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新生活

 結論から言う。


「やっぱり天国行きがよかったあああああああああ‼」


 ……そういうことです。

 俺こと、信代頼人は、公園で寝そべりながら叫んだ。いかんせん、平日の真昼間なもんで、周りにはじいさんばあさん、保育園の人たちが不審者を見る目で俺を見ている。

 ってか、俺不審者かよ。


 平日。そう、俺がせっかく飛ばされてきたこの世界には、前いた世界と同じように、平日と休日がある。それどころかコンビニだってスマホだってお金だってある。

 つまり、前いた世界と何にも変わってない。

 いや、違いはあったわ。


 初っ端から致命的な違いは、俺は住所もない、戸籍もない、職もない不審者だったということ。

 そして、たぶん俺としてはこっちのほうが重いんだが。


「ほら、今日のご飯持ってきたよ」


 きれいなパツキンのねーちゃんがいた。いい感じのナイスバディにきれいな声。チャラチャラした街に歩いてたら真っ先にナンパされそうな人。右目のなきぼくろがチャームポイントだな。見かけだけならばここが天国でいいやと思うような人だけど、この人が誰かは忘れちゃいけねえ。


「これ食べて、さっさと仕事探して真人間になりなさい」


 この人、あの天使です。

 俺を天国ではなく、この世界に送りつけやがった天使です。

 クーリングオフさせてくれない天使です。


「だああああああああああああああ‼ 俺は死んだんだ‼ なんでもう一回こんな人生送るんだよおおおお!」


 芝生の上で赤ん坊のように駄々をこねてしまった。十分後にこのことを思い出すと恥ずかしさのあまり悶えそうになるんだけど、まあそれはどうでもいいや。

 俺が嫌々言っているのに、この天使さんは、


「何言ってるのよ。ほら、さっさと帰るわよ。あと、ちゃんと学校行くこと。奨学金もらってるし、学年も年サバ読んで高校一年にしてあげたから。学校行きたくないってんなら、また明日もハローワーク行って、アルバイトでもいいから、なにか仕事見つけるのよ、わかった?」


 などと、悪魔の提案をしてくる。ひでえ。


 俺と同じように望まぬ世界に堕とされたクセに、俺よりも順応していやがる。

 落ちてきた日に一時間大泣きした後、何を悟ったのか「これはきっと、天命ね‼ 天使研修で何かが足りなかったんだわ‼ 修行のやり直しよ! ならばせめてあんたを真人間にするまで、天界には帰らないわ」とか言ったり、その日のうちに市役所で戸籍とったり、ちょっと目を離したらバイトして、安アパート借りたり。

 挙句の果てに、昨日そのアパートになぜか届いた天界からの通知によれば、この天使は俺があんまりにもあんまりだから、更生させることを命令されたらしい。余計なお世話だっての。


 しかも逆らうと……。


「み・つ・け・る・の・よ?」


 こんな風に、頭をヘッドロックしてくる。しかもこの天使、プロレスでもやってたのかって聞きたいくらい力が強いんだ。……って、痛い痛いマジ痛い‼


「こんな生活……ありえねぇ……」






 えー、ここが今の我が家です。

 前世では、そこそこの広さの部屋が我が家だったんだけどな。今では、その広さが俺の居住スペースだよ。


「ただいまするたびに、今の生活が嫌になる」

「文句あんなら自分で働きなさいよ、このニート」

「だってよー」


 畳六畳、そこに人二人が住んでいる。


「つうかキリエルさんよ、あんた天界に帰る気あんのか?」

「当然。そのためにあんたを更生しようとしてんのよ」


 言い忘れてた。この天使の名前はキリエル。

 聞いたことないって? 俺もだ。いかんせん、こいつは新人天使らしくて、俺が転生させる人間第一号だったらしい。俺が第一号とかすっげえ名誉だな。

 ただ、この世界で流石にキリエルと名乗るようなおこがましい真似なんてできるわけねえから、この世界では熾添(おきそえ)樹里江(きりえ)って名乗ってる。……俺ぜってえ紙にこいつの名前書かねえからな。変換もめんどくせえから、キリエルって名指しするからな? 脳内変換しておけよ? っていうか、いくら天使キリエルをいろいろ改造した結果だからってこの名前はねえだろ。


 ああ? 中二病っぽいパツキン姉ちゃんと同居なんてご褒美だろって? いやいや。実のところ、


「ほら、夕食の支度するわよ! あんたも手伝いなさい!」

「ええ~」


「ほら! 自分の食器くらい洗いなさい!」

「ええ~」


「ちょっと! 今日は掃除する日でしょ! 手伝いなさい!」

「お前は俺の母親か‼」


「はい、もう寝るわよ! 布団くらい敷くの手伝いなさい!」

「まだ十一時だぞ⁉」


 ただの口うるさい同居人だ。

 何かあるごとにぐちぐちぐちぐち。何様のつもりだ。

 あまつさえ寝るときも。


「いい? 絶対にこの境界線からは超えないでよ!」


 部屋のど真ん中を超えたら殺すとか抜かしやがる。最初は美少女と同じ部屋で寝れてラッキーとか思っていたけど、こいつに魅力を感じるのはもう無理だわ。ってか、頼まれたってこんなメスゴリラに夜這いなんかしねえよ。





