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天空の柱~クリスタル英雄伝~  作者: 竜星水晶
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コルン王国の日常

「熱っ!」

とある世界の、とある大陸にある、ここコルン王国。

玉座の間に足を踏み入れた女メイドが発した第一声がそれだった。

玉座の間の気温が著しく上昇していたからである。その原因は間にいる男たちにあった。

走り回ってるからである、数十人の大臣たちが慌てふためいて乱雑に熱運動をしているわけだから 周りの空気は極端に熱く上昇していた。

「…えっと…、あの…お食事の用意ができました…。」

「今はそれどころじゃなーーい!」

一番せかせかと動き回ってる男が女メイドの言葉に答えた。

「それどころじゃないって、一体どうなされたのですか、アキレル様?」

アキレル=コマッターナ、ここコルン王国の賢臣をしていてもうすぐ50代最後の誕生日を迎える男である。

「国王が、シャル王がいないんじゃ…!」

もう完全にパニくって言葉も老化していた。

「いらっしゃらないて、一体どこに…?」

「それがわからんから焦ってるんだろうが!」

しばらくして、女メイドもやっとことの重大さに気付き熱運動に参加した。

「DPJGJTAG#*$!」

「JPMJ0Ag♂$$*!」

もうすでに玉座の間は、訳のわからない言葉が流通して、めちゃくちゃな空間と化していた。

「わぁ、一体どうしたんですか?」

少しして間に三人の少年少女が入ってきた。

「おお、ソフィア様!ついでにアロークとフィラー。」

ソフィア=コルン。この王国の王女。つまり今いないと騒がれている王の17歳の一人娘である。

「…ついでには、ひどいよな…」

アローク=シャルナ。コルン王国第3指令部所属の魔術師でこの大陸で五本の指に入るほどの実力の持ち主である。髪はしっとりとした青い瞳の16歳の少年である。

「本当だね、兄さん…。」

アロークの言葉に横にいる少年が答える。

フィラー=シャルナ。アロークの弟で学術に長ける少年、剣術などは苦手な14歳である。

「一体どうしたのよ?」

「それが、ソフィア様、だいへんなのでんす!」

「ちょっと言葉が無茶苦茶…落ち着いて話して!」

「シャル王がどこにもいらっしゃらないです!」

アキレルの言葉にソフィアたち3人は顔を見合わす。

「お父様なら、さっきトランス御祖父様の部屋に入って行ったけど…」

あっけらかんとソフィアが答える。

「…………へ?」

アキレル沈黙。

一同沈黙。

し~~~んと場が静まりかえる。

「……あ、あのアキレル様…?」

アロークがアキレルに声をかける。

「なんでそれを早く言わないんですか~~~!」

アキレルが絶叫する。

「だって今来たばかりじゃないの、私たち。」

あっさり返すソフィア。

ゴボッゴホッゴボッ。

ようやく気が落ち着いたアキレルの耳にそんな音が聞こえてきた。

「…あの、アキレル様…、兄さんをそろそろ…」

アキレルが自分の手元を見ると、首を締め付けられ泡を噴いてるアロークの姿があった…。



【芝生の間】コルン城地下三階にその間はある。

今のその間の入口ドアの前にソフィア、アローク、フィラー、アキレルはいた。

アロークが代表してドアをノックする。

………が返事がない。

「入ってもいいんじゃない?」

ソフィアが急かす。

仕方なくアロークはドアのノブを持ち前に押した。

………が開かない。

鍵は閉まってなさそうなのでおかしいなと思い、今度は引いてみる。

………が開かない。

もう一度ドアを必死に押してるアロークの横にソフィアが来て、ドアを右に押した。

するとドアは右方向にスライドして開いた。

お約束である。

当然、アロークは前につんのめって倒れた。

「こうやって開けるの!」

「それならそうと早く言ってください。」

「だって見てて面白かったんだもの♪」

「……………。」

アロークは恨めしそうにソフィアを見るがソフィア、アキレルは気にせずそそくさと先に進んでいってしまった。

「兄さん、大丈夫…?」

まだうつぶせに倒れたままのアロークにフィラーが手を差し出す。

「フィラー、お前も気付いてたんなら早く言ってくれ。」

するとフィラーは満面の笑みを浮かべ

「実は僕も見てて面白かったから…」

「………。」



芝生の間と言っても一面木や花が植えられてあり森の間と言ってもいいくらいである。

間は結構広い。

「すごい。」

初めて見る光景に驚いてるアロークとフィラーにソフィアが声をかける。 「そういえば二人は初めてだったわね。ここは最近できたばかりだものね。」話し合ってる3人をよそにキョロキョロと周囲を見渡すアキレル。

