第九話 告げるか、真実
「よっ」
「どもです、先輩。なにか注文します?」
「いや、注文はいい。それよりも」
「わかってますよ。ちゃーんと、情報は集めてきましたから」
学校が終わり、いつものように康太が先に帰ってしまうのを見送った。
その後、みやには用事があるからと告げ、集合場所であるエストというファミレスに走って移動した。
到着すると、すでにあおねは到着しており、なにも注文せず待っていてくれたようだ。
「別に、注文しててよかったんだぞ?」
「いえいえ。先輩よりも先になにかを注文するなんて、後輩としてやってはならない行為です」
「し、しっかりしてるな」
「えへへ。さて……さっそくですが、お話ししますね」
あおねは、自分のスマホを中央に置き、とある写真を見せる。
そこに写っていたのは、康太と一緒に歩いていた子だった。
続いて、可愛いのかかっこいいのかよくわからないデコレーションをしたメモ帳を手に集めた情報を口にしていく。
「彼女の名前は、実畑咲。十四歳。スリーサイズは」
「そこは省いてもいい」
「そうですか? せっかく本人に許可を得て教えてもらったんですが」
まさかスリーサイズまで調べてくるとは。本人の頑張りを無にする感じだが、今聞きたいのはそこじゃない。
「では、必要そうじゃない部分は省いて言いますね」
「頼む」
「彼女は、性格こそ明るく、人当たりのいい感じで通っていますが、実際は性に積極的な子で、学校のトイレとかで自慰行為をしちゃう系ですね。あ、ちなみにあたし達が通っているところは女子中です」
見た目に反してってことか。女子中ってこともあって、鬱憤みたいなのが溜まるんだろうか。
「それでですね、彼女にはちゃんとした彼氏が居たんです」
それはわかっていた。そして、彼氏が居るのにも関わらず康太と恋人同士かのように歩いていた。
性に関して積極的だということは……。
「でも、彼氏とは学校も違うため会えるのは学校終わりか、休日」
と、スマホの画面をスライドさせ、彼氏であろう写真を写す。
康太には悪いが、本物の彼氏のほうがイケメンだ。
少し金髪のヤンキー感はあるが、イケメンの部類に入るほど顔は整っており、身に付けている衣服も、無頓着な俺でもちゃんとした店で買ったものだろうとわかるものだ。
「あたしも含め、周囲は彼氏が居る程度の認識だったので、まさか二股をしているとは」
「……彼氏との仲はどうなんだ?」
「普通に良好。彼氏さんのほうは、ちょっとヤンキー感はありますが、彼女さんをしっかり大事にするタイプのようで。けど、最近は咲ちゃんの性欲が強すぎるせいで、若干距離を置いているみたいです」
ということは、その性欲を解消するために康太と?
「さて」
メモ帳を閉じ、真剣な表情をするあおね。
「ここまでの情報から考えられる構図ですが……咲ちゃんは、抑えきれない性欲を解消するために、零先輩のご友人と擬似的なお付き合いをしている、となると思うのですが」
「……たぶん、それかもな」
とはいえ、康太の性行為はまだ一回。
実際、実畑咲と性行為をしたと仮定しても、一週間以上は経っているのに、一回から増えていなかった。
だとすると、純粋に付き合ってる? 今の彼氏とは馬が合わなくなって、そこへ康太と出会い……いや、だとしても恋人の証が康太にはなかった。
いや、待て。マークがなかったのは康太のほうだ。
だとすれば、康太の方が彼女のことを恋人と思っていないってことなんじゃないか?
