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パラレルユニバース  作者: 北条龍人
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第1話/見知らぬ土地

挿絵(By みてみん)

 実は異世界に来てしまった主人公は、まだその事実に気がつかない。常識として、異世界なんて信じられないから思い浮かびもしない。

 情報がないから藁をも掴む勢いで手当たり次第、手掛かりになるものを探すのだった。

 今朝は寝苦しく暑かったので眠りが浅く何度か寝返りをうった所で気がついたことがある。今は冬、寝る時は暖房をつけてない。

 ガバッ身を起こし周囲を見回すと見知らぬ部屋だった…。

「……?」

 さてっ昨日は何したっけ?まず普通に中学校から帰って夕飯を食べ、テレビを見てから風呂入った。ネット検索をしながら友人とメールし、オンラインゲームで待ち合わせた。珈琲を飲みなから深夜まで楽しんだ末に眠たくなり床についたのだ。

 もちろん、未成年だしお酒は飲んでない。イヤイヤ…こんな思考は、現実逃避でしかない。可能性の無い思考はやめよう…

 まず"問題"はこの異常な暑さだ体感25℃以上、冬にこんな気候の変化ありえるだろうか。いやあり得ない。当然、夏場なら30℃まであるだろうが…何度も言うが今は冬だった。

 次に窓から見える風景は見事な美しい大自然で地平線には山々、この家までに湖と森、草原が広がる。俺は思わず窓に駆け寄り景色をみてワクワクする。

「おぉーすごい綺麗〜…」

 イヤイヤそうじゃない俺…思い出せ俺……のんびり景色見て感動している場合ではない。浮かれてるな俺…。昨夜、喉が乾きで目が醒めたから冷蔵庫の飲物を飲みに行った。トイレに寄ってからベットに戻った。その時、冬に珍しい嵐だったのも覚えている。たぶん3時頃だった。体内時計で今は午前6時位のはず、さて…家から3時間で移動できる範囲にこんな場所はない。気温や木々、風景は日本ではない。空の青さ雲の高さ形日差しの強さか考えると夏だとすると、ここは南半球…飛行機に乗せられたとかかな?

「太陽の位置高いし…朝じゃないな…」

 日本からの3時間のズレの範囲内か?いや違うな…基準がない。体内時計と言っても寝てたから確たる確信も確固たる判断材料がない。レム睡眠ノンレム睡眠のパターンリズムも睡眠薬など使われたらわからない。腹の具合も悪くないし、腹部各場所押しても痛みはない。爪も伸びてないしツヤもある。暖かいのもあるが肌の調子もいい。


 とりあえず、見知らぬ部屋ではあるが文化的な生活…文明がある。それはわかる。自分を丁寧に寝かせ着替えさせてくれているようなので親切?だが状況的に“誘拐”されたのように感じる?睡眠薬の連続投与だろうか?吐き気もないし手足の痺れも無い。

 まずは情報収集をしよう。もちろん“誘拐犯”がいるなら刺激しないように、核心は後回しにして、必要な物を探そう…今は寝巻きだ。となればー


∞∞∞mission1∞∞∞

①【衣食住】

着替えと食糧の確保

②【状況把握】

体調(手足の痺れ、内臓の具合、筋力)の確認

現在地(国、街、言語圏、植物か動物の種類)で確認

③【交通手段&連絡手段】

 自転車、バイク、自動車、飛行機…お金がないからヒッチハイクになるか?仮に犯罪に巻き込まれた場合に逃げる手段で、無免許運転や自転車泥棒はダメなんだろうか?素直に警察か大使館を探すべき?

④【犯行目的、犯人対応】

 誘拐なら証拠品、スマホもタブレットもないから犯人の声を録音も写真も取れない。理由を知るためには犯人に接触する必要がある。素手なら勝てるが銃や刃物があればリスクがある。あとは格闘技の専門家の場合でもリスクだ。逆に敵としては、ナイフだけってのが一番半端で楽に制せるかな?犯罪するなら武装する。素手のようなら立ち振舞いを見て判断しないと危ない。あとパッと見て、巨漢か細身かで行動も変わってくるな。

⑤【誘拐方法】

 飲料に睡眠薬でも入っていたのか?クロロホルムでも嗅がされたか?ジオチルエーテル?ハロタン?どれも違うような気がする。小説で見かけるよう症状がない。薬の具合によっては副作用や後遺症も対応しないといけないから、成分分析用に薬の原液も持ち帰るべきなんだろうか?とりあえず、良いの使ってくれてればいいな…

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 まず“室内探索”タンスには衣類、棚には雑貨、飾られた絵の額裏にもヘソクリはない。別荘のログハウスといった印象。特に変わったものはないが部屋のあるじは人間性は落ち着いた優しい人柄と上品さが見てとれる。インテリアコーディネートから読み取れる人柄は、どうも誘拐犯の人間像ではない…明らかな富裕層の趣味だ。ここが犯人と関係ない家を勝手に使っているといった所か?


