リズムⅠーー或いは太宰治『ダス・ゲマイネ』の音数、頭文字、記号等を完全に再現しながらもうひとつの異なる『ダス・ゲマイネ』を描いていくという日本初のレトリスム小説ーー
恋をしたのだ。そう叫んで、瞼を固くとじてみた。その時味のない、綿あめのようなざらざらとした何かが、私の口の中隅々まで、荒々しい勢いをもってひろがっていく、例えるならばそんな不思議な感覚に、しばし心をあずけていた。汚れなき赤は、ソバージュの似合わない女の毛先に、ほのかに香る或一輪の花を鋭く想起させると同時に粉々になり、気だるい午後の風景に棘のようにぷすぷすと突き刺さって、いとおしいくらい、世界の色を壊した。透き通ったグラスに映っているその危ういシーンが、私の謂わばうつしみであった。虹色主義。私色の思惑。いかさまし。言い、切る。私だけではない。透き通ったグラスは私。しかしながら私は、花を摘みにいった時に何かをなくした。無糖の珈琲を愛してしまった刹那に、そういう繊細なイメージの崩壊と共に、私の姿は波を打って、そのまま彩りを忘れた。あの女神は摺墨に消えていった。
ゆっくり眼をひらいたのはいつか私を呼ぶ声に、朦朧体を了解しかけていたその時であった。
「サノ君。ーーでは、よろしく。側にいるから寄り添ってしまう、おろかな樹木の運命をいよいよ知るがよい。不幸にも似た仮面を選んで来た、天使の模様の裏にある喜悲劇の裁量、ーーま、遅いか」
ババの言葉はいつだって執拗である。そのくせ、私に明確な答えを求めぬのも、大抵同様だった。私はババと或美術学校の小さな庭で出逢った。キンモクセイの木々がまばらに植えられてある落葉が絶えず舞い散る夕暮れの美術学校の庭の隅で出逢った。
私がわざわざ灰色と黒の橋をふたつ渡ってその美術学校まで歩いていって、その殺風景な場所に佇んだわけは、そこにぽつんと置いてある、キンモクセイの影を従えた、眼にも精神にも不可解に、そぐわないという一念を唐突に運んで来るベンチにあった。ワルキューレは八人だという伝承にほんのりとした喜びを感じはじめていた時分、私は周りの色彩を、その存在すら認めぬように打ち消し、いつの間にか赤いオーロラという神秘的なイメージさえ抱かずにいられなかったその不調和に鮮烈なベンチのRedcolorに当然恋をした。今年の晩秋に、私はこのベンチに座って或音を聞いた。側を通るひとが、慌てて皆走り出す。私は妙に思い顔をあげ音を探ると、まっすぐに、上へと背を伸ばしたキンモクセイ。たそがれ間近の空へその梢を溶かしながら時折吹く風にふらりふらり身を預け、枯れ残した葉を散らすと共についに受け止めきれなかった、練乳色の雨粒を溢していた。その時ふいに、密やかな声が聞こえた。ワーカー、オールダー。迫る夕闇のなか、どこからか確かにその声は聞こえ来る。ずいぶんはっきりしない男か女かもすぐにわからぬ声色にくわえ、機械的で単調なイントネーションでもってひそひそと、その妙な言葉を繰り返し呟いているのであった。なぜか私はその小さな声に平和な感じを覚え、ひとりきり小雨降るなかに、しばし瞼をとじていた。びっくりしたのはその声がふいに、いま私のいるすぐ真横から、話しかけるように聞こえたからである。側に誰かがいるのか。こういう直感に私は戦慄を覚えて、瞬時に強く眼をひらきその方見た。フシギなくらいにマルいおツキサマ、テツイロのアツいクモのスキマにきらりキンセイと、トケイのように、ぶらブラリ。ひたと、大きな右手で顔覆い、唄うみたいにしてそう囁きながら、まっすぐに私を見ている。その人物はいつか昇った月の光を背に受け一層夕闇に身を沈めながら両眼だけは指の隙間からはっきり光らせて、ああ、髪が触れる程すぐ側に確かに座っている。何をどうすればよいのか私はこの状況においてまったくわからなくなり、突然狂ったように、笑い出してしまいそれを勇気に彼の顔を覗くと彼も可笑しくなったか、その右手奥に隠した表情をあきらかに緩ませた。
