第2話/美女アスティナ
"見知らぬ土地"で“自分の状況”がわからぬ今。
訪れるのが敵でも味方でも貴重な情報源だと判断するのだった。
ん~ここか…やっぱり夢か?いや場面切り替わっただけか?随分長い夢だな…どこまで夢でどこまで現実かわからないじゃん。気がつくと例の別荘のような家の本棚の前にいた。
ガタガタ…ガタン
ん?誰か来た?どうする?誰っていうか…誘拐犯の可能性が一番高い、隠れるか?
「うっ」
自分の周りに本が山積み…勝手に見ていたの知られたら気まずいぞ…。途中から絵本に夢中で自分の現状を忘れていたのだ。まずい状況だ。
トトトッタ〜トッタトッタ〜
と足音が部屋の端の扉の向こうから聞こえてくる。玄関らしき所から思いの外、距離あるようだ。『室内を探索足らなかったな…』だが身動きする時間は無いように思える。
パタンッ
『まずいっ』慌てるが扉から人が入ってきてしまった。せめて、本を武器?楯にできるように持ち動けるよう腰を浮かす。
ところが、その人は無防備だった…大荷物を抱えているようで見えない…金髪が長く揺れているので女性と判断した。フラフラと歩いているので慌てて近ずいた。ソッと荷物を支える。おぉ外人さんだ。
「may I help you ?」
と声をかけてみた。とりあえず様子見だ。女性なら如何様にでもできるから危機感がないから警戒を解く。
「あっありがとう〜起きたんだ?体調はいかが?」
あれっ日本語だ?と俺は思い少し安心した。言葉が通じるのことが敵でも味方でも最重要だ。交渉するにせよ駆け引きするにも言葉が通じないと何にも出来ずに殺される可能性が高い。
「あっ元気です。これどこに置きます?」
この袋、大柄の大人が入れるくらいのサイズでかさ張るがそんなに重くはなかった。
「そっちのキッチンテーブルにお願い」
「はい、わかりました。」
…しかしスッゴイ美人さんだ…。年上だろうか?光でできたような金髪が波立ち、宝石みたいな緑眼で堀の深い目鼻立ち。白人でグラマー?いや細身なのに胸は豊か、スーパーモデルを思わせる。気になるのはエルフを思わせる長い耳はなんだろうか本物の耳に見えるが、そんな感じのアクセサリーが流行っているのだろうか?
「申し訳ありません。あちらの絵本を拝見させていただいてしまいましたがよろしかったのでしょうか?」
状況がわからないが、はじめて使う敬語で、とりあえず、勝手な行動の謝罪から会話を繋ぐことにした。
「…ええ、いいわよ?」
その人は食品やら雑貨、生活用品らしき物をかたずけている。俺は彼女に危険は感じはないので素直に聞いてみることにした。
「あの俺、全く自分の状況がわからないんですが、俺はなんでここにいるんですか?」
「あ~今朝ね、“カルビアの森”で倒れたから、ここまで運んだのよ。」
なんで森?ぜんぜん目が覚めなかったし…でもお礼を言う必要があるのか?