「あ、トランス様!」

二つの影を発見したアキレルがその影に歩み寄った。

影の片方の方がアロークたちに気付く。

「おぉ、お前達よく来たな。」杖をついた白髪の男性の方が声を上げる。

「御祖父様おはよ。」とソフィアが答える。

「おはようございます。」とアロークとフィラーが続く。

ところでアキレルの方はというと

「あれ、アキレル様?…冷たっ!!」

「凍ってるよ、アキレル様が…。」

そうなのである。アキレルは顔を真っ白にして固まっていた。

アキレルの視線を追っていくとそこには花に埋もれていびきをかいている男の寝姿があった。

「あら、お父様じゃないの。」とソフィア。

「こ・く・お・うーーーー!!」

凍りついていたアキレルだが、体の氷を割って、ものすごい喧噪で国王に近付いていく。

当然、アキレルの大声でここコルン王国の国王であるシャル=コルンも目を覚ましている。

「こんなところで何をされてるんですか~!!」

「寝ている」とあっさり答えるシャル。

あまりにもあっさり答えられたので、意見に迷うアキレル。

「何で仕事もしないで寝てるんですか!!」

「眠いからじゃないの。」

と横からあっさりつっこむソフィア。

「………。とにかく玉座の間に…。」

言いかけたアキレルが再び凍りついた。

シャルがまた寝息をたてていた。


ソフィアたちが凍りついたアキレルを引きずって出ていくと、芝生の間は沈黙で覆われた。

間にはすでにシャルとトランスしかいない。

沈黙を先に破ったのはトランスだった。

「いいのか、まだ…。」

声をかけられたシャルはいまだ横になったままだが、さっきまでの、のほほんとした表情とは一変、鋭い眼光を放っていた。

「えぇ、まだレナーグの気は感じられない。それに迂闊に動けば、多くの血を流しかねない。風の四戦士もまだ揃っていませんし、まだ私の力も完全じゃないので…。」

「で、お前の力は戻るのか?」

「わかりません。もしものときは継承の儀を考えてます。」

「継承の儀か…。」

トランスとシャル、二人の親子の問答が終わると再び芝生の間に静寂が訪れた。



コルン城地下1階第1司令部へと続く廊下をフィラーは1人歩いていた。

しばらく歩いていると前に人影を発見する。

「あ、フェルトさん。」

気付いたフィラーが声をかける。

声をかけられた男性はどうも浮かない顔をしていた。それに気付いたフィラーは言葉を付け足した。

「何かあったんですか?」

「いや、今日付けで第1司令部を辞めることにしたんだ。もう姫様の許可も取っている。」

と声をかけられた男性フェルト=レノンは渋々と答える。

「え!?フェルトさんが第1司令部に残ってる最後の1人だったのに…」

「仕方ないさ…部長があれじゃな…。あ、戦時資料を取りにきたんだろ?俺のディスクの上に置いてあるよ。取っていくといい。」

「…残念です。」

肩を落とすフィラー。

「お前も大変だな、兄貴があれじゃな…まぁ頑張ってくれよ」

とフィラーの肩を叩くとフェルトは去っていった。

「全くしょうがないな兄さんは…。」

フィラーはトボトボと第1司令部に向かって歩き出した。



「うわっ!やっぱり酒臭っ!」

第1司令部に入った途端鼻を刺す臭いにフィラーが声をあげる。

慣れてるとはいえまだ14歳のフィラーには辺りを漂う酒の臭いは堪える。

臭いの発生源は部屋の奥で酒瓶を片手に持ったまま机の上につっぷしていた。

「もう!兄さん!」

フィラーが臭いの発生源バキール=シャルナに詰め寄る。

「なんだ、フィラーか…」

「なんだじゃないよ、昼間っからお酒飲んで!しかも仕事中に!」

フィラーはバキールから酒瓶を取り上げる。

「堅いこというなよ、どうせ暇なんだし。」

「それは兄さんがまともに仕事しないから、姫様があきれて他の司令部に仕事を割り振ってるからだよ!」

「なんだそうだったのか…。」

バキールの言葉にフィラーは絶句する。

「まさか今頃気付いたの?呆れた…。少しはアローク兄さんを見習ってよ。今も修練の間で新しい魔術の取得に必死になってるよ。いつも努力してるんだから。」

「アロークにフィラー、立派な弟2人を持って兄は嬉しいよ」そう言いながらフィラーから酒瓶を取り返し、一口飲み、

「そういえばお前、今頃の時間は姫様と学術の時間のはずだろ?」

「学術は中止、なんかメリア王国の使者が来るとかでね。今、上はバタバタしてるよ。」

「それで、姫様は?」

「今はお風呂のはずだよ……ってどうしたの兄さん?」

フィラーは急に立ち上がり部屋を出ていこうとするバキールの腕を掴む。

「いやちょっと大事な用事があってな。」目がキラキラと輝いていた。

「さっきまで暇だって言ってたよね。………兄さんまさかとは思うけど…。」「いいから!お前が心配するようなことは何もない!」そう言ってフィラーの手を振りほどく。

