかむらは、誰がやるかと最初は、無視していたが。


「……」

「……ほら」


 根負けし、焼き鳥が入ったパックを差し出す。東と西の仲を考えて、一緒にさせてみたが……いい感じだな。


「あおちゃんや。次は、あれを」

「ふっ、お任せを。撃ち抜いてやりますよ!」


 っと、他のメンバーを気にしていたら。


「はいそこまで。他の人達の楽しみを奪うつもりか?」

「むむ。確かに……では、この辺で射的は終わりにしましょう。まあ、十分に取りましたしね」

「いやぁ、あおちゃんの射撃の腕は凄いね。忍者って皆そうなん?」


 忍者が射撃をするイメージはあんまりないのだが、実際のところどうなんだろうか?

 商品を丁寧に持ってきたバッグに詰め終えたあおねは、そうですねぇ……と呟く。


「まあ、全員ではありませんが。結構射撃が凄い人達はいますよ。例えば、かむらちゃんのお兄さんとか」


 霧一さんが? ……正直付き合いが浅いせいで、どうにもイメージが湧かない。


「うんしょっと。忍者も現代に馴染もうとしているんですよ。いつまでも昔のままじゃいられませんからね」

「はー、忍者も大変なんだねぇ」

「ま、お前を見てるとあんまりそうは見えないけどな」

「え?」


 俺には想像できない苦労があるんだろうけど。

 あおねを見ているとな……。

 さて、次はどこに行こうかな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだかんだ皆仲良くなって嬉しい。 新しい関係も生まれつつあるようだし。 [一言] みやっち安定のナチュラルいちゃつきですね間接キスなど考慮に値しませんかそうですかそうですよねダイレクトに…
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