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穢れのない白い花  作者: 西条美幸
2/4

デート

阿木あぎ君のところに、行ってくるー!」


佑梨は階段を降りながら、キッチンにいる友美に言った。


「はーい!お菓子持った?」

「持った!」


佑梨は玄関で靴を履きながら「行ってきまーす!」と言って出て行った。

最近、佑梨は「阿木」という男子生徒と一緒に宿題をしているようである。

若山家にも来たことがあった。友美から見ると、とても真面目そうな男の子だった。


(…諒一君のこと…もしかしてあきらめたのかしら…?)


友美はふと思った。何しろ佑梨は思春期だ。諒一の事が好きなことがわかった時は、諒一と結婚してくれればと、つい喜んでしまったが…。

玄関が開いた。


「あ、諒一君。」

「ただいま。」


諒一がオペラのレッスンから帰ってきた。


「お帰りなさい。何か飲む?」

「いえ…。」


諒一は靴を脱いで上がりながら言った。


「今、佑梨と会ったけど…今日も阿木君のところ?」

「そうなの。…まぁ宿題を忘れずにするようになったから、いいけれど。」


諒一が微笑んでうなずいた。佑梨が阿木のところへ行くようになってから、諒一は笑顔を見せるようになった。何かほっとしたような風にも見える。


諒一は1週間前に、佑梨に言われたのだ。


「お兄ちゃんが笑わなくなるんだったら…私、お兄ちゃんの事あきらめる。」


言われた時は驚いたが、その時は「そうか…」とだけ答えた。


「今までごめんね。ずっと佑梨のお兄ちゃんでいてね。」

「ん…わかったよ。」


佑梨がほっとした表情をした。

「阿木」という少年の名前が出るようになったのは、それから間もなくしてからだった。

…一抹の寂しさを感じたのも確かだが、同級生の子を好きになる方が自然だと、諒一は思っていた。

阿木という少年は、諒一から見ても真面目そうだった。


……


その夜-


「あのね…パパ…」


佑梨が箸を置いて、恥ずかしそうに直樹に言った。横に座っていた諒一も思わず佑梨を見る。


「どうした?佑梨。」

「阿木君に…一緒に遊園地に行こうって言われたの。」

「へえ…」


直樹はつい諒一の顔を見た。諒一はふと微笑んだ。直樹はその諒一の表情を見て、ほっとしたように言った。


「行けばいいじゃないか。今度の日曜日か?」

「うん。」

「車で送ってあげようか?」

「いい…駅で待ち合わせてるから…」

「そうか。楽しみだな。」

「…うん…。」


佑梨はそう答えたが、少し不安そうな表情をしている。友美がその表情を見て「どうしたの?」と尋ねた。


「ううん。男の子と遊びに行くの初めてだから…どうすればいいのかわからなくて…」

「そうねぇ…。」


友美が微笑んで言った。


「普通でいいのよ。普通で。いつもの佑梨で行けばいいの。」

「…うん。」


佑梨はうなずいて、再び箸を取った。


……


「…お兄ちゃん…」


佑梨の声がドアの外でした。


「何?」

「入っていい?」

「いいよ。」


佑梨がドアを開けて入って来た。

諒一はベッドに寝転んで、オペラを聞いていた。今日のレッスンの復習をしているところだった。

佑梨は諒一のベッドの端に座った。


「どうした?」


諒一が佑梨を見上げた。


「…行きたくないの。」

「?どこへ?」

「…遊園地…」

「どうして?」


諒一は体を起こした。


「不安なの…」

「…何が不安なんだい?」

「わからない…」


諒一は微笑んだ。


「俺も女の子と初めてデートした時は不安だったよ。」


佑梨は、驚いた表情で諒一を見た。


「そう…なの?」

「きっと阿木君も今すごい不安だと思うよ。」

「……」


諒一は佑梨の肩に手を乗せた。


「大丈夫だよ。阿木君がちゃんとエスコートしてくれるから。」

「…うん…」


佑梨は下を向いた。


「…お兄ちゃん…また歌…歌って。」

「何がいい?」

「…アベマリアがいい…」

「わかった…」


諒一は鳴らしていたオペラを消して寝ころんだ。すると、また佑梨が上半身を諒一に預けてきた。


(これも、いつかはやめさせないとな。)


諒一はそう思いながら、歌い始めた。


……


日曜日の正午-


直樹が庭に向かう洋風の縁側に座って、またため息をついた。


「もう…直樹さん!」


友美が笑っている。


「佑梨は大丈夫だから心配しないの!」


友美にそう言われて、直樹は苦笑した。


「…なんだか不安で…」


リビングのソファーで、オペラのビデオを見ている諒一も苦笑している。


「諒一…お前は気にならないのか?」

「ならないよ。」

「…そうか…」


直樹は頭を抱えている。


「今頃、何してるんだろうなぁ…ジェットコースターとか無理やり乗せられてないだろうな…」

「あら、佑梨はジェットコースター好きよ。自分から乗っちゃうんじゃない?」

「えっ!?…そうなのか?」


直樹はそう驚いてから、ふと考え込むようにして呟いた。


「じゃぁ、観覧車とかに乗せられて…」

「もう、直樹さんっ!!」


友美が笑いながら怒った。


「いい加減にしてよ。」


直樹がぶつぶつと言い訳をしている。諒一がまた苦笑した。


……


夕方になって、直樹の携帯が鳴った。


「!佑梨!」


直樹は慌てて電話を取った。友美も思わず駆け寄っている。確か佑梨は電車で帰ると言っていたはずだが…。

諒一は自分の部屋へ戻っていて、リビングにはいない。


「……わかった…阿木君の家の前まで迎えに行けばいいんだな。すぐ出るから。」


直樹はそう言って電話を切ると、友美に「ジャケット」と言った。友美が慌ててクローゼット部屋に向かう。

直樹はそのまま玄関に行った。そして友美にジャケットを着せてもらいながら「行ってくる」と言った。


「どうしたの?阿木君の家の前って…」

「わからないが…とにかく行ってくるよ。」

「ええ…」


直樹は玄関を出て行った。



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