振りほどかれバランスを崩すフィラー、体制を立て直すと、そこにはもうバキールの姿はなかった。

「……。だいたい想像はつくけどとりあえずアローク兄さんに報告かな…。」

フェルトの机の戦時資料を手に取りフィラーも第1司令部を後にした。



コルン城3階にある大浴場。このコルン城には浴場は一つしかなく男女交代制がルールである。

日中は利用者がほとんどいないので【男子入浴中】【女子入浴中】のプレートを入口にかけて利用するようになっている。

コルン王国は代々身分性別分け隔てなく接してきた歴史があり、今は閉鎖されているが最上階には混浴の露天風呂もあるぐらいである。


30人ほどが一気に入れる広さの浴場でソフィアは一人入浴していた。

入浴を終えて脱衣所に入ったソフィアの傍らに突如人影が現れ、肩に手を添えてきた。

「いやぁ~、今日も姫様は美しいっ!その引き締まったウエスト、魅力的なヒップ、胸がちょっと残念ではありますが…痛っ!」

肩に置いた手をつねられるバキール。

「もうっ!またあなたなのバキール!いっつも女の子を追いかけ回して!そんな調子だから女の子は誰もあなたの第1司令部には近付かなくなっちゃうんじゃないの!男子もあなたの酒癖の悪さに出て行っちゃうし……って聞いてる?」

「姫様の色気に見とれてたました…」目をキラキラさせて微笑むバキール。

「………」

呆れて肩を落とすソフィア。

「だいだい、よく堂々と入ってこれたわね、【女子入浴中】のプレートかかっていたのに!」

「姫様しか入ってないことはわかってましたからね、私もご一緒しようと【男子入浴中】のプレートに変えておきました。」

満面の笑顔で答えるバキール。服まで脱ぎはじめた。

「ちょっと~!誰か入ってきたらどうするつもりよ~!」

「初めてうろたえましたね、私に見られても気丈なままだったのに。」

「あなた達3兄弟は昔からのいっしょに育った兄弟みたいなものだもの!」

慌てて脱いでいた服に手を伸ばそうとしているソフィアにバキールが声をかける。

「大丈夫ですよ、こんな日中に誰も入ってくるわけ…。」

ガラッ!

言いかけたそのとき入口のドアが開き、長身の青髪の青年が入ってきた。 「ありゃ、ライトリアか…。姫様、ライトリアが入ってきちゃいましたよ。ってあれ?姫様…?」

ソフィアは顔を真っ赤にしてカチンコチンになって固まっていた。

対するライトリアも突然のことに呆然と立ち尽くしたまま。

「お~い!姫様~。」

つついたり撫でたりするバキール。

「だだいじょううぶよ、わたたしはとりあえずこれでおじじゃまするわ…。」

ようやく固まりが溶けたソフィアだがロボットのような言葉と動きでバスタオルのまま、服を抱えて出ていこうとする。

そのとき。

廊下から物凄い駆け足の音が聞こえたかと思うと、勢いよく入口のドアが開かれた。

「姫様ぁ~!兄さんがまた余計なことを!大丈夫ですか!!」

肩で息をしながらアロークが入ってきた。

ドアに手をかけたままだったソフィアは開けられたドアの勢いとともに持っていた服を落としてしまう。

が、床に落ちたのは服だけではなかった。

「え゛!??」

床に落ちたバスタオルと一糸まとわぬ姿のソフィアの前に一同が固まる。 次の瞬間。


「きゃゃぁ~~~~~~っ!!!」

ソフィアの悲鳴が場内にこだました。


「何事だぁ~!」

慌てて駆け付けてきたアキレルが目にしたのは

体中にビンタのあとをつけて、湯舟にぷか~と浮かんでいるバキールとアロークであった。

ライトリアだけがなぜか何の被害も受けていなかった。



「…全く…酷い目にあった…」

「兄さんの巻き込まれ体質、ほんと大変だよね…。」

コルン城謁見の間に続く通路をアロークとフィラーは二人で歩いていた。 「姫様もしばらくライトリアさんと顔合わせられないかもね…。」

「…かもな…。」とアロークが答える。

「ライトリアさんがこの国の将軍になって、もう2年だよね。傭兵上がりで将軍まで上り詰めるんだからすごいよね。」

「この大陸で五本指に入る戦士でもあるしな…。」

「それを言うなら兄さんも五本指の一人でしょ?」

「こっちはやっとナンバー5に上がったばかり、向こうはナンバー2を維持し続けてる。全然違うさ…一度も手合わせに勝ったことがないしな…。」

「姫様も惚れるわけだね…」というフィラーの呟きにアロークが立ち止まる。 「あ、ごめん、怒った?」

「怒ってない。相変わらずヅゲヅゲ物を言う弟だなって思っただけだ…とにかくこの話は終わりだ…急ぐぞ。」

そう言ってアロークはさっきより早い速度で歩きはじめた。

メリア王国。この大陸の【三つ柱国】と呼ばれる三強国の一つ。そのメリアからの使者がこれから謁見の間に訪れることになっている。


運命の歯車が今大きく回り始めた。

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