 という、まあ、可哀想な生活を送っているわけで。


「ありえねえ……」


 と、俺はハローワークに行くという方便とともに、町をぶらついていたとさ。

 あ? ハローワークには行かないのかって? 働いたら負けだと思っている。

 学校? 正直何が悲しくて転生してでも学校行くかなあ。


「今日は何すっかな……」


 ハローワークは、電車で三駅のとこにある。んで、我が家の財布からは、きっちり往復代の三百円が渡されてる。ったく、どうせなら千円寄越せよ。ジュースとかゲーセンとかあるっつうの。

 まあ、ホントにハローワークに行くのは週に一、二回くらいで、残りはぶらつくだけだがな。聡明な俺は、言い訳場所のチェックと更新を毎回欠かさずに行うのだ。

 んで、今日はハローワークをさぼる日だ。


「この町もちいと飽きてきたな……」


 俺この世界に転生してきたのは、大体二か月くらい前。暇な日は七時間くらい歩き回っていりゃ、いやでも町のことは分かってくる。コンビニは毎日同じおばちゃんがいるし、街宣車はいつもうるさい。

 だけど、今日はちょっといつもと違うところがあった。


「あんなところに、占い師なんていたか?」


 いつもの商店街に、携帯用の机といすに座る人物がいる。紫のローブにサングラスって、見るからに怪しい。ってか、警察に連れていかれてもおかしくない格好なんだけど……。机にでかでかと占いってあるんだし、占い師で間違いないよな?

 つっても、占いなんて前世でもしたことねえし、気にする必要もない。

 俺はさっさと通り過ぎて、今日の暇つぶしを考えようとしたけど……


「お兄さん、お兄さん」


 なんか妙に手招きされて気になるんですけど……なんだよこれ。


「お兄さん、お兄さん」


 しかも机から立ってついてきてるんですけど。


 ちょっと怖くなって、足を速めるけど、占い師も同じくらいのペースで追いかけてくるし! てか、こんなに離れていいのかよ⁉ 


「ちょっとなんだよ~‼」


 もう不気味すぎて不気味。速足どころか全力疾走。これなら、ついてこれま……


「お兄さん、お兄さん」


 なんで顔色一つ変えずに付いてこれんだこの人はああああああああああああ⁉

 しかもさっきまでと同じ、歩いているようにも見えるし、なにこれ⁉ この人の歩く速度は俺のマジ走りと同じなわけ⁉ 俺だって平均的な速度はあるぞ‼


 あ、捕まった。助けてお巡りさん。


「わああああああああああああああ‼」


 俺は死にもの狂いで叫ぶけど、だ~れも助けてくれない。それどころか、ひそひそ話していたおばさんたちがそそくさと逃げていく。ああ無情。


 おまけに占い師は、他など眼中にないといわんばかりに、俺の手相を見てやがる。ねっとりとした手つきで、俺の手をなでるのが凄まじくくすぐったい。


「ほう……ほう……」


 男とも女とも言いにくい声。全身黒ずくめだけじゃなく、この五月に黒い魔女っぽい帽子にサングラス、口はどっかの国みたいに、黒い布切れで覆ってる。

 やっぱり怪しい‼ 天国に行きたいとか言ってたけど、殺されちゃうのは嫌だあああああああああ‼


 でも、パニくってる俺でも、ここから占い師の言葉は耳に残った。


「貴方……生まれ変わりの人ですね」

「⁉」


 生まれ変わり。すなわち、俺が転生者だって見破られたってことだ。


「にひひ……」


 占い師は不気味に肩を揺らしている。当然、俺は怖がるけど、それ以上に俺を見分けられる理由が気になっていた。


「なんでわかるんだ……?」

「知りたいですか?」

「え? あ、ああ……」


 そりゃ、知りたいかって聞かれたら気になるよ。俺が転生者だって知ってるのは、俺本人とキリエルだけなんだからさ。


 そして占い師は、


「にひ……知り”たい”」

 口を吊り上げる。


 途端に、握られた俺の右手が疼く。


「があああああああああああああああああ‼」


 とても熱く、鋭く。

 思わず手首を握り、うずくまる。

 しかも、その手のひらには風が集まり、手のひらに紋様を彫り込んでいく。


「な、なんじゃこりゃあああああ⁉」


 痛みよりも、悲鳴のほうが優先した。

 手を見上げた時に一度占い師がいた場所に視線を一度投げるが、その場所にはもう占い師はいなかった。

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