「けさ、とてもぼんやりした夢を見たのですが」笑いを含ませてはいるがやはり無機質な声であった。「みどり色の毛虫みたいな奴が死んでいる。腹を何かに踏まれて確実に死んでいる。辺りには殺害者のいる、気配はまったくない。おや、慌てて足裏を覗いて見てみたら? しつれい。僕であった」私の顔をまじまじと見て、声色を少しだけ強めながら、「悲劇では決してないんだよ。メシア。ーーそれが僕。僕は助けたんだよ。みどりの毛虫。僕は救済したんだよ。灰のなかにおちていく、ちょこまかと、いやそれ故にこそ尊いあのみどり色の輝き。自分勝手などではないのだよ。ひどい煩悶だ。いいや。病人面。君は、文科生か? この学校の生徒? 」
私は答えた。「いいえ。元学生です。あの、一年くらい前に辞めました」「はあ、現代的だね」にやっと笑い、徐にまた言葉を続けはじめた。「僕も昔は芸術というものに取り憑かれていたよ。生意気に絵を語ってね。真っ白なキャンバスを認めるわけにいかなかったんだ。光の中にこそ真実の色は潜んでる。君、夜は芸術を殺します」
「そうです」
「と賛同すべきではない。つまりは君も裏切り者さ。僕も君もこのベンチに誘われるようにやって来て身も心もゆだねるみたいにして座っているということは、はっきりいって無責任さ。この殺伐とした景色のなか、誰もが自己主張しない、ぼんやり曖昧に、染まっていて、ーーいや、染まるどころか変わる術さえ失った。ハイイロのソラのシロいマチのクロいタミ。結局飲み込まれてさ、そして諦めきっている。変わらない毎日。周りに合わせてやっているんだと懸命にうそぶく。あああ赤赤。追いかければいいのにさ」ぐるっと周囲に視線を配り、誰か探すような素振りをしだした。「こうしている合間だってね、ーー破壊は続いている。夜は間近さ。照らすものはもうない。君も終りだ。僕も君も最後の希望の光とやらを侘しく信じて、このベンチに腰かけている。とても儚いカンバセーションピース。僕はまったく君を知らない。ひとであること以外。ああそれさえもまた。僕の存在を、君は確かにとらえています。僕と君いったい何が違うというのか」
その日を境にし、私たちはそのベンチに座ってよく会話を交わした。ババはいつでもそのベンチに現れる。しかも知らぬまに、すぐ横にいる。あまりひとけのない午後はふたりしてしばしば佇んだ。彼は相変わらず大きい手のひらで、コバルトに近い顔色に、一層影をつくり、遠くのほうを見ている。私は彼の不自然さを受けいれた。なぜかいつか、このような彼の所作言動、彼のExistenceを容認した。ババも心を許しているようであった。寒い風吹く午後、予定していたことが或事情の為突然中止になってしまったこともあり、ひとり例のベンチに座ってぼんやりとしていたのであるが、囁くようにやはりババが私に声かけた。鼓動の乱れなどいっさい感じさせぬような、謂わばいきものとして、当然備わっているであろう精神、肉体の趣とでもいった、生々しい人間としての、匂いみたいなものはいっさい感じさせずに、かぼそく、「楽しいことは何かないのですか」と一言いってあとは相変わらずどこか遠くの景色を見ている。イスカが、低い空を横切って遥かかなたに広がる無個性な町並みの色彩のなかに同化するように、そっと、化けていった。ババは突然立ち上がり静かに歩き出した。ひとけのないこの裏庭を囲んでいるウグイス色をしたフェンスの裂目から、ババはからだを縮めることもなしに器用に抜け出したかと思うと、しんとしている街路をさっさと歩いていく。ババをすぐに追い、その美術学校の裏庭と寂れた商店街の間に細々と通っている暗いアスファルトの道へ私が足を踏みいれた時には、辻端でババが右手をあげていた。そのまま、ババのとめたタクシーに乗りふたりは、ギンザドオリというどこにでもありそうな名の通りにはいったところで、タクシーを急いでおりた。