超短編小説 「AZ『ロッカー』」No57
マトモな人なら眠りにつくような夜更け。
空には星も月もなく冬の分厚い雲が広がるが、雲の一箇所だけが地上の光に照らされて、その不気味な表皮が顕になっている。
視線を少し下に向ければ、カラフルなビームライトが操り糸のように、地上のある場所へ向かって伸びているのが分かる。
そこは街一番の巨大なコンサート会場。
今日は国一番とさえいわれる程のとあるバンドの公演日だった。
会場は頭がおかしくなりそうな、ある種の異常な喧騒と熱気に包まれている。だがそれはその歌への同調や、バンドマンへのありふれた愛の声ではなかった。
それはステージ上の一人の少年への罵声だった。
『戻らなければ…あの頃に…戻らなければ…』
少年の声が会場中に撹拌していく。
その少年は14歳だった。
その上なにやらおかしな姿をしている。
体の所々に出っ張りのようなものが…パソコンやテレビのそれのような、黒い画面が生えているのだ。
左目、左耳、右肩、左手の関節、左手の甲、両膝。
本来それらの部位が収まるべき所に、黒い画面が『生えて』いる。
まるで機械か作り物のようだが、それは彼の生命としての皮膚だった。
そして彼の数少ないむき出された頬と右目には、まるで彗星の尾のように、一筋の涙が伝っている。
彼は黒いエレキギターを持って歌う。
『戻らなければ…あの頃に…』
罵声は止まない。
暴動は終わらない。
歌も止まない。
『戻らなければ…あの頃に…戻りたい。』
14歳で世界一のロッカーになった少年は、皆の心は手に取るように分かるけど、本当は好きな人へのラブソングが歌いたかった。
次の長編小説に出す予定のキャラクター。
主人公ではないです。
今日はそっちを書いてたら時間がなくなってしまったので、そっちのキャラクターの紹介みたいな話になっちゃいました。すみません。
お恥ずかしながら、物語を作る仕事を目指しています。先はまだまだまだ遠いですが、少しずつ進んでいきたいとと思います。
アドバイス、お気軽なコメント待ってます。