「先輩? ……先輩ってば!」
「え? あ、ああ。どうした?」
「ご友人のことが心配だというのは、あたしも理解しています。ですが、一人で悩まないでください。なんのために、あたしが協力していると思っているんですか?」
「そう、だったな」
落ち着こう。
落ち着いて、どう対処するかあおねと一緒に考えよう。
「それで、どうしますか? ご友人を助けるために真実を叩きつけます?」
確かに、この情報を教えれば実畑咲のほうは彼氏にばれたくないから引き下がるかもしれない。
しかし、康太のほうはどうだ? もしかしたら、まだこの能力がレベル一の段階だから表示されていないだけで、康太のほうに恋愛感情が芽生えていたら……。
「俺は」
・・・・
次の日。
俺は、静かに康太のことを教室で待っていた。今日は、登校中に康太が来なかった。
何かあったんだと心配し、メッセージを送ったら今家出た! と学校に到着したところで返信がきた。
「いやぁ、遅れた遅れた」
康太が到着したのはホームルームが始まる三分前。
髪の毛がいつも以上にツンツンしており、制服も乱れている。
「……」
気になって能力を使って見れば……更新されてる。
昨日まで性行為一回だったのが、三回に。
しかも、行為種類も増えてる。
康太……お前、昨日はやっていたんだな。しかも、そんなアブノーマルなことまで。
まさか、遅れてきたのはその疲れがとれなくてか? くっ! 俺がもっと早く行動していれば、こんなことには。
「康太」
「お? どうした」
「話がある。ホームルームが終わったらちょっと付き合ってくれ」
「なんだよ、今ここでじゃだめなのか?」
「ああ」
「……わかった」
康太は、俺がいつもと違うと感じたのか静かに首を縦に振った。
そして、何事もなくホームルームが終わり、俺は康太と一緒に校舎裏へとやってきていた。
「おいおい、校舎裏で話って……ま、まさか」
「あのな、康太」
「やめろよー、俺はそっちの趣味はねぇぞ」
何を勘違いしているのか。
「安心しろ。俺にもそっちの趣味はない。……実はな、康太。俺、先週の日曜日にお前のことを見かけたんだ」
すると、康太はぴくっと眉が動く。
「そっか。なるほどな……」
まるで全て察したように、康太の表情は変わる。
「それでなんだが、気になって色々調べたんだが」
意を決し、言葉として発しようとした刹那。
康太は、待て、と制す。
「お前が考えてることを当ててやる。俺は、彼女に利用されているんじゃないかってところか?」
「……ああ」
一瞬にして、空気が重くなる。
康太の言葉から、康太自身も彼女のことは知っていたうえで付き合っていたと考えられる。
「……確かに、俺は彼女に利用されていたかもしれない」
ふっと、小さく笑みを浮かべながら空を見上げる。
「だが」
しかし、すぐ俺のことを見詰めてきた。
「俺も彼女のことを利用していたんだよ」
「どういう、ことだ?」
「実はな」
康太は語った。
出会いは、彼女のほうから話しかけてきたそうだ。所謂、童貞狩りというやつだ。
彼氏との仲が少し悪くなり、性行為ができなくなって鬱憤が溜まっていたところに、康太を見つけた。
康太が、童貞だということを確認し、やらないか? と誘惑。
康太も、常々一生童貞のままなんだー! と思っていたため、その誘惑にのった。
それから、何度か出会うようになり、擬似的な付き合いを繰り返し。
「先日、関係を終わらせた。精魂尽きるまで、やりまくってな」
「どうして、そんな誘いに……」
「だってよー、俺みたいなオタクとやってくれる女子なんてそうはいないぜ? 二次元だったらいっぱい居ただろうけど」
正直、この世界が二次元のような世界だと知った俺は、どう反応すればいいのか。
「確かに、利用されていたかもしれない。けど、それでも良い思いはできた。一生あるかわからない思い出をな」
「すごいな、お前」
「そうか? よく言うだろ? 人生楽しんだもん勝ちだってな。それによ、彼女と付き合って新しい発見をしたんだ」
新しい発見?
「俺……M気質があったみたいだ」
「……はい?」
「咲ちゃんにな? ほーら、粗チンをパックンしちゃいますよー、童貞くんって、見下したような目で言われた時……興奮したんだ」
……くそっ、なんてことだ。
知らない間に、親友が変態になってしまっていた! というか、終わらせたって言ってるが、本当に終わってるのか?
変な方向に目覚めて、余計に悪化するんじゃ……。
「昨日なんてあんなプレイや、こんなプレイ! 彼女もわかっていてやっている節があった気がするんだ!!」
「康太」
「一番興奮したのは、俺の息子を踏んで」
「康太!」
「え? あ、ああすまん」
やばいところだった。このままだと、プレイ内容を事細かく聞かされていたかもしれない。
「ともかくだ。彼女との関係はもう終わったんだな?」
「そうだな。なんかもう一生分の幸せを終えたような感覚だ」
「……お疲れ様」
「おう。実際、疲れたからな! 今日は、授業中ぐっすりだろうぜ!」
前向きな性格だったけど、ここまでとは。
なんか心配して損したような……。
「なーに俺より疲れたような顔してんだよ! というか、お前はどうなんだ?」
疲れたと言っておきながら、元気よく肩を組んでくる康太。
「なにが?」
「なにがじゃねぇって。みやだよ、みや。お前達、そういうことはしてないのか?」
みや、か。あいつとはそういう関係じゃない。しかし、あれを見る限り、俺は知らない間にみやからファーストキスどころか、めちゃくちゃキスをされているかもしれない。
「ない」
とはいえ、確証というか証拠がない以上、これは想像でしかない。
「まあ、みやだしなぁ。あいつ、不思議キャラだからなに考えるかわからねぇもんな」
「てか、いつまで肩組んでんだよ」
「いいじゃんか。このまま教室に戻ろうぜ!」
「勘違いされるかもしれないだろ」
その後、康太は宣言通りぐっすりと眠り、先生に怒られたとさ。
……疲れた。
こんな終わり方でいいのかな? と心配になりつつ投稿。
さて、読者様方の反応やいかに……。