2.裁判
気が付けば、私は警察に捕まっていた。普段では、このようなことはなかったのだが。
「はじめまして、リュート・ヴェル・ハイナイトさん」
目の前にいる、金髪碧眼の女性が微笑んだ。リュート・ヴェル・ハイナイトとは、私の名だ。私達はこれから、裁判を受けるために法廷の場へと向かっていた。
「あ、あたしの紹介が遅れたわね。あたしは、貴方の弁護士を勤めるキャサリン・ドレイアード。キャシーって呼んで」
何も返事をしないのも失礼だと思い、私は軽く会釈をした。
「今回の事件は謎な所が多いわ。死体もまだ見つからないし。それに、凶器ともいえる剣を持っていたからって、その人が犯人だと決めつけるのはおかしいと思うの。そう思わない?」
きっと、前の私なら、キャシーの言葉に素直に頷いていただろう。
「……何も喋りたくない気持ちも分からなくないわ。でも、何か事件のことで知っていることがあったら、教えて欲しいの。あたしは一人になっても、貴方の味方だから」
貴方の、味方か……。
「キャシー」
彼女の名を呼ぶ。
「何?」
嬉しそうな顔で、応えるキャシー。
「ありがとう」
「やだ。まだあたし、何もしていないわ」
ギイ。
重々しい、頑丈な作りの大きな扉が開いた。
とうとう、目的地についたらしい。
「いい? リュートさん。何を尋ねられても、黙秘権で何も言わないで。いいわね?」
そういって、キャシーはウインクした。
「これから、裁判を始める……」
裁判が始まったらしい。私は部屋の中心におかれている台の前に立っていた。
「貴方は、ジール・ブレイスさん殺害の容疑で……」
ジール・ブレイスとは、前に会った車椅子の老人のこと。もし、真実をこの場で話しても、信じる者はいるのだろうか? ふと、そんなことが頭によぎる。いや、いないだろう。そんな夢物語のような話を持ち出しても、却って混乱を招くだけ。
「では、貴方は、ジール・ブレイスさんを殺害したことを認めますか?」
無言を守っていた私に、検察官は尋ねる。
「はい。認めます」
答えた。後ろでキャシーが叫んだようだったが、私にはどうでもいいことだ。
そして、遠くで「有罪」という言葉が聞こえたような気がした。他の音は何も聞こえない。
警察官に連れられ、法廷を後にしようとしたが、その行く手を遮る者がいた。
「返して」
まだ幼い少女。赤いコートを身に纏い、癖のある亜麻色の髪を肩まで伸ばしている。
「返して、返してよ! 私のおじいちゃまをっ!」
「エリス様、もう、行きましょう」
側にいる、付き人のような男性が、エリスを押さえる。エリスはまだ、涙を零しながら、訴えた。
「私の、おじいちゃまを、返してよっ!」
彼女の前に、私は立った。
「私も出来れば、貴女のもとに、彼を連れて行きたかったです」
そう言って、微笑んだ。と、私の言葉に驚いたのか、エリスの涙が止まった。
何事もなかったかのように、私は法廷を後にした。