閑散とした夕暮れの繁華街。静かに、先へとさっさと歩き出すババ。黒いコートの後ろ姿を私はやはり追って、常用灯のともりだした町を急いだ。理由もなく私たちはこの町を歩いていくのではなかった。ぶらりぶらりと何気なしに歩いていくようなババにしても、当然行き先については決まっているに違いなかった。実は私には好きなひとがいた。四年前のまだ学生の頃、ふらりと、手招きされた或店で客のつまみに歌をうたっていたハタチそこらの笑うとえくぼの出るそうして飛び出す両の八重歯が、そのひとの快活なキャラクターや心持ち生活環境といったものの色鮮やかな印象を、即座にして、とめどもなく浮かびあがらせたその女の子に私は一瞬のうちに当然恋をした。けれども私は、彼女に出逢ったその夜から今日まで言葉を交わすどころか、そもそも、お互い眼をあわすこともないまま彼女がプロの演者として店に立つようになってからも、相変わらずただの客に過ぎなかった。彼女は一人前になってもまた年月を重ねても私がはじめて見た時のまま、その空間の空気や色をいつでもたちまち変えてしまう。歌が素晴らしいのは当然として、いったん、彼女がステージへ顔をちらと出すだけでも、ヴァイオリニストの高貴な音色さえ霞みだすほどに、五月雨明けの太陽のような、空の支配者思わせるその笑顔はすべてを変えた。ババと私は、照り返しのほぼなくなった繁華街の道を右へ一つ左へ四つ慣れた足取りで曲がって、ケーキ屋という軒看板をさげた廃屋の前をいく。彼女のそのお店は、看板とはいってもすでに赤錆にまみれて、名前すら伺い知ることが容易ではない、そんなすさみきっている、このケーキ屋を越え更に四五軒ほどの朽ちかけた名のない店の軒下くぐりようやくこの町の最果てに見える。そんな繁華街としては、枯れ尽くしてしまっているのにちがいない、寒気を一層強めるような寂れた町へ、私がババをはじめて誘ってから、ほぼ二月は経っていた。私同様にババも店をそして彼女をも気にいったらしく、ババは決して口にせぬが、彼女を見つめる彼の瞳にはほのかな潤いが見られた。彼はそれ以降お洒落になっていって、私を戸惑わせたのだ。作業着らしい紺のつなぎや、柄の悪いパーカー、なす色の革靴、或意味チンピラ趣味と思われた彼のそんな服装はその日境にいっしんした。彼の言葉をそのままに信じるならば、彼が唐突に服装の趣味を変えた理由は、人生ではじめてのお告げを夢枕に立ったマティスから与えられたからである。いったん懲りだすと、ババは一気に歯止めのきかなくなってしまう性分のようで、彼が自らパリだかミラノだかの名のある店に特注をしたという、オセロット皮のド派手なジャケットの次の日には、その数倍も値が張るという艶やかなリンクスキャットのコートを颯爽と羽織って現れ、この男の照れ隠しの所作である手のひらで眼元を覆いながら、ーーそうして隙間の眼を、弁解でもしているみたいに赤く濁らせながら僅かに笑みを浮かべるのだ。奇抜さなら今日も凄い。スワロフスキーか何かをきらきら、枯山水を思わせる図柄の帽子に隙なく光らせている。私の心持ちは複雑でもあった。友人のあからさまな変貌に、子供っぽい如何にも人間らしい微笑ましさを感じる反面、彼のこういうモチベーションのうまれ得た源泉を思えばため息もついこぼれるのである。これは、表面では、ババと私との家柄に、話にも何もならないくらいの格差があり、てんでどうして、私にはこの方面では太刀打ちできぬのだという自己確認のため息である。