 室内だけでは情報が足りない。そうなると部屋の出口になる扉に鍵がかかっているか?かかってないかが“行動の分かれ道”、窓から降りるって手もあるが余計なリスクは避けたい。日本に見えない風景と言うことは小さな怪我でさえリスクを感じる。ただの水さえ自分の口にあうかわからない。鍵がかかっているなら、監禁で交渉の余地はなく、接触をとらずに、窓から逃げて近場の建物を探し情報を得よう。鍵がかかっていないなら、軟禁で交渉の余地がある。

 俺は扉にソッと近づき聞き耳をたてる。ドアノブの音がたたないようにソッとねじる。

「さて、第1勝負…」

 "カチャ"扉の鍵はかかっていないということは監禁する意志はないのだろうか?ずいぶんと甘い、俺なら監視カメラか手錠か施錠か遠隔コアモジュールで人体感知したものを随時連絡入るようにしておく。

 廊下に出るために扉をゆっくり開き足を踏み出し見回すと…隣も部屋だったか?斜めの天井に天窓から光が差し込んでいる。しかもステンドグラスだ。描かれている魔女の杖の魔法石や装飾品と魔法効果の部分の透過率が高く光輝いて美しい〜

 右側に下り階段があり吹き抜けになっており、下の階が見え、暖炉とソファーと本棚が見える。俺はさらに階段を静かに音をたてずに降りていく。階段の壁には、木の器や食器、木彫りの動物類、お猪口位の陶器、皿、指貫?箸置き?様々な小物のコレクションが並んでいる。たぶんパピルスが飾ってある。その端が丸まりがあるから湿気があることを示している。


 次は一階の部屋に人がいるかどうかだ。静かだし気配は無い。意識してからは、気を付けたのだが、起きた時に無意識に窓に駆け寄ってしまったから、犯人が感付くなら、その時の足音だけのはずだ。犯人が気を付きながら待ち構えているか?気を付いていないか?ここでも二者選択が発生する。待ち伏せ状態なら敵の有利、気を付けていないなら、どうやれば、自分の有利な立ち位置を確保するかが勝負となる。一目で確認したら思案する時間もできる。


「…第2勝負だな」

 本当なら鏡がほしいが無いから仕方ない。階段からそーっと顔を出し1階を見回すが、やはり人はいない…1階の部屋は2階の部屋の倍の広さがある。1階には広い窓がありバルコニーがあり森林浴にもってこいだ。窓から見下ろすと家庭菜園的な物とバーベキューの跡がある。

 部屋中央には6人掛けキッチンテーブルがある。テーブルクロスは木と葉が編み込み柄になっていて刺繍のようになっていて高価そうだ。床には4畳位の動物の革が敷いてある。触り心地は柔らかくスベスベ…オーストラリアのお土産のカンガルー革みたいだが継ぎ目がわからない。仮にこのサイズの動物がいたら象だろうか?あのサイズあれば皮が厚くなり感触が悪くなるだろうが、これは具合良い感触だ。


 人もいないことだし、フラフラと色々物色するのだが、一番、目に止まったのは本棚だ。俺は本が好きだったりする。俺はいろんな意味で自身が世間ズレしていることを知っている。

 世間を知るためにの一環で推薦図書も読みふけった。もっとも、その行動がズレてるんだがその時は気がつかない。ただ小学生の時に読んだ文学も、時間がたってから同じものを振り替えって読むと随分印象が違ってくるモノだ。

 小学生の時は訳もわからず読まされたが、成長過程で得た知識と経験が理解の幅を広げてくれるのだ。色々、読んだ末に、歴史が好きになったのをきっかけに読書に目覚めた。日本の戦国時代から中国の戦記モノだ、ヨーロッパの戦記モノ、さらにジャンルを選ばず読むようになったのだ。本は電気も使わずに長時間楽しめるのが良いと思う。


