わらべうた
俺は一人、夕暮れの公園のベンチに座り、日ごろの疲れを癒していた。
会社に行けば年下の上司にいびられ、家に帰れば嫁と娘に邪魔者扱いされ…
仕事辞めてぇ…
つーか、帰りたくねぇ…
このままここに泊まってくか?
いやいや、そんなことしたら不良共の恰好の餌だ。
ほんと、嫌な世の中だよ…
いっそのこと、死んだら楽になれんのかな?
わーたーれ わーたーれ さーんずのかわを ろくもんにぎって
くーだーれ くーだーれ よーもつひらさか てにもつかかえて
公園の入り口で子どもが歌っている。
後ろを向いていて顔は見えないが、小学生くらいの女の子だ。
小学生にしてはなかなか綺麗な歌声じゃないか。
童歌か?
近頃、小学生が童歌を歌う光景なんてめったに見なくなっていた俺は、しばらく彼女の歌を聞いていようと思った。
それにしても不思議な歌詞だ。
いーくつのとしで おかした ごうか
かがみにうつる うきよのやみよ
ん?あの子、近づいてないか?
今まで公園の入り口に立っていたはずの少女は、公園に入ってすぐの滑り台の下に立っていた。
いつの間に…
うそいうものの ことばをたやせ
それぬけしたを ことばをたやせ
おかしい…
今度はさらに俺の近くにある砂場の中に立っている。
相変わらず後ろを向いているが、爪の一枚一枚がはっきり見える距離だ。
それにしてもなんだこの歌は…
ゆでてしまえよ にえたぎるかまで
ちをながさせよ はりたつやまで
おい…もうすぐそこに…
俺は気味が悪くなって立ち去ろうとしたが 、体が動かない。
立ち上がることはおろか、指一本動かせない。
まだしなせぬぞ しなせはせぬぞ たちてふたたび ばつへともどれ
はよもどらぬか かまへともどれ たたぬといえば あたまをもぐぞ
やめろ…やめろ…
少女は俺の眼前まで来ると、俺に顔を見せた。
目があるべき所には2つの大きな穴が空き、口は耳まで避けている。さらに恐ろしいことに、奴の額には皮膚を突き破って生える1本の角があった。
こーえーよ こーえーよ さーんずのかわを ろくもんはらって
のーぼーれ のーぼーれ よーもつひらさか てにもつほうって
少女は動けない俺を引きずっていく。
すごい力だ。
俺はこれからどうなるんだ?俺が何したって言うんだ…
たーりぬ たりぬ いきはてにもつ もちきれぬほど
たーりぬ たりぬ かえるときには なにかがたりぬ
それはあたまかそれともうでか