「ありがとうございます。どうやらご迷惑をお掛けしたみたいで申し訳ないありません。」
俺は素直に一礼した。
「いいのよ。お客様がくることは珍しいから♪今からお食事を作るからちょっと待っててくださいね。」
「ありがとうございます。」
状況も事情もわからないが、どうやら食事にはありつけるなら今は良いとしよう。
「あっ俺、西園寺蓮って言います。レンって呼んでください。」
「私はアスティナ・シャルロットよ。アスティでいいわよ♪よろしくね!」
「よろしく〜」と握手した。
…シャルロットが姓なんだろうか?外人さんをめずらしいと思ったことはないのだが、すごく綺麗だから、ボーっとアスティナさんの顔を見とれている。
…
……
………
…………
アスティナさんは、ずっと笑顔を向けてくれている。アスティナさんが瞬き(マバタキ)を数回してから、
「…いつまで握手してれば良いのかしら?」
と聞かれてしまった。
「あっすいません。綺麗で柔らかい手だったので…」
本当は、テーブル越しの握手だったから、アスティナさんが前かがみになった角度で、"顔"と"顔越しの胸の谷間"に目がいってしまい思考停止してしまったのだ。『しまったξ』手を誉めることで、誤魔化したつもりだったが逆により変質的な表現だったかもしれない…ヤバい。
アスティナさんは、自分の手を不思議そうにヒラヒラッと自分の手を見て
「…フフフッありがとう♪」
アスティナさんは際して気にせず、鼻歌を歌いながらご機嫌で夕飯の支度を始めてくれた。文化が違うおかげで社交辞令とも変質表現とも感じなかったようだ。平気だった?余計な心配だったか〜よかったよかった。さすがに初対面から不快に思われたくない。
…さて、そう言葉にあった通り、実は"夕飯"である。上がり始めだと思っていた太陽はいつのまにか低い位置になってきたようで影が長くなってきたのだ。
とりあえず、テーブルの席について、アスティナさんの後ろ姿を眺めていた。…釜戸に火をいれ、野菜を切っている。…釜戸なんだ?手際は見事だけど、バタバタ大変そう…
「何か手伝いましょうか?」
と声をかけた。日本でボーイスカウト活動をやっていたし、家でもそこそこ料理は手伝っていたから、実は得意。うちの家族は料理を全員で作る風習なのだ。みんな一緒の日のルールで、母が決めたコミュニケーションでもあった。なんらかの理由でいない日は、幼馴染みの女の子とそのママが夕飯を作りに来てくれた。その時の俺は手伝った。昔はお手伝いさんを使っていたが、おばあちゃんだったので亡くなってしまって以来雇っていない。
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まずは七面鳥位の大きな鳥だ。羽根と毛をムシってザクザクっと捌く。鳥は素人でもある程度知識があれば、簡単に解体できる。首は落とし、内臓をしたから、引き出し胴体を刃の分厚い包丁で半身に切る正中線で骨ごと両断する。包丁を代え、胸のトコロのヤゲン軟骨とむね肉の芯にあるヤゲン軟骨を傷つけないように気をつけた方が良い。手足を脱臼させてから骨のない隙間に刃を入れ切り離す。そうすれば筋切り包丁の刃を痛めなくて良い。
むね肉をミンチにして、"つくね団子と磯辺焼き"に、
そして、モモ肉は、骨にそって切り開き骨抜きをして、膝の部分の軟骨だか白い筋をとり、味が染みるようにジャガーの代わりにフォークで穴をあけた。モモ肉を8等分の角切りで"だいぶ大きい唐揚げ"に、おまけで手羽先をチューリップに、手羽元はそのまま一緒に味付け(塩、胡椒、山椒みたいな生姜、ニンニクっぽい球根、なんかの風味のあるタレ、)ボールに漬け込んで揉みこむ。唐揚げ粉の代わりに…片栗粉っぽい粉に辛い粉を少々混ぜて、油にポンッ
ある調味料を調整して和風になるように仕上げて、アスティナに披露した。
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『…今回は料理ってほどじゃないから、次回は日本人の名にかけて、日本食でもっと驚かせてやるぞ!』と心の中で意気込む。
そして、アスティナさんは何を作ったかと言うと“ボルシチ”に近いものをメインにコース料理レベルで作ってくれた。飲み物は、ブルーベリーっぽい味のワインだか?カクテルみたいなモノをいただいた…俺は未成年だが、おいしかった…
アスティナさんと料理の異文化交流の話で盛り上がる。頃合いを見計らい本題に入ることにした。前提条件に、自分は昨夜、日本の自宅で寝ていたはずなのに、気がついたら、この家の二階の部屋にいた。アスティナさんがカルビアの森で俺を見つけたというが、この土地に、いつ来たかのかわからない。そして、昨日まで冬だったが、ここは夏の気温で夜は冷え込む…標高が高いってことだろう。加えて、アスティナさんは日本語を話しているのだから『帰りたいこと』を伝えた。アスティナさんは静かに真剣に俺の話を聞いてくれた。
日暮れと共に夕飯も終え、バルコニーに手を引かれながら誘われ、デザートの果物とチーズとオリーブをおつまみに、ブルーベリー酒を進めていく。
アスティナさんがランプに火を灯し、声を発する。
「คุณรู้ไหมว่าคำนี้」
「え?なに?」
アスティナさんが急にきっとこの土地の言葉を発したのだ。何を言っているかがわからない…手を引かれ、部屋に一歩踏み入れた。
「今度はわかる?」
とアスティナさんが言う。部屋とバルコニーを自分の意志で往復してみる。頭を部屋の空間に入れると理解できる。もっと厳密に、左耳を部屋中に右耳をバルコニー出すように半身に入れてみると……なんとバイリンガル?主音声副音声状態になる?