「とりあえず右上から」

 手に取ってみると革でできた本で横書きだ。ペラペラとページくっていくが読めない。なぜが英語でもフランス語でもなく、タイ語かロシア語かギリシャ語、アラビア語よりでなかなか身近ではない文字が並ぶ。この本も装飾美が過多だが挿絵はない。広辞苑サイズで重い…。本棚の本の様子を見ると一番下に薄くA4サイズくらいの漆塗り風の本にが気になり手に取った。

 それは絵本だった。


〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆

①【ตัวช่วยสร้างการใช้มังกร】

この絵本は“孤児が大魔法使いになる物語”

 色彩で豊かな絵で表現されている。印象派モネのような作風の物、隣も絵本のようで、これも様子を見よう。

②【ฮีโร่ประวัติพระมหากษัตริย์】

これは“貴族のいじめられっ子の少年が王になる物語”のようだ。

③【ดาบของอัศวินเซนต์】

次は“姫が魔物に誘拐しされ、騎士が助け行く”物語と言ったありがちな物だった。


 さらに【Сказка】妖精の話、【Природа храпа】植物の話、【Μυθολογία】神話【آلهة من الغموض】女神の話【المصباح السحري】ランプの話らしいもの、これの絵はゴッホ風!?ドンドン読み進み、ソファーに座りサイドテーブルに6冊、マガジンラックらしきモノに8冊、自分の右に11冊、左に15冊といつの間にか積んで行く。気のせいか言語形式が安定していないように感じる。様々な言語が入り雑じっているようだ。もちろん文字は読めないから絵を見ているだけ写真集や美術館のパンプレットを読んでる感覚だ。

〆〆〆〆〆〆〆〆〆〆


 こんな本ひとつでもわかることがある。文字がわからなくても大人達が子供に何を学ばせたいか。大概、教訓になっているモノ、どれだけの力を注いでいるかがよくわかるのだ。

 芸術性の高い絵を使っていたり子供の本にはあり得ない製本精度だし教育熱心だ…珍しいのは、室内には電気製品もコンセントも見当たらず電灯さえないって環境だ。単純に電線を引っ張れない山奥なんだろうか?


 自分に少し身近な物を触って落ち着いた所で考えてみよう。

 何故、自分はここにいるんだろう?そもそも自宅から誘拐されるものだろうか?

…実は『誘拐』される理由は、いくつかあったりもするのだ。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

①父がCEOだから、身代金を要求?有利な契約を結ぶ?あとは逆恨みか?

②兄が優秀な研究者だから、研究資料を要求されている?

③母は専業主婦のはずだが…昔は著名人で今は趣味の作家で著作権と何かの印税がいろいろあるようだ。

④祖父母が資産家で大地主だから広大な土地か?

⑤あとは俺自身の秘密のせいか?

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 …原因が多くて絞れない。情報がないとどうにも判断がつかない。


 ちなみに今時、珍しい仲良し家族だ。

 理由は俺で、いろいろと死に瀕してしまう問題のある赤ちゃんだったのだ。今でこそ1人で生きるようになれてきたが、幼児期は、家族全員が協力しなければ、俺は生きられなかった。家族の中にわかりやすい弱点があると家族は団結してくれて協力を惜しまない精神状態に導いてくれるようだ。まっそう俺は勝手に思っているがうちの家族は俺がいなくても仲良し家族だっだとも思う。

 そういう意味では、俺の不幸もどう転んでも悪くなかったと思う。


 物思いにふけていたが、再び俺は絵本の描写に集中していった。静かな時間が過ぎていくのだが、何らかの気配…視線を感じた気がして、フッと顔をあげたが周りを見回しても誰もいないのだが、本棚の方がなぜか気になるのだ。

 俺は本棚に近寄り様子を見る。人指し指で背表紙を一つずつ撫でて隣に隣にと触っていく…その中に千歳緑色チトセミドリイロのベルトのついた本があり、妙に雰囲気のある本だったので手に取りソファーに戻った。本の厚み、装飾、良い革を使っているが、かなり古い印象だが埃の匂いはしないしカビてもいないようだ。