ああ、どういうものか私には駄目である。つい自然にうまれて来る、叫び出したくなるような激しい想いをいつか機械的におさめてしまう癖がついていて、気持ちが張り裂けそうになるほどの苦悩煩悶にしても、即座に宿命や環境という言葉に置きかえてため息に乗せて逃がすのだ。ところが、はじめてである。ーー妙薬ほどに、バラバラな自律神経の経路を、狂喜、感嘆等、無粋な感慨がおきぬまに結びつけるように、郷愁めいた、やみくもな、何だか生々しい感情がいつのまにやら私の細胞の隅々にまで散っていて、そういう、私の壊死しかけていた素直な心持ち、反芻や、反発、発情や、嫌疑、そんな謂わば人間らしさの色を刺激し感化させ彼や彼女へ複雑に絡み合うような、一筋縄といかぬ愛憎の彼方へ、不安定に飛来し、漠然としたこの生臭い焦燥を隠しきることのできぬ状況をいつかうみだしかけていた。例の低い声で、「今日だって記念日さ」そうババは呟いてからふと立ち止まり、手のひらで相変わらず表情を隠しながら私の眼の奥を覗きこむようにしてくるのだ。恥ずかしくなるくらいに凝視されて、何だか私の心のなかを見透かされている、ふいに、有り得ないそんな疑念もわきあがって来てしまい、そそくさ、わざとらしさも気にせずに浮かべた不自然な微笑で彼の視線にあらがった。UrbanNightTheCruisingCafe。ババとふたりルビーとエメラルドが絶えず拍動しているみたいなその電飾看板のしたに立った、ぷかぷかと紫煙浮かべる、何だか、時知らぬうちにすっかり顔見知りになってしまった客引きに、私たちは軽く黙礼だけして、色褪せた店の扉をあけた。私の胸は高鳴る。原因不明でない心地よい動悸。ババも高揚しているらしい。よし、よし。虚勢気味の掛け声を漏らす。はずむ精神を誤魔化しあうようにお二人。私たちのいつか指定席みたいになっている、ぷかぷか、ぷかぷか、とぐろ巻く煙の向うの席へと他客押し、やり、自由の地へいきつく。いまが!ああ、いつもながら私の胸を高鳴らすこの空間。現下のエデン。そうして今、夜に昇る私の唯一かつ絶対の太陽が、路地影のネズミたちまでを、一瞬にして寓話の女神が放つ慈悲のようなそのあたたかい光で包み込むかの如く、この店の薄汚れて湿りきった不快な空気を、雲雀のような歌声を携え浮かばせる、人間のあらゆる苦悩を消し去るみたいなオーラで容易く変えちゃった。ババも彼女が現れるやいなや全身を、ベテランダンサーのようにくねらせはじめて出逢った頃のババを想像できない、良識や繊細さなどを感じさせぬ雰囲気でリズムを取っている。ロンサムパレードという彼女のオリジナルのナンバーがはじまると店内の照明が真っ赤に切り変わって、ボウフラのような私たちをも染める。ええ、酔っぱらいなんです私たち。私たちのこんな姿に君はたちまち嘲笑を浮かべるのだろうがそんな君こそバカなんだ。ババのこの汗を、了承できず臭い臭いとさっそくお鼻つまんで、私には信じられない体臭ですなんて言ってる。やがて、振り返ってね、さも大袈裟に一声。
「やあ、臭うね。臭うね」
ハイエナすぐに現る。
「イエス、気分の悪い臭いです」私たちいつだって、偏見に沈められる。ひとがひとを殺して笑う。ババがいつか私を覗きこみ、
「苦しそうだが大丈夫か」と言って両の眼を、素早くまばたきさせてから、
「いや、もう君の気持ちは誰よりもわかっています。被害者ヅラの功罪」と続けたかと思うと唐突にステージへ向かって、ブラボーと声かけた。あまりにも、悪ふざけとしか受け取られないような、ダチョウ声。ひやりとする、猛禽類の眼がいっせいにババを捕らえた。実際揉め事がいつ起きてもおかしくない中、私の女神は歌うのをやめマイク叩いて注目集め、ババに向かってこう言った。
「勇気のいるご声援に、ぼんやりとおもわずしちゃいました。あんまりみなさん、はっきり言葉にしてくれないから」
私は、冷たい衝撃で全身震えた。ババへ向けられた言葉はなお続き、私の好きな笑顔でババに、
「人間らしくて好きですよ。みなさんもどんどん声かけてね。恥じては駄目。想い伝えて。いいかわるいか私に伝えて下さい」
