この手何の手?
祖母宅から投稿します。人がいない田舎です
初っ端からネタ晴らしすると、今日の出来事はキリエルにバレた。
「どういうことか、説明してもらおうかしら?」
天使が悪魔みたいな顔してる。家だからって天使の服装と姿に戻って、頭に輪っかも乗っけているのに、全身からは闇っぽいオーラが出ている。
「天使と悪魔が合わさって最強に見える」
「あたしの感想を聞いてんじゃないの‼」
足蹴りが痛い。俺の脳天に落とされた天使の素足を羨ましいと思う? ならばぜひとも変わっていただきたい。素肌と一緒に星が見えるよ。
「あんた、ハローワークに行ってきたんじゃないの⁉ それが、いきなりバイト先に上がり込んで、『なんか変なの刻まれた~』って泣きつくとか、バカじゃないの⁉ バカでしょ! あんたホントは馬鹿なんでしょ‼」
「う、うるせえ‼ 大体、俺はハローワークに行く途中だったんだよ‼ そしたら、あの占い師に捕まって‼」
世界で一番可哀想な俺は、キリエルに俺の手のひらを見せつける。
俺のきれいな手に刻まれたのは、
「こんなもん付けられたんだ‼ 少しはかわいそうとか思いやがれ‼」
なんとも厨二チックなデザインの紋章だった。
正六角形に、内側にはいくつもの切れ込みが書かれている。若干緑色なのも相まって、少し風っぽい。
「なんだよ、これ⁉ 刺青か⁉ 掻いても掻いても、肌は腫れても全っ然取れねえんだが!」
ああ、俺の手はこの通り、半分赤い。だというのに、この厨二紋章は、我関せずとばかりに居座っていやがる。腹立たしい。俺が何したってんだ。
「自業自得よ。怪しい人からは逃げろって、前世で教わったでしょうが。忘れたの?」
「俺十七‼ もうそんなガキみてえなことねえよ!」
「実際にあったんでしょうが‼ おかげであたしも今日のバイト早く切り上げになっちゃったじゃない!」
仕方ねえだろ。俺の心配のほうがバイトより重要だ。
大声を張り上げたキリエルは、頭を押さえてその場に座った。
「まあ、起こったことは仕方ないわ。で、あたしは天使だから、その占い師になんか変なものをつけられたかどうかくらいは見てあげるわよ」
「お前天使だったのか」
「あんた喧嘩売ってんの? あたしはどっからどう見ても天使でしょ?」
さっきまで怒っていた顔が急に満面の笑みになると、とっても怖い。そりゃもう、このまま鬼になってもらったほうがいいほど。
「はい、チェ~ンジ」
黄色の光が、LEDの光を跳ね返す。少し目を細めたそこには、冴えないジャージの熾添樹那江ではなく、本物の天使キリエルがいた。……だからなんでこんなややこしい漢字を名前にしたんだよ。
鳥の翼に、白い布切れ。あれ何ていうんだろうな? それに、頭には天輪。どう考えてもこの安アパートには似合わない。
「さ、見せてみなさい」
キリエルに従い、俺は紋章がついた右手を差し出す。くっ、右手が疼く。
俺は厨二病じゃねえからな。
「さってっと、軽く見た感じだと何も分からないわね」
キリエルはまじまじと俺の紋章を見ながらそう呟いた。息が当たってるから、できれば少し離れていただきたい。
まあ、俺のそんな気持ちなぞいざ知らず、キリエルは紋章の上に、指で軽く円を描いた。あ、ちょっと指の使い方綺麗。
すると、そこにはまさに黄色の円が現れた。妙にゴチャゴチャした模様があり、それが俺の体を調べているのがわかる。……ここで意味深って付けたら汚れていることになるよな、俺。
「……この世界にも呪術的なものが存在していたのね」
「呪いなのか?」
「そのようね。先生とかなら分かったんだろうけど、あたしはまだ見習い天使だから、正確なことはまだわかんないけどね。……」
キリエルは怖い顔で、グルグルと円をなぞってる。なんか、顔が怖くて動けない。
「……これ、少し難しいわね。あたしじゃ解呪できそうにない」
「お前じゃ、これを取れないってこと?」
「そうね」
「冗談じゃねえよ! ったく、天使も使えねえな」
勢いあまってホントのことを言ってしまった。慌てて口をつぐんでももう遅い。
「へえ……あたしがいなかったら生活すら怪しいのに、使えないんだ、あたし……」
すでにキリエルはにこやかな顔で俺を見下ろしていた。
いい笑顔だろ? 目が笑っていないんだぜ、これ。