「คือการมหัศจรรย์ของการแปลอัตโนมัติในบ้านหลังนี้(この家には自動翻訳の魔法がかかっているのよ。)」
「魔法?」
…普段なら電波系美人?日本の漫画ファン?とも思えるが…リアルに謎の状況を見せられると…何故なら、現在の科学では、電気もなく機械もなく、不可能ではないか?音声の音波がどこで変換されているのか…。
日が隠れ、空の闇に星が徐々に増えていったのだが…愕然とした。ここは地球ではない…それドコロか銀河系でもない…とわかったのだ。星座は好きだが、星に詳しいわけではない。でも、ひと目でわかる。仮に月が二つなら地球ではないことがわかるくらいだが、銀河系じゃないことがわかったのだ。何故なら、天の川が十字になっているのだ!
「すごい星の数…綺麗だ〜天の川が十字だし〜」
思わず現実逃避か?美しさのせいか?考えることはいくらでもあるのに思考停止し、しばらく空に吸い込まれていた。
プラネタリウムだと思う方が現実的か?アスティナさんは遠回しに日本語を知っている訳ではなく役にたてないと言っていることになる。
アスティナさんが明日、カルビアの森で俺を見つけた場所に案内してくれると言う。そして、帰れるように協力してくれると言ってくれた。その場所の周辺に何か手掛かりがないかを探してくれると至れり尽くせりだ。
今夜は、アスティナさんが一階の部屋、俺が二階のさっきの部屋で寝ることになった。風変わりな風呂と歯ブラシ、アスティナさんの父の寝間着と衣服を準備してくれた。ベットに入り窓から十字天の川を見て、今日の話を整理しようと思う。
アスティナが日本を知らないのだ…。アスティナさんによると、この国は、グリーンコーストというエルフ領だと言うことだ…。『グリーンコースト?なにかと同じだ…』
あと、この千歳緑色(ever green)のベルト付きの本も気になる。アスティナさんは気軽に普通の本のように貸してくれた。
想定していたのは、“誘拐”だったが状況はそれを超えた問題が発生している。
現在地がわからなければ帰ることもままならない。ここが地球の場合、完全隔離されていて外の情報が入らないで独自の進化をしているガラパゴス化している場所の場合とアメリカなどのハリウッド?もしくは大掛かりなテレビ番組?ネット番組?ドッキリだろうか?心理実験って場合だろうか?
