何気ない出会い
「なんだあれは!」
謁見の間の扉が開いた瞬間、兵士たちから驚愕の声があがる。
入ってきたのは男3人、メリナ王国からの使者である。
3人が並んで歩く。
中央には黒ずくめのマントに身を包んだ小柄な男。右側を歩くは騎士風の出で立ちの紫髪の青年。 そして、兵士たちの注目を集めたのが左側を歩く男。身の丈2メートル50を越える大柄の男。そして、その男が持っていた武器である。3メートルを越える巨大な斧を右手に抱えていた。
慌てて剣を構える兵士もいたが、近くにいたアロークが手で制した。
「落ち着いてください。相手に戦意はありませんよ。」
「なんだ!ここの兵士は肝っ玉が小さい奴らばかりだな!」
大柄な男が吠える。
「何を!」
挑発された兵士が再び剣を構えようとするが、
「静まりなさい!」
謁見の間に響いた声に兵士たちは静まりかえる。 玉座に座っていたソフィアが発した声だった。
玉座にソフィアが座り、その脇にライトリア、アキレルが立ち、間の左右に兵士達が並んで列を組み、右列の前列にアローク、フィラーがいた。
「騒がしくして申し訳ありません。」
「構いませんよ、血気盛んなことはいいことです。お初にお目にかかります、我はメリア王国参謀長ザムザです。」
真ん中の小柄な男が答える。
「メリア王国騎士長レベル」紫髪の男が軽く会釈をする。
「メリア王国特攻隊長クラス、よろしくな!」と大柄な男がガッハッハと笑う。
「無礼な!」と食ってかかりそうになるアキレルをソフィアが手で制した。
ザムザが周囲を見渡し、 「この度は国王との謁見を申し出たのですが、コルン王の姿が見えませんが…?」
「お父様は昼寝中よ!」
「は???」
ソフィアから返ってきた言葉に使者組3人の目が点になる。
「ふざけてるのか!!」
クラスが吠える。
「落ち着け、クラス」
斧を構えようとしたクラスをザムザが制した。
「ふざけてなどいませんわ、今現在、このコルン王国の全権は私に委ねられてます。この度の用件は全てこの王女ソフィアがお聞きします。」
ソフィアが立ち上がり使者3人を見つめた。
「仕方ない、ではまずはこれをご覧にいれたい。」
そう言うとザムザは懐から一つの宝石のようなものを取り出した。
「あれは!」
思わずアロークが声をあげる。
一瞬アロークの方を向いたザムザだったが、再びソフィアの方に向き直り宝石を掲げた。
「そうこれは、魔術を学んでるものなら誰でも知っている伝説のアイテム、賢者の石です。」
「いにしえからの何百という魔術士の魔力が蓄積されたというこの世に6つしかないという宝石ですな。」
ソフィアの横にいたアキレルが説明する。
「そうこの宝石は金銭的価値も高く、売るとなれば数千万ゴールドにもなる。」
ザムザが力強く語る。
「国一つ動かせる額ね…」とソフィア。
「この賢者の石と引き換えに御国のライトリア将軍と魔術士のアローク殿の二人を我が国に迎え入れたい。」
「な!?」
ザムザの言葉に場内がざわめくがザムザは続けて話し出す。
「現在この大陸ではレナーグ、カリア、そして我が国メリアの三つの国が三大勢力として君臨してることは周知のことだと思います。そしてここにきて一つの国が頭角を現し始めた、それが御国コルンです。元々大陸ナンバー2であるライトリア将軍の有する国として、注目に値する国だったが、ここにきてさらに注目が高まった。
アローク殿、貴殿の飛躍的な成長ですよ。」
そう言ってザムザはアロークを見つめる。
「我が国が目指すのは大陸の制圧です。我がメリアにはここにいる大陸ナンバー3のレベル、ナンバー4のクラス…そして、ライトリア、アロークの力が加われば、勢力図は一気に我が国に傾くでしょう。是非とも交渉に応じて頂きたい。」
ザムザがソフィアを見つめる。
ソフィアは軽くため息をつき、
「私はこの国の国民全て、大きな家族だと思ってます。その家族を金品と取引ということに憤りすら感じます。ですが、私自身本人たちの意志を尊重したいと常に思ってます。」
そう言ってソフィアはライトリアを見つめる。
「意志も何も私は生涯ソフィア様に忠誠を誓った身です。」とライトリア。
「そうです!僕らはお金とかそういうのが目的でこの国にいるわけじゃない、この国の全てが好きだから、ここにいるんです!」とアロークが声をあげる。
「だそうです、今回はどうぞお引き取り願えますか?」とソフィア。
「やれやれ、聞き分けの悪い小娘が!」
ザムザの口調が変わった!
