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1.涙

 闇に支配された森の中。一人の老人と、一人の青年がいた。

 老人は車椅子に座っていた。膝には暖かなケープが掛けられている。その老人の顔は、とても穏やかだった。

 青年は闇ととけ込むような漆黒の短い髪を掻き上げた。年は二十代後半だろうか。長身でスマートな体つきをし、コートを着ていた。その脇の地面には、剣が刺さっていた。

 ふと、老人が青年を見上げる。青年は頷くと、脇に刺さっている剣を手にした。青年と同じぐらいの長さの剣。まるで獣の持つ牙のような、鋭さを持つその剣を構えると、青年は老人の胸に突き立てた。

 音もなく、静かに老人の胸を貫く。

 老人は穏やかに微笑みながら、青年の顔を軽く撫でた。いつの間にか、青年の顔には涙が伝っていた。それを拭うかのように、老人の手は頬をさする。徐々にその手はゆったりとした動きになる。

 剣は老人の胸にその全ての刃を与えた。

 なおも青年のこぼれ落ちる涙は止まらない。老人の微笑みもまだ、止まらない。

 でも、老人は変わっていた。

 足からゆっくりと、まるで砂が舞うように消えて行く。時間を掛けて、確実に消えて行く老人。老人の手が止まり、その顔が消えるとき、

「さようなら」

 青年の告げる別れの言葉は、老人に届いたのだろうか。

 残されたのは暖かそうなケープと車椅子。そして、青年の手の中にある、濡れた剣だけ。

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