 ベルトに手をかけたら、どこからともなく風が吹き込んできたようだ。剣先を遊革、定革と抜くと風が少しずつ強くなっていく、つく棒から小穴を抜いた。俺の髪を上昇気流の風が巻き上げて、髪は逆立っている。物凄く不思議な状況だが俺は本の中身のが気になっていて今の状況に気を止めなかった。尾錠から完全に剣先を抜き本を開いた。


▼▼The world in the book▼▼▼▼▼▼▼▼

 俺は墜ちた。本の中に…

 暗闇に落ち、全身を強い風が吹き上げている。感覚としては、スカイダイビングの感覚と同じだ。とりあえず、ベリーフライト(俯せの体勢)で安定姿勢を維持していた。

 『汝の器を測る。器を示せ』

 どこからともなく声が聞こえてきた。いつの間にか落下は止まっていて、白色の部屋に立っていた。正面に大柄な老人が立っている司祭のような教皇のような衣装を着ている。

「あの?なんの話でしょう?」

 俺はさっぱり状況がわからない。なんて話しかけても返事ない。老人は雄大な雰囲気で俺の後方を右手の錫杖で指し示した。振り替えると大きな門が並んでいる。それぞれ“地獄の門”のように彫刻に囲まれている。騎士がベースだったり、魔法使いだったり、王だったり、商人だったり、女性だったり、植物だったり、門のレリーフのデザインが違うからには、これで部屋の中の課題が違うって事だろうか?というか落とし穴だったってことか?いや、一番納得いく答えがあった。

「これって、夢か…なんだ。じゃ今から覚醒夢だな~って?それなら、あのじいさんもう少し会話してくれよ…」

 深層心理でRPG的なゲームを構築したんだろうか?なんにせよ。俺の頭が構築した世界なら、レリーフの読み取りがポイントだろう。お約束ははずさないだろう。


 俺は好きな扉(もちろん女性のレリーフ)を選び、そこに入ることにした。光に包まれ“どこでもドア”のように扉の向こうは見知らぬ町だ。そこまではいい…

 「何?この状況?」

 俺は公開処刑場のさらし台の上に出現したようで、右に首切り役人、俺を挟んで左に犯罪者らしき人物達(けっこう綺麗なエルフっぽい人達)、周囲の警備の兵士(オークみたいなマッチョ?)と野次馬(村人?)、見届け人、貴族らしき人達など、中世のような出で立ちだった。全員の注目を集め、俺の寝間着姿が物凄く浮いていた…

 ザワザワザワッ

「おぃ見たか?突然現れたぞ?」

「神か?」

「神って死神?」

「魔物?」

「魔人じゃないか?」

「それとも妖魔とか?」

「そうだな?天使なら処刑場には出てこなそうだし」

 なかなか夢とも思えないシュールな状況らしい。俺って深層意識で自分追い込みたいやつだったんだろうか?なんかのストレスで悪夢なんだろうか?

「何してる!転移魔法か何かで助けに来たのだろう?捕らえよ!」

 将軍らしき人が兵士達に指示をした。兵士達は迷いながら徐々に距離を狭め始め、首切り役人は俺に斬りかかってきた。俺は慌てて首切り役人と距離をとり再び状況を確かめた。夢であるせいか身体能力が増していて楽に避けられているのでアクロバティックなパフォーマンスを披露した。罪人を固定する台を体操競技の鞍馬や跳馬のように飛び越えて技を決めて首切り役人の何人か蹴り倒し、武器置き台に飛び乗り武器を引き抜いた。品のない刃の幅広く長鉈ながなただったが仕方ない。何本か適当に投げつけて首切り役人を牽制した。彼らは回転する長鉈を避けるためには台から落ちていく。

 台の上が空いたところで罪人達の鎖を切っていくことにした理由は簡単、子供や女の子、綺麗なエルフな男で、首切り役人や兵士などは、ゴツイマッチョなむさ苦しいオヤジだったからだ。見た目で善悪は明らかだった。

「大丈夫だから安心して」

 子供と女性のちょっと乱れた髪を手ぐしで正し、涙をハンカチで拭き取り、男達に長鉈ククリを渡した。

「女、子供を守りながら、野次馬の群衆を盾にして突破するよ。」

男と女の子と子供は顔を見合わせて戸惑っているようだ。

「よくわからないけど、逃げましょうよ‼事情等その他は後、ここで逃げなきゃ無駄死にですよ?生きていれば、後でなんでも考えて対応できますから、」

 彼らは頷いた。

ザワザワザワッドドドドド~

 処刑台の階段に殺到する兵士達に気絶した首切り役人を投げつけて、道を作る。兵士の上に飛び降りて乱戦が始まっていく。俺は長鉈ククリを振り回し牽制ながら走り、明かりの火台を倒していくと敵兵はさらに混乱していった。

