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第三十話 目立つ集団

 俺達の住んでいる街で行われる夏祭りは、これといって特別なことはない。

 屋台が並び、人々が集まり、そして花火を見る。

 ただそれだけだ。

 川岸で行われるため、当然川に落ちないように注意をしている。

 

「よし。行くか」

「ちゃんと買ってきてねー」

「はいはい」


 俺は準備を整え、アパートから出ていく。

 すると。


「やーやー、幼馴染くん! 今日は絶好の祭り日よりですな!」

「天気予報では、夕方から雨が降るかもしれないって言っていましたが、やはり予報は予報でしたね!」


 一緒に夏祭りを楽しむメンバーが出迎えてくれた。

 みや、康太、白峰先輩、あおね、ここね、かむらの六人。セリルさんやエルさんは、用事を済ませてから直接祭りの会場へと来ることになっている。


「たく、慶佑の奴。こんな日に風邪を引くなんてな」

「優菜さんは、慶佑くんの看病で来ることができないんだよね」

「あー、残念だ。優菜さんの浴衣姿を見たかったんだが」

「しょうがないだろ? 優菜さんは、慶佑優先。慶佑が苦しんでるのに、楽しむことなんてできないって」


 本来なら、二人も来る予定だったのだが。

 今日の朝に、慶佑が熱を出してしまった。病院で検査したところ、夏風邪と疲労が重なったのだろう、とのことだ。

 そのため、しばらくは安静。

 今は、薬を飲んでベッドの上だろう。


「こうなったら二人の分まで楽しまないとですね。あっ、お土産として何か買っていきましょう!」

「うむ。となれば、やはり定番の焼きそばは外せないね!」

「ですね!」


 確かに。

 直接は無理だが、何か屋台で買っていって雰囲気だけでもってのはいい提案だ。


「んじゃま、早く行こうぜ」

「だな」

「レッツゴー! です!!」

「いえーい!!」


 街を歩いていると、やはり俺達と同じように夏祭りを楽しもうとしている人達が目に入る。

 浴衣を着込んでる人や、ラフな格好でうちわを持っている人。

 屋台で何を食べようかと話している人も居る。


「ところで、幼馴染くん」

「なんだ?」


 俺達も、それぞれどう楽しもうとかと話しながら歩いていた。

 そこで、みやが自分の身に付けている浴衣をちょいちょいと指差しアピールしてくる。


「なにか言うことはないのかね?」

「あっ、かんざし落ちそうだぞ」

「なんと!?」

「ほら、直してやるよ」


 そう言って、俺は長い髪の毛を束ねていたところにあるかんざしを落ちないように直す。


「よし、これでいい」

「あざーす! ってちがーう!」

「ナイスノリ突っ込みです!」

「もう……浴衣! 浴衣に反応しておくんなまし!!」


 むー! と膨れっ面で訴えてくるみやだったが、そこまで不機嫌そうには見えなかった。

 俺は、悪い悪いとみやをなだめながら、浴衣を見る。


 黒い生地でできており、白い花の柄が目をひく。赤い帯でしっかりと浴衣が着崩れしないようにしている。

 シンプルだが、またそれがいい。

 普段の不思議キャラが印象なみやだが、やはり素材が良いため何を着ても似合うし、髪型もポニーテールにしているため、雑誌に載っても良いほどの浴衣美少女だ。


「ナイス、浴衣美少女!」


 ぐっとサムズアップをする。


「浴衣美少女爆誕!!」


 そんなノリにみやもサムズアップをして乗ってくる。


「先輩! 先輩!! あたしは? あたしはどうです?」


 続いて、逆側に居たあおねがアピールしてくる。

 彼女が身に付けている浴衣は、薄い青色の生地で、赤の帯。みやと違うところと言えば、ミニスカ。

 ナマ足をこれでもかというほど見せている。


「めくれないようにな」

「褒め言葉は!?」

「あ、うん。可愛いと思うぞ」

「えー? なんか雑ー」

「そんなことないって。ちゃんと可愛いって思ってるし、スカートがめくれないかって心配もしてるんだ」


 それに。


「その大きなバッグ。久しぶりだな」

 

 あおねが背負っている大きなバッグ。

 最初に出会った時に背負っていたやつだ。最近は、出番がなかったようだが。


「あー、これですか。まあ、オールコンプリートを目指していますからね。両手じゃ足りませんから」


 前は、ぎゅうぎゅうに詰めていたから膨らんでいたが、今回は物が入っていないためかなり萎んでいる。

 が、夏祭りが始まれば自然と膨らむだろう。


「私は、買った瞬間に食べる」


 歩くのがだるくなったのか。

 俺の背にもたれかかるここね。

 あおねとお揃いの浴衣を身に付けており、違うところは翡翠色だというところだろうか。


「食べるのは良いが、ゴミをポイ捨てするなよ」


 注意してくるかむらは、二人とは違い普通の浴衣。

 みやと同じく黒い生地で、帯は黄色だ。

 そして、手には燃えるゴミの袋を持っていた。


「わかってる。それぐらいのエチケットはあるから。もちろん買ったものは残さない」


 ぐっと拳を握り締め決意するここね。

 

「その意気です、ここね! あなたなら必ずやれます!」

「うむ」

「なあ」

「どうした? 康太」


 そろそろ会場である川岸に到着しようとしている頃。

 康太が、周囲を見渡しながら声をかけてくる。


「めっちゃ見られてるんだが」

「……みたいだな」


 何やら、俺達のところに視線が集まっている。

 特に男からの。

 ……あぁ、これは。


「ど、どうしてだろ? 僕達何かやっちゃった、とか?」

「いや、それはないですよ。つーか、原因は一目瞭然だろ」


 康太の言わんとしていることはわかる。

 こういう視線は、前にも味わった。

 そう……プールの時と同じだ。


「浴衣美少女がこんなにも集まってるんだからな。そりゃあ、目立つってもんだ」

「あ、ああ。そういうことだったんだね……」


 白峰先輩も、女装をすれば絶対その浴衣美少女の一員になれていたはずだ。

 今回は、プールの時のようなことにはならなかったようだ。

 また、あの時のように男の娘好きの神様とやらが、無理矢理先輩に浴衣を着させようとしないか心配だったんだよな……。

 個人的には、どんな感じなのかは気になるが、やはり本人の意思を尊重しないと。今日は、リオとしてではなく白峰涼として、楽しんでほしいものだ。


「しかも、ここから更なる刺客が!」

「し、刺客?」


 そんなことを言っていると、その刺客が現れる。


「あ、皆ー。こっちこっち」


 会場の入り口付近で、何やら野次馬ができていた。

 そこから聞こえてくる声を、俺達は知っている。

 

「んー、めちゃ美人!」


 野次馬の中から出てきたのは、セリルさんとエルさんだった。

 赤い色の浴衣を身に纏い、隣を歩いているエルさんは白。二人とも、鮮やかな花の柄がいいアクセントとなっており、並びと画になる。


「先に到着していたんですね。待たせましたか?」

「いいえ。私達も今到着したばかりなの。ね? エル」


 その通りとばかりにエルさんは頷く。

 しかし、セリルさん達まで参加するとやはり目立つな。


「えっと……なんだか目だってる?」

「と、とにかく。出入り口付近だと迷惑になると思いますから。行きましょう」

「え、ええ。そうね」


 とは言ったものの。

 大丈夫なんだろうか。

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[一言] 先輩には悪いが神様仕事してほしかった…
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