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第二十九話 夏祭りに

「……お祖父様」


 とある病室のベッドで眠る白髪の老人。

 まるで起きる気配がない老人の名前は、グラッド。

 セリルの祖父だ。

 

 退魔士として、これまで多くの魔を祓い、人々の日常を守ってきたグラッドだが、やはり歳には勝てなかった。

 それに加え、度重なる戦いの疲労が一気に押し寄せ、今はまともに動けない状態が続いている。


「先ほどまで、起きていらしゃったのですが」


 と、護衛と世話係を勤めているシスターの一人が言う。

 グラッドが入院しているのは、現役の頃に彼の元で働いていた退魔士が院長を勤めている病院だ。

 

「そうですか……」


 親身になって治療してくれていることに、セリルは深く感謝をしている。

 定期的に訪れているが、これまで話せたのは数えるほど。


「容態が悪化したと聞いた時は、気が気じゃありませんでしたよ。お祖父様」


 椅子に腰掛けながら、セリルは呟く。

 その横で、エルは静かに見守っていた。


「私、お祖父様にご紹介したいお方がいるんです」


 ぎゅっとしわくちゃな手を握り締める。

 

「エル」


 セリルの指示に、エルはとある画像が写ったスマートフォンの画面を見せる。

 画像は、零がティーカップを少し気恥ずかしそうに持ったものだった。


「明日部零様と言うんです。本当に、不思議で、眩しくて……とてもお優しい男性なんです」


 聞こえているのかはわからない。

 だが、セリルは語り続ける。


「最初は、彼が眩しすぎて、少し暴走してしまい、嫌われても仕方ないことをしてしまいました」


 エルは、あれは暴走が過ぎた、とプラカードを出す。


「ですが、そんな私をあのお方は仲良くしてくれた。聖女としてではなく、一人の女性として……年甲斐もなくきゅんきゅんしてしまいました」


 気恥ずかしそうに頬を赤らめるセリルを見て、護衛のシスターはうっと苦しそうに声を漏らす。

 それに対して、エルはこれぞギャップ萌えと書かれたプラカードを出す。


「これまで、自分の身を犠牲にして、誰かのためにと頑張ってきましたが。あのお方の前だと、不思議と気が緩んでしまうんです。あ、もちろん周りに居る個性豊かなお友達の方々とも」


 一頻り喋ったセリルは、そっと握った手を離し、立ち上がる。


「では、お祖父様。また来ます。どうか……どうかお元気で」


 祈りを捧げ、セリルは一礼し、病室から出ていった。



・・・・



「さて、明日は待ちに待った夏祭りですね。各々方! 準備はよろしいですか!」


 夏休みもそろそろ終わる。

 そこで、最後の思い出として夏祭りに行くことになっている。

 明日に向けて、俺達は喫茶店に集まっていた。


「にしても、ちょっと遅い開催だよな」


 現在は、八月十三日。

 確か、俺が引っ越す前は、八月の初旬辺りに開催されていたと記憶している。

 なので、康太も言うように今回は遅めの開催となる。


「色々とあったようですよ」

「噂では、夏祭りの開催を妨害している者達が居たとか」

「マジか。そんなに夏祭りが嫌いな人達が……」

「あくまで噂、だよね? もしかしたら、単純に準備に手間取っただけかもしれないよ」


 実際のところどうなんだろうか。

 正直、どこにでもあるような夏祭り。

 川岸で、多くの屋台が並び、人々はそこで花火を見る。昔と変わらないのら、今年もそうだろう。


「まあ、なにはともあれ無事に開催されたんですから。屋台をオールコンプリートしましょう!!」

「おー! あおちゃんやる気満々だね!」

「もちろんですよ、みや先輩。祭りなんですから、楽しまなくちゃ損と言うもの!」


 あおねの場合は、祭りがなくても色々楽しんでると思うんだが。


「屋台をコンプリートって。金は大丈夫なのか?」

「屋台って高いからね……」

「学生にとっても大打撃なのだよ。屋台とは」


 スーパーとかと違って屋台のものは、結構値が張る。

 そのため、バイトをしていない、小遣いが少ない学生にとってはかなりの大打撃となる。

 その分、楽しめれば良いのだが。


「ご心配なく。あたし、結構持ってますから」

『零のは、私が出してあげよっか? とりあえず十万? それも二十万?』


 確かに、十万もあればコンプリートできるかもしれないが。

 

「俺は、今月はギリギリだから定番の焼きそばとかを買って終わりかね。まあ、親に頼み込むっていう手段もあるが」

「だ、だったら僕が出すよ。コンプリートは無理だけど」

「マジっすか!?」

「うん。こういう時ぐらいは先輩らしいことをしたいなって」


 とはいえ、あんまり先輩を頼るのもだめだ。

 歯止めが効かなくなって、あっという間に金が消える。祭りは、そういうところだ。

 昔、みやのためにぬいぐるみを取ろうと注ぎ込んだのを今でも思い出す。


「私は、食べ物をコンプリートする」


 ここねは、まあ予想通りだな。

 しかし、食べ物をコンプリートか……いったいどれだけの金が消えていくのか。

 まあ、ただの学生である俺達よりは金を持っているからできるんだろうけど。……そういえば、忍者って収入いいのか? 今更だが。

 その辺りは、全然教えてくれないから、予想するしかない。


「かむらちゃん。今回は遅れないでくださいよ?」

「先日のは、仕方なく遅れただけだ。なにもなければ自分は遅刻などしない。君達と違ってな」

「いやー、これは手厳しい!」


 こうして、明日に開催される夏祭りの話題でしばらく盛り上がった。

 

『いっそのこと百万を!』

『そんなにいるか。絶対窃盗に遭うだろ』

『でもさ、私の分を買うために』

『まさか、持ち帰れと?』

『うむ。冷めても大丈夫! それはそれで美味しく頂くから! それと射的の景品とかも』

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― 新着の感想 ―
[一言] 射的の屋台 なかなか見ないよなぁ
[気になる点] それに加え、度重なる戦いの疲労が一気に押し寄せ、今はまともに動けない状態が続いている。 ため、親身になって治療してくれていることにふ 「先ほどまで、起きていらしゃったのですが」 ↑ …
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