そのザムザから放たれた殺気に反応して、コルンの戦士全てが剣を構えた。
「まぁ待て、ここで全員皆殺しにしても構わんが、お前たちに最後の猶予をやろう。明朝までにライトリアとアロークの両名を差し出せ。さもなければこの国は血の海に沈む!」
そう宣言してマントを翻し、レベルとクラスを引き連れて出口の方へ向かう。
「このまま逃がすと思うのか!」アキレルが剣を抜き叫ぶ。
その瞬間ものすごい振動が謁見の間を襲う。何かが城の壁を突き破り間の中に入ってきた。
「ドラゴンだと!?」アキレルが体長10メートルを越える巨体を見上げる。
ザムザの横にいたレベルが飛び上がりドラゴンの背に乗った。
「改めて自己紹介しよう!我が名はレベル!ドラゴンナイトのレベルだ!!」
ドラゴンの地を揺らす咆哮がコルン城内に響きわたった。
「兄さん!!タイムタイム!!」コルン城の訓練所にフィラーの悲鳴が響き渡った。目の前に大きな盾を構えてる彼の前は巨大な炎で包まれていた。その炎を放っているのはアローク。
「兄さん!マジックシールドが持たないよ!」
フィラーの叫びにアロークは炎を打つのをやめると軽く肩で息をした。
「悪い悪い。つい力み過ぎた。」
「もう!僕を黒焦げにする気?兄の修業に付き合って焼死じゃ洒落にならないよ。メリナの人たちを取り逃がしてかっかしてるのはわかるけど…」
フィラーは肩をすくめる。
「別にかっかしてはないさ、あそこで戦いになれば姫様が傷つくことになりかねなかったわけだしな…ライトリアさんの判断は正しいよ。」
「兄さんが飛び出したのを真っ先に止めたのがライトリアさんだったからね。」
アロークは自分の後先考えない行動を悔やんでいた。それをたしなめられた相手がライトリアだったってことも悔しい思いがつのっていた。
「フィラー、ここにいたのか。」
そのとき訓練所の出口の方から声がして一人の中年男性が入ってきた。
筋肉隆々で長く伸ばしたあげ髭が印象的な男である。傍らには黒髪の小柄な少年を引き連れていた。
「ソマリ隊長、どうしたんですか、その子は?」
フィラーの所属する第三司令部の隊長、ソマリ=ルディフィズ。フィラーは彼に駆け寄り見慣れない少年を見詰めた。
「初めまして。本日付けで第3司令部に配属になりました。シャレーと言います、よろしくお願いします。」
少年の挨拶をうけて、アロークとフィラーも軽く自己紹介を済ませた。
「早速で悪いが、フィラー、彼を宿舎まで案内してくれないか?」
ソマリに言われて、フィラーは、はいと答えるとシャレーを連れて訓練所を出ていった。
訓練所にはアロークとソマリの二人だけになった。
「彼はちょっと特殊でな、記憶をなくしてるそうだ。」
「え?」
「半年ほど前に南西の海岸に倒れていたらしくて、漂着する前の記憶が綺麗さっぱりないらしい。」
「無茶苦茶怪しいじゃないですか、このメリナとのゴタゴタの真っ最中に。」「まぁ誰しもそう思うわな…。でも彼を採用したのは姫様なんだ。彼の目を見て何か感じたらしい。」普段はのほほんとしているソフィアだが、求心力と人を見分ける目だけは確かだった。ライトリアが傭兵だった頃に彼を引き入れたのもソフィアだった。
「まぁ、メリナのスパイとかの可能性もゼロではないからな、注意しとく必要はあるな。」
このときのアロークはシャレーがこの国の行く末を左右する重要人物であることは知るよしもなかった。