 男達は意外にも強いようだ。兵士達のがマッチョなのに男達は身のこなしが良く、うまく立ち回っているようだ。特にエルフのような綺麗な長身の男はなんらかの剣術をおさめているようだった。少し力押しな所が気になったが強いことは強いようだ。

 夢とは思えないリアリティと騒然とした臨場感で、彼等の剣が人を裂いていく状況が気持ち悪かった。血の匂いや俺が牽制用に倒した火台のせいで燃えてる人までいて、人体の燃える臭いが最悪だ。自分では斬り込む気には慣れないので、峰打ちと側面打ちで捌いた。たまたま長鉈ククリが逆くの字型だったので逆刃刀さかばとうのようで違和感がない。

 兵士達は全員が重装備で動きが鈍く槍を使っていることが災いして、この乱戦の密集状態では、長すぎて扱えていない。広い場所だったら、剣のがリーチが短く不利になった所だが狭い分、兵士たちは鍔迫り合い位しかできていない訓練も未熟な者達のようで処刑場警備は新人の業務なんだろうか?

 混乱の中、囚われていた男達が馬を奪ったようで、俺をピックアップして野次馬に突っ込んでいく。群衆は“面白いショー”と言った雰囲気で盛り上がっているようで道を空けてくれている。『注目を集めているなら、お約束を印象つけるか?』と思い、俺は馬の背に立ち上がり、剣を掲げポーズをとり、『自身の生きる力をつけよ‼生きながらにして人は自由で平等であるべきだ!』しばらく同じことを叫んで疾走する。夢の中だし、言ったもん勝ちではないだろうか?ここでは富裕層と貧困層が見てとれ、残酷な裁判らしきことをしている環境なら革命感がお好みだろう。しばらくある種の優越感を感じながら街中を凱旋パレート感覚で走り抜けていった。


「私はアールヴ族のベロン・グリーンコーストだ。君は命の恩人だ。ありがとう」

 馬を走らせてくれていたエルフのような綺麗な青年が名乗った時、俺はどうでも良い疑問が湧いた。民族のからの名乗りって?初めてだ。日本人って何族なんだろうか。日本民族で間違いないと思うが国名で言うのも変か?さかのぼって倭族?大和族?モンゴロイド?馴染みあるのでいくか?

大和ヤマト族の西園寺サイオンジ レンです。よろしく」

 馬から降り握手を交わした。

「だが逃げ出す時の、あの台詞セリフはなんだったんだ?」

 ベロンは不思議そうな顔で聞いてきた。

「あーあれ、イメージ操作ってヤツだよ。状況がわからなかったけど、囚人を逃がす手助けしたわけだから民衆には耳触りの良い言葉と思想を聞かせると勝手に良い解釈してくれるんだよ。人伝えの噂じゃなくて、本人の言葉だからね。それに俺達は民衆を避けて傷つけなかったけど、兵士の奴等は民衆を押し退けて足蹴にしながらおってきただろ?民衆に実害があったのは、どっち?って話さ」

 俺はしたり顔で自慢げに人指し指を立てて解説した。

「何故、私達を助けた?」

 ベロンは真剣そのものの顔で、ある種の決意のある顔だったから冗談の言えない雰囲気をまとっている。この男は身分が高いもかもしれないとも思った。

「申し訳無いが期待しているような深い理由はないよ。君らがなんで捕まったのか知らないからね。単純に奴等が先に俺に敵意を示して横暴だった。あと見た目、奴等は野蛮で下品な蛮族にしか見えないし、君らは女子供いるし身なりが綺麗で品があり理知的に見えた。」

 俺はあの将軍と兵士達の侮蔑的かつ傲慢な態度が何となく気に入らなかったことを伝えた。

「フッハハハハッそうきたか、確かに奴等は話が通じなそうに見えるもんな!」

 ベロンは緊張の糸が切れたのか吹き出して笑い始めた。ばしばしと俺の背中を叩く。

「フフフッ話、通じるの?」

「いや、通じなかったから捕まった。」

 そこに処刑台の一番端に繋がれていた男が駆け寄ってきた。

「ベロンさん、アビゲイルが重症です‼」

「何っ?すぐ行く!」

 ベロンは後ろのから追ってきていた馬に駆け寄った。一緒に逃げてきたはずなのだが矢を射られたらしきく、エルフっぽい女の子が気を失っていて、子供の方が気丈に女の子を支えられながら馬を走らせて来たようだ。

