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第二十五話 動き出す魔なる者

「ふむ。それは、大変だったね」

「大変ってものじゃないですよ。屋敷に入った瞬間、いきなりですよ?」

「やっぱりあの聖女は油断ならない」


 竹藪に囲まれた木造の一軒屋。

 そこにある和室にて、あおねとここねは霧一と対談していた。

 内容は、先日のセリル邸での一件。


 あおねは、やれやれと息を漏らしながら綺麗に切られた羊羮をつまようじで刺し、口に運ぶ。

 その横では、ずずとここねが緑茶をすすっていた。


「それで、彼女達とは今後どうなりそうか……ちゃんと見極めてきたのかな?」

「それはもうばっちりです。結論から言いますと、問題なし、ですね」


 招待された瞬間から、零の護衛はもちろんのこと、今後の西との付き合いがどうなるのか。

 それを見極めるのも目的にあった。

 東としては、西とは争うのは避けたい。

 霧一は、いつもの調子で喋るあおねの言葉に耳を傾けた。


「西は、セリルさん。つまり聖女を中心とした組織。女性だけで構成されているとはいえ、その実力はこちらも認めるほど」


 元々は、セリルの祖父であるグラッドをトップとし、息子とその妻の少数精鋭で魔を祓っていた。

 セリルは、力はあったものの最初から聖女と呼ばれていたわけじゃない。

 夫婦の願いから、普通の女の子として幸せに生きていた。


 だが、セリルの両親が仕事で命を落とした時から全てが変わった。

 セリルは、両親に変わって自分も魔を祓う仕事をすると決意を固め、グラッドの指導の下、実力をつけていった。


「ああ。あれほどの大所帯になったのも、彼女が聖女として戦場に立ってから」


 今、セリルと共に働いているシスター達は、セリルが自ら見つけ、勧誘したのだ。

 周囲の者とは違う。

 それを理解しながらも、隠して生活をしていた。そんな彼女達は、セリルに魅了され、彼女のために、世界のためにと日々努力し、魔と戦っている。


「あたし達も、多少は浄化術の心得はありますが。やはり彼女達に比べたら……あ、でも零先輩も異常な浄化能力を持ってましたね」

「へえ、明日部零くんが」


 興味深そうに、笑みを浮かべる霧一。


「みや先輩のめちゃデカ黒オーラをあっという間に浄化してしまったんですよ!」


 と、あおねはその時見たことを自らの体を使って再現しながら教える。


「ふいー……夏だから動くと汗が出ますね」


 再現を終えたあおねは、ぐいっと額の汗をぬぐいながら座布団に座り込む。


「君達から見て、零くんは」

「一緒に居て楽しい人です!」

「なんだかんだで面倒見のいい人」


 二人の素直な言葉を聞いた霧一は、なるほどと頷く。


「セリルさんも、最初こそ欲望のままパイセンを我が物にしようとしていたみたいですけど。今回の一件で、もうころっと堕ちましたよ」

「乙女だった」

「ははは。乙女か。どんな感じだったのか、見てみたかったね」


 一通り話を終えたところで、霧一は立ち上がる。


「報告ご苦労様。上には、問題ないと言っておくよ」

「よろしくでーす」

「ところで、かむらちゃんはどこに? ちゃんと一緒に来るようにって伝えておいたはずなんだけど」

「かむらなら、今回の一件で自分の実力不足を実感したとかで、特訓中」

「ほうほう。それはそれは」


 にやりと笑みを浮かべ、霧一は懐からカメラを取り出す。


「また盗撮ですかー」

「盗撮? いや、これは撮影だよ!」


 そう言って、霧一は姿を消した。

 

「ちゃんと報告してくれるかな」

「心配ですね」


 妹のかむらのこととなると、途端にテンションが上がる霧一。

 残された二人は、先ほどのことを上に報告してくれるのだろうかと心配しつつ、とりあえず緑茶をすするのだった。


「おっと、そういえば」

「あ、戻ってきた」


 何かを言い忘れたのか、霧一が戻ってくる。


「最近、女性ばかりを狙う【欲魔】がこの辺りに現れたみたいなんだ」

「ほう。男性型が居るのは知っていましたが」

「それで?」

「こちらでも追っているんだけど、相手の体を乗っとるタイプらしくてね」

 

 【欲魔】と言っても、様々な種類が存在する。

 擬態し相手を騙す個体。

 体を乗っとる個体。

 相手を操る個体。

 世界中には、まだ知らない個体が存在しているかもしれないため、今も尚、調査は続いている。


「乗っとりですか……そうなると物理的に祓うのではなく浄化をしなくてはなりませんね」


 乗っとる個体の厄介なところは、物理的に祓うことができないこと。一度、肉体から引き剥がすか、そのまま肉体を傷つけずに祓うかの二択。


「ああ。しかも、乗っとった者とシンクロすることでより強固になり、祓おうとしても間違えばその者の精神を傷つけてしまうからね」

「てことは、西の出番?」

「そうなるかもね。まあ、僕達でも祓えるレベルだったら良いんだけど。てことだから、君達も気を付けるように」


 言い残したことを全て言った霧一は、今度こそ特訓中のかむらの下へ駆けていった。


「これは……共闘の予感!」

「あおねが言うならそうなんだろうね」

「ということなので、ちゃちゃっと先輩のところへ戻りましょう」

「ほーい」

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