睡魔でマドロミ思考整理を出来ないまま眠りに落ちてしまうのだった。
▼▼The world in the book▼▼▼▼▼▼▼▼
ところがまた俺は墜ちた。本の中に…
目が覚めたら、またベロンの世界だった。なぜかアスティの世界では、ここの記憶が曖昧になっていたのはなぜだろうか?とても不思議だった。
窓から見える天気も晴々と良い天気だ。庭に出るとベロンはすでに起きており、剣の素振りをしていた。その横には師匠と思われる人が指導していた。寝ていても仕方ないので彼のもとに行ってみることにした。
「おはようございますー」
「おぅ、おはよ、レン殿」
ベロンは手を止めて振り返った。
「師匠、昨夜話した恩人です。」
二人とも長身のだ。ベロンのお師匠にいたっては220㌢はあるだろう…『巨人症』の心配があるのではないかと思う。
「初めまして、ヤマト族のレンです。お見知り置きを」
ベロンに習い、少し変わった敬礼を真似る。
「そうか、私はハイエルフ族のブレイド・ミカエルと申す。この未熟者が世話になった。」
「いぇ、とんでもない、たまたま居合わせただけです。」
「…なるほど、若いのに“礼節”は身に付けいるようだな…。腕もたつか?」
「ハイ、師匠なかなか視野が広く身体能力も高いようでした。レン君、師匠は“エルフの剣聖”と言われる御方なのだ。」
「どれ?お前達、軽く遊んでみるか?この細い枝を剣にして折れたら敗けだ。戦ってみよ。」
「ハイ、師匠」
ベロンはイエッサー的なノリで答えてるが俺は戸惑った。
「えっいきなり?なんのためには戦うんですか?」
俺は訳がわからなかった。
「言葉の通りのルールで単純な遊びだ。」
師匠は有無を言わせない雰囲気だ。
「…言葉通りのルールって言っても…?」
俺が二の足踏んでいると
「気にせず、腕試ししよう‼どうせ小枝だ怪我はせん。」
ベロンが豪快に誘った。
「~なるほど…こちらの決闘のルールとか知らないんで形式に乗っ取らなくて良いですか?」
「この小石を投げるから、落ちた音が開始の合図だ。開始まではベロンの真似をせよ。戦いのルールは無いようなモノだ。開始したらルール通りだ。」
とりあえず事情も状況もわからないが勝負事は心構えがちゃんと戦闘モードで集中しているかが大事なことはさすがに俺でも学んでいる。腹をくくって息を吐く。
ベロンと距離をとり、枝を剣に見立てていくつかのポーズを真似る。印象としては西洋の作法のようで片手剣だが、斜めに構えるでも、フェンシングの構えとかではなく、肩幅より少し開いたら立ち方に、右肘を少し曲げた位の感じの構えだった。
例えるなら西部のガンマンの決闘のポーズだ。速打ちではなく、すでに剣に見立てた枝を持っているのだから、構えの意味が見いだせない…。ただ左腕の構えが楯を前提としたモノの変化のように思えた。右手の剣が下段防御の構えで左手も盾防御の構え?様子見ってこと?
~ならばと俺は剣道の両手持ち“中段の構え”を普通に構えることにした。剣先をベロンの鼻に合わせて“星眼の構え”でスタートして、相手の動きと雰囲気に合わせて、“星眼→晴眼→平青眼→青眼→臍眼”の構えを変化させて様子を見る。どうやら、“先端恐怖症”というわけではないだろうが、剣先を目に合わせたら落ち着きが無くなるので、ポピュラーな剣先を目と目の間を刺すような“晴眼”を基準に、敵の攻撃意志を感じたら即、剣先を左目に向ける“青眼の構え”で牽制することにした。
非常に小さい動きだが、ベロンは慣れていないのか。意識がすっかり俺の枝先に集中されていて俺の姿が見えていないようだ。
コツッ
スタートの合図だがベロンは迷いを見せている。俺の枝の先に視線を注ぎっぱなしだ。ベロンが右に動けば右に、左に動けば左に向きを合わせる。攻めてあぐねた時点でイニシアティブは俺が頂きだ。
業を煮やしたベロンは俺の枝を狙って枝を降り始める。とりあえずは剣先をヒョイっと避けながら後ろや横に移動する。大きく距離を取りながら、俺はベロンの師の言葉で気になったことを思い返していた。『…枝を剣にして折れたら敗けだ。と言い、“言葉の通りのルール”で単純な遊びだ。と繰り返した。…“戦いのルールはない”とも』その勝負の主旨、勝敗決定は【枝が折れたら敗けとなる。】この勝負は“剣の勝負”なのか“枝を守る”勝負なのかわからないではないか…“剣の勝負”のつもりで開始したが“枝を守る”勝負なら、的を枝にしてしまった俺の作戦は逆効果で折れて負けてしまう。良くて相打ちか?運で勝敗が決まってしまう。
【枝折り勝負】なら方法を考えよう。
俺の枝とベロンの枝はたぶん同じ木で太さも長さも同じで違いは節の位置くらい強度で勝つなら“節で斬る”か“突き”か?ちょっとずれたらアウトだから現実味がない。相打ちなら、ベロンの枝の真ん中を俺の枝の鍔|(枝の根元)で受ければ良いか?もしくは肘か膝か掌底折るかだが、体に当てると敗け判定も想定される。周辺の柵や岩や壁か木に幹に当てるってところか?