 慌てて小屋に運び込んでベットにうつ伏せに寝かせた。

「すぐに魔導師を呼べ!」

「無理です!町には追手がいますし隣町には3日はかかります。」

 ベロンは唇を噛み締めている…。

「…医者がいないんですか?応急措置だけでもした方が良いですよ?とりあえず、アルコールとにいろんな形の刃物とできれば、細い刃物!あと糸と縫い針と火と水と清潔な布、おまけにはさみ箸があった方がいい!用意お願いします!」

 矢は肩甲骨の肩よりに刺さっているから出血さえ、どうにかすれば問題無いんではないかと思う。肺に刺さらなくて良かったと思う。

「“物理治療”できるか?」

 ベロンは驚いた顔で俺を見る。

「何言っているんです?今なら間に合いますし、それしか手がないなら俺やりますよ。早く!」

「おぅ!」

 その場の全員が部屋を飛び出していった。

「あと明かりもお願いしますー。もっと明るく」

 俺は叫んだ。遠くで返事が聞こえた。俺は密かに“超能力の透視クレアボヤンス”を行い傷の具合を見た。一番面倒なのは、“左肩鎖関節脱臼(靭帯断裂)”といったところだ…。

 みんなが戻って来た。手術行程を説明し、生理食塩水で汚れ落として、傷口の消毒と刃物などの煮沸消毒しゃふつしょうどくをした。術野の明かりを確保して、矢を刺さり具合を見ながら、傷口を細いナイフで切り開き靭帯を縫い、鉄鏝てつごてで止血しながら作業し縫合まで行った。

 問題は抗生物質ペニシリンがないから化膿したり二次感染が心配だ。応急措置と言いつつ、本格的な手術をした。傷口をガーゼで塞ぐ際に、ペースト状になった薬草…軟膏をくれたので、一応信じて張り付け、包帯ぐるぐるまき固定で、後に三角巾で腕をつるだけになった。就寝時は腕が変に動かないようバンド(腹巻)で固定といった感じだ。

「これで大丈夫だと思うけど、化膿しないように注意しないと大変だ。」

 俺は手を洗いながらベロン達にいくつかの注意事項を伝えた。

「凄いな!こんな人体構造を熟知した“物理治療”を初めてみた。」

 ベロン達は興奮が収まらないようで周囲の者に手術行程を熱く語っているのだが、俺はひとつ変わった単語が気になった。

「…ちょっと聞きたいことがあるんだが…“物理治療”って何ですか?」

「むぅ怪我をすると魔法で回復させる方が傷も綺麗に治るし体力も使わないから魔法が主流なんだ。でも、みんなが魔法を使えるわけではないから、母親や針子や薬師の中に傷口を縫う者いる。魔力ではなく自然治療を物理的に助ける治療を“物理治療”とここでは呼んでいる。」

 ベロンはなんだそんなことかと頬を緩め教えてくれた。

「そっかでも俺は専門家じゃなくて素人だから早く専門家に見せないと」

「そうだな、もう平気に見えるが、隣町の魔術師の友に見せよう」


 その日は徹夜で翌日も日中夜、馬車でを走らせて隣町に向かった。車内で消毒や布の交換は行ったが食事は一切とらなかった。そして、3日かかる道程を40時間位で隣町に到達したが馬は潰れた…。運良くエルフ族のガーランド・ガブリエルと言う高名な魔術師が滞在していて、ベロンと同郷ということもありアビゲイル・コンスタンスを助けてくれた。

 その夜、二徹ということもあり深い眠りについた。


▲▲I get out of this world▲▲▲▲▲▲▲▲


 気がつくと先程の別荘のような家のリビングのソファーでベルト付きの本を手に寝ていたようだ。

 誘拐の可能性、いつも意識していない家族の良さなどを振り返っていた。

 いつも帰れる場所で居心地も良い安心スペースの家。

 知らない場所ってだけで、随分と不安になることに驚いていた。しかも、自分がなんでここに1人でいるかもわからない…

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