表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 猫好 司






 やあやあお待たせ。私の出番かな?

 いやいや、ほらこんな時期に百物語なんて珍しいから来るのが遅れちゃったんだよ。

 これから百話目だろう? トリに相応しい話を持ってきたんだよ。聞いてくよね? ろうそく、こっちにもらうよ。

 いやね、まあ大した話じゃあないんだよ。こないだ私が寝ていた時の事さ。

 夜中にね、ふと目が覚めたんだよ。いや別にトイレとかおなかすいたとかそんなんじゃない。ただ単に、目が覚めただけ。

 で、さ、まあ、寝返りを打とうとしたんだ。まあ、それは自体は普通にあることだけれど、その時は出来なかった。

 金縛り? ああ、まあある意味近いかもしれないね。

 手を握ってたんだ。

 誰の? って聞かれても困るね。私は一人暮らしだったし、その時は別に誰か泊りに来てたってワケでもない。だから、まあ、驚いたし、怖かったね。心霊現象なんて生まれて初めてだったから。

 それで、相手は誰だと確認しようとしたけど、それも出来なかった。その時、私の手はベッドから少しはみ出していて、それを下から伸びた手がぎゅっと握りしめていたから、ベッドの上からじゃ見えなかったんだね。

 で、その時の私は、まあどうかしてたんだろう。怖かったけれど……その手の正体を確かめようとしてしまったんだ。

 幸か不幸か、金縛りにはなってなかったから私の動きを阻害するのはその手だけ。ベッドの下を覗き込むことは簡単だった。

 うん、直ぐに私は後悔した。

 その手はね? ベッドの下から伸びていたんだ。こう、見るだに痛そうな程に無理な角度にまげてた。

 それはただ私の手を握りしめているだけだったし、よく言われているように氷のように冷たい、なんてこともなかったけれど、何て言っていいのかな。すごく気味が悪かったのを覚えてる。

 都市伝説でよくある下男(したおとこ)だとか、ブギーマンだとか、そういうのを思い出したけど……ねぇ、少し違うだろう?

 ……え、その後はどうしたのかって? うん、そうだね……それは二人の想像に任せようか。だって、怖い話、と言うのはオチを言ってしまえばそこまでだろう? その後は一体どうなったのか、その正体は一体何なのか、想像を巡らせている間が一番怖いと私は思うね。

 それじゃそういうコトで私の話はオシマイ。それじゃあ、最後のろうそくをを消すよ?





 ふぅ、と妙に生暖かい吐息で最後の話をした女が百本目の蝋燭を吹き消せば、辺りは暗闇に包まれる。

 せっかくだからと窓に暗幕で目張りをして、エアコンの温度を高めに設定していたから、辺りはむっとした熱気に包まれていて、矢鱈と雰囲気だけはあるのだ。思わず、圭太と亮二の背筋に冷たい汗が伝う。

 一秒、二秒……何も起こらない。

 一分、二分……静寂が耳に痛い。

 十分、二十分……どちらからともつかない溜息が響く。


「……なんだ、何も起こらないじゃないか……」

「はは、なんだよ圭太。ビビッてンのか?」

「や、だって雰囲気がありすぎじゃないか……ところで、亮二、お前いつの間に彼女が出来たんだよ?」

「は? いや今のお前の彼女だろ? 俺がモテないのってお前が一番よく知ってるだろーが……」

「ガッついてるから引かれるんだよ君は……今だって、好きな人がいるからって押せ押せでアタックして冷たくされてるんじゃなかったっけ? と言うか僕の彼女は今実家に里帰り中だよ。今この街には居ないし……」


 圭太が思わず言葉を途切れさせる。恐らくは亮二がいるであろう方向に視線を向けると、亮二もやはり同じように圭太を見つめているのだろう。暗闇の中で視線が噛み合った。


「……そう言えば……ふと思い出したんだけどさ。こないだ……女子大生が死んでたのってこの上の部屋じゃなかったっけ?」

「お、おい馬鹿やめろよ……」

「ずっとストーカーにあってて……手首のとこに、手の形の痣があったって、専らの噂だった、だろ?」

「だからやめろって! 灯り、早く灯りつけろよっ!」


 亮二の怯えた様な苛立った声に、慌てて圭太が手元のライトのリモコンのボタンを押す。ピッと恨めしいくらいに軽快な音と共に、真っ暗な部屋で慣れた視界が一気に白く塗りつぶされた。

 思わず目を瞑るものの、それでもずっと目を閉じっぱなしと言うのも今の雰囲気では出来るものではなく、何度も瞬きをして目元に涙を滲ませながらもこじ開ける。

 部屋の中は、蝋燭が消える前とほとんど変わらなかった。

 机の上には大小さまざまな蝋燭が百本、火が消えた状態で転がっている。床にはビールやジュースの空き缶に表紙の肌色率のやたらと高いマンガ雑誌が数冊。

 そして、蛇がうねるように這いまわる白く伸びたナニカ。

 天井からするりと伸びた、骨の存在し得ないような造りの女の腕が一本。その手が握っているのは部屋の主である亮二の手首だ。

 一秒、二秒……それが何か理解できない。

 十秒、二十秒……二人の顔から一気に血色が抜け落ちる。


「う、うわぁあああああああああああ!?」

「あ、ま、まってくれ圭太、お、おいていかないでくれぇっ!?」


 上がった悲鳴は誰のモノなのか。或いはどちらのモノでもあるのだろう。

 咄嗟に二人は立ち上がり、震える両膝を叱咤しながら走り出していた。狭いドアを先を争う様に潜り、部屋の外へと向かう。

 最も、それもすぐに終わりだ。亮二は、既に腕を掴まれている。女の腕とはいえ、氷のように冷たい固く握られたその手はこじ開けようにもなんともならず、ただ泡を吹きながら走り去る友人の背中を見送るしかできない。


「あ……あ……っ!」


 振り返れば、まるで引き摺りだされるかのように天井から女の上半身がせり出してくるのが見えた。それは、ろうそくの頼りない灯りの中で見たモノであり、ついこの間亮二自身もじっくり堪能した、女のモノ。




 そして、亮二を見てニタリと笑った女は…………。








「ねぇねぇ田中の奥さん、聞いた?」

「あら、なぁに、前田の奥さん。今日はどこのスーパーが安いって?」

「やぁねぇ、違うわよ。ほら、そこのマンション。こないだ若い女の子が死んでたでしょ? ストーカー殺人で」

「ああ、あったわねぇ。このあたりも物騒で、おちおち子供を遊びに出せもしないわぁ」

「アレね、犯人が捕まったんですって。何でもすぐ下の部屋に住んでた大学生で……」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