それ以後、私はババと逢うのがどうしても嫌になって、裏庭の赤いベンチに腰かけることもなくなった。当然私は例のカフェへもまったく出かけていかなくなった。それは、口には決して出したくない、我ながら愚かでみっともない嫉妬だと内心気づいてみたところで、私はその苦い感情を、溶かして、さっぱり飲みほすことができず苦しみ喘いだ。いっそすべてを、粉々にぶっ壊してなかったことにしてしまおうと、とうとう、私の消滅に関して、私は真面目に願いだした。原色だけを真白いキャンバスに、いい加減に塗っていき少しでも理解できる、ヒトだとか動物だとか家とか車、そんな形に見えた時に火をつけた。ほどなく私はある種類の、都会の端の森のなかのとても清潔で静かでそうして真っ白な病室にいれられて、一日一回、庭へ出て小綺麗なベンチに腰をおろし、ただぼんやり小さな池の面はしる虫をみていた。ババが手紙を寄こした。
拝啓。
信じることを、またはじめないか。僕とふたり。君はおかしいくらいに、僕を、ああ僕を思いちがいして、閉じこもってしまった。そんな君ならば、死んでよい。僕はもう、かまわん、いや、いちどだけ、いちどだけ僕を殴りたまえ。けじめをつけてから死にたまえ。誰彼の言葉をいっさい、意味もなく、病的美意識に準じて消す。結論言ってみれば、僕はもちろん断じて支持する。しかしあのひと。最果てにのぼる太陽。僕へのつまらぬ誤解からあのひとまで信じられなくなっていて、悲劇の主人公みたいにして塞ぎこんでいるのなら、またそんな自分に酔っているなら、構うことは何もない、その窓から身投げたまえ。(君笑う、ああ部屋に窓がない!)君、いっさい僕を信じてね。僕は、本当に君だけを好きで愛しているのだから、そういう僕の言うことは君は義務として信じなければいけない。シャレコウベになるまでなどとは言わないけれど。僕は昨日あの店にいってあの子と話をして来たよ。本当はひとりでなんて何があってもいきたくない場所にはちがいないのだがね、そんなことも言ってられない。とにかく僕は、僕自身への疑惑をはらさねばならない。ほんとうに、かなわん。群青色の空が現れて、綺麗な町あかりがまばらに灯るのを待ち、僕は例の扉を、ゆっくりあけ店へはいった。あの子は笑っていなかった。君のことを誰かから聞き知って心配していたし、僕へのあの言葉はあの場しのぎの謂わば機転だった。あの日以来顔出さぬ君をずいぶん気にしていた。ああ、ヴァナディースの真実の光は君へ。あの子の真顔をはじめて見てそして僕自身の立場を恥じたよ。(君苦笑、残念、プライドがそれを認めない。)孤高の聖でもあるまい。君、LOVEは恥ではないんだよ。でもつまらん誇りとやらでそれを認めぬというならば、可哀そうに。
ここからは或企みを記す。屍のような僕等の再生法。(書いていて、もどかしいよ。手紙という方法の限界値。常用でない、会話であれば、病的である、どうもなんだか、そらぞらしい言葉を用いなお真理は伝わらず。いや、バカの証明かな。)ゆうべ考えついたその妙法とはねえ、叫びに乗せて、すべてのカラーをまぜる。そうしていつか、墨痕柄の、ドミニク・アングルを描く。君と僕であたらしい女神をつくりあげよう。僕はいっさいがっさいの才や財産を費やしてでもあの子の応援をしたい。でき得るかぎり、巧妙で革新的、独創的な芸術家集めて機関誌を発行する。くだらない一種の、事務的な会誌ではない。華族の規範、である。実は華族とはこの機関誌名、名付けは僕。君が嫌だというならばもちろんかえても構わないが僕はこれを押す。どうだ。(手紙にもいよいよ、馴染んできたというのに残念ながらお別れちかし。汗かきながら、文章綴った、我の想いが永久に、手紙という手法にて君に刻まれるのならまあ悪くない。)ところで君の、手紙へとそえる花、それを送らぬ僕を笑え。さよなら。
これは蛇足であるが、一応君の快復祝い書いておく。不滅の言葉、「しきのない太陽も愛せ」
サノまたはランボー殿、 ババカズマ。