チラッとベロンの師の様子を見る。
ん?なぜか驚いているようだ。視線をベロンに戻すが特に変わった動きないのだが、そろそろ枝への執着を捨てて貰おう。彼は完全に剣の勝負のつもりでいるようだから、枝を中段に構えなければ意識が変わるだろう。剣を下ろしノーガードスタイルで回避徹底っていうか徹底的に逃げる。気になった枝が無くなると、頭や体に狙いが変わった。地面や壁や柵などに近よりベロンの枝をギリギリで避けて枝で壁や柵を打たせる…意外に剣先をぶつけるんでは折れにくいようだ。
チラッとベロンの師の様子を見る。
今度は思案顔だ。視線をベロンに戻すが特に変わった動きない。剣の振りが大振りだが洗練された剣術ではあるように感じるが、いかんせん単純だ。枝を折る作戦がバレないように剣をみせておくか!ベロンが上段から振り下ろし地面を打った瞬間に片手剣フェンシングスタイルで剣を顔の前で一度構えてから、全体重を右足にかけ、一気に踏み込んでベロンに枝を折り、同時に突きを放つ左肩に一閃っ。
…勝負が決した。ベロンの枝を折り、さらにベロンの左肩を俺の枝が突いている。
「そこまで!………しかし、これ程とは…」
ベロンの師は驚きの声を漏らしているベロンに習い戦闘終了の礼を構えた。
「師匠、左肩を貫かれてもまだ戦えます。」
気丈にいうが表情は敗けを強く意識した表情だ。
「ベロン、問題は“剣の勝負”だけではないのだ。レン殿の“智”を測ったのだ。戦う勝負ではなく守る勝負と判断できるかを見たかった。」
「守る勝負ですか?」
ベロンは師匠の前で礼をして座った。
「勝負の勝敗条件は、勝ちは、剣を折ること、あるいは心を折ること、敗けは剣が折れること、または急所を打たれることだったのだ。」
ベロンの師も座り、俺に手招きをした。
「弟子の多くのモノは、剣を折ることと心も折ることを両立させたモノはいない。智に長けたモノは、身で剣で受け敵の剣を折った。武に長けたのモノは剣をぶつけ合い諸刃の剣となり両者とも折れて勝敗を決した。」
俺は無意識に戦わなくてよかったと安心した。
「さて、ベロン、お主はどう考えた?」
「私は剣の勝負に徹しました。彼の身体能力はわかっていましたが、どんな剣術を扱うかはわからないので深入りは避け先手必勝で積極的に攻めることを考えました。」
「ベロンは良く集中しておる所はよかったが、目先のモノに囚われすぎじゃったな。レン殿はどうじゃ?」
「俺もベロンさんの剣術を知らないので、とりあえずは、枝を的にしてもらって様子を見ようと思いました。でも勝利条件が枝を折ることだったことを思い出して、途中から的を自分の身に代えました。」
「うむ、レン殿は勝負の最中に何度か儂の表情を見る視野があった。集中力にかける行為だが、ベロンの心理を操り、ターゲットを剣に誘導して自身の体への攻撃を遠ざけることで回避率を上げていた。考える時間を稼ぎ【言葉の真意】に思考を巡らせる余裕を作っていたのは見事、考えがまとまるとターゲットを枝から自身の体に移させるために剣を下ろし、同時に儂へ自分がベロンの剣を避けきる回避速度と反射神経があると示しつつ、剣の折り方タイミングを謀る。ベロンの性格を考慮して剣の勝負の形も残して勝負をつけようにした結果が足で折って剣で突くだったわけだな。」
