5.剣
「なんだって、こんな不気味な剣を見張って置かなきゃならないんだ」
「仕方ないだろ? それがおれらの仕事なんだからさ」
「そうだな。……ん? さっき、この剣が光らなかったか?」
「へ? そんなことないだろ? これはタダの、変哲もない凶器なんだからな」
「でも確かに……ほら、光った!」
「うわっ?」
「おいらの言う通りだっただろ!」
「違うだろ! と、とにかく報告しに……」
「どうも、初めまして。今晩もお疲れ様ですね?」
そこに現れたもう一人の男性の声。剣を見張っていた2人は、ゆっくりと声の方向に視線を集めた。そこには闇に紛れるような漆黒の髪を持つ青年がいた。
「何だお前はっ?」
「その剣の主……といえば分かると思いますが?」
青年が微笑む。
「ま、まさか……脱獄っ?」
2人の見張りは焦りながら、剣を守るように後ずさる。
「それよりも、そこにあるものを返して頂きませんと。後々、困ることになるので」
そう言って青年は一歩前に出る。
「だ、駄目だっ!」
「……実力行使は避けたかったのですが」
青年はそういって。
「少しの間、寝て貰います」
2人を一瞬で気絶させた。
「すみません、あなたを迎えに来るのが遅くなりましたね……」
苦笑。
そして、光と共に。
『遅すぎじゃ! 何をしておった? お陰でお腹と背中がくっつきそうじゃ。さっさとお前の……』
剣の上に浮かぶ青年とよく似た女性が現れる。その身体は透き通って向こうの壁まで見えた。
「説明は後です。とにかく、ここを早く出るのが先決ですから」
『そのようじゃ』
遠くから騒がしい声が聞こえてきた。追っ手はすぐそこまで来ている。
よく似た2人は無言で頷くと、青年は剣を手にして足早にその場を去った。