「レン殿、うちの弟子のためにもう一本付き合ってもらえるかな?」
「はい」
「今度は儂が相手じゃ、初撃決着で枝に体が触れたら敗けだ。」
「はい」
ベロンの時より、さらに3㍍位遠くで構えあった。俺は同じ剣道の両手中段の構えでベロンの師は、片手上段の構えでフェンシングのような感じだった。
…コツッ
一瞬だった…ベロンの師の枝が俺の顎にチョンっと触れた。
「えっ?あっ参りました。」
15㍍はあった距離をまだたきの間に詰められてしまった。身長差のせいで俺の中段の構えの上から枝と腕の長さで俺のリーチでは届かない距離だった。速度も人の域ではないのでどうにもならなそうだ。
「師匠、なぜいきなり奥義を?」
「儂らに修行のために彼を慢心させては彼の師に申し訳ないからな。」
「どうじゃ?しばらく一緒に修行せぬか?この奥義はベロンもできるぞ!」
「はい、学ばせてください。」
俺は弟子入りした。それから俺とベロンは、“剣聖の修行”を受けることになった。師匠の修行は実技だけでなく、座学もあり、ベロンは俺との決闘以来、座学にも力を注ぐようになった。それまでは不要と思っていたらしく、真面目に行わなかった。戦闘においての心理戦の重要さがわかったらしい。俺は、何気なく知っていた剣道の知識や武蔵の五輪書とか色々な雑学が、ここ具体的に実感できてきた。
そして、奥義だが驚くことに剣の動作や剣と体の動きを記録して、一度目の技に二度でさらに力を上乗せできる技術が発達している世界のようだ。どういう構造かさっぱりだが奥義と言っているこの剣技はゲームのような特殊効果にしか思えないモノで楽しい。
例えば、極端な話だが平凡な高校生がパンチングマシーンをパンチして、仮の60㎏だったとする。それを記録すると二度目は120㎏、三度目180㎏、四度目は240㎏となっていく。二十回で1,200㎏となる。それは格闘家の蹴りをも上回る。
威力の上乗せ、速度の上乗せ、熟練度がそのまま無敵となる技のようだ。単純だが回数がそのまま強さで、さらに人に継承していける奥義のようだ。
ベロンと“掛かり稽古”と“打ち込み稽古”をして、仕上げに“地稽古”を繰り返してついていけたのだが、“小枝勝負”で勝ったつもりでいたベロンは、尋常でない強さで剣の達人だった。重い剣と重い楯を持ち動き続ける体力…それだけで勝てない。加えて、奥義の基礎の剣技を交えた戦いでは、何をしているかわからないうちに負けてしまうのだ。
…それに追い付くための師匠との奥義の基礎訓練も精神疲労が激しくで度々気を失う~その数回後、微かな意識で渦にのまれたような平衡感覚の混乱と共にどこかに流されていく感覚があった…。
そして、武術では、珍しいと思われる“感想戦”をもおこなった。将棋などの盤面ゲームで棋譜等の記録は普通だが、立体戦闘でのスローモーション戦での再現していくのは面白かった。お互いに動きの改善点を考え技の組み立てや秒数のよる行動限界をまもり、剣の勝負なのに詰め将棋的な作戦だったり、重心の移動や有利な足場取り、体運びを学んだ。中には声かけによる“だるまさん転んだ”みたいな停止と再生を繰り返す試合も行った。
▲▲I get out of this world▲▲▲▲▲▲▲▲
美女との出会いから、事態が想定外に難易度が上がっていくのであった。