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第一話 竜珠、発見?

「うっ…」


あれ、おいらはどうしたんだっけ。何だか頭がぼやけている。

あぁそうだ、おいら、崖から落ちたんだっけ。我ながら間抜けっス。

…ここは天国なんスかねぇ。何か毛布にくるまってるみたいにふかふかしてて暖かいっス。そういえば、経費節約の為とはいえ、旅の間は安宿の固いベッドばかりだったっスねぇ…。今更ですが旦那様、金貨二枚で一年は厳し過ぎるっス…。



ぐぅううううううう…



…死んでもお腹は空くもんなんスね。死ぬのは初めてだから知らなかったっス。

そういやぁ、ここんとこ干し肉や保存食ばかりでまともに食事していなかったっスね…

最後の晩餐は堅い麦パンとベーコンが申し訳程度入ったオニオンスープだったっスね。侘しい。

あぁ、お屋敷の賄いが恋しいっス。



…あれ、何だか良い匂いがする。

くんくん、このかほりは…シチューっスかねぇ…


鍋の中でとろりと混ざり合う野菜と肉がお玉に掬われ、キラキラ輝きながら顔を出す……そんなイメージが空腹に駆られたおいらの頭に浮かびあがる。


いいなぁ、おいらもあやかりたいっス…






・・・・・・ん?


「はっ!?ここは…」


美味しそうな匂いに引かれ、おいらの意識は夢現のまどろみから一気に覚醒した。

辺りを見渡すと、自分の傍にはパチパチと音をたてて燃える焚き火と、その上でコトコトと煮込まれている鍋が一つ。


「つめたっ!?」


水滴が首筋にぽつっと落ちてきた。反射的に上を見ると、下に伸びる鍾乳石が焚き火に照らされて淡いオレンジ色に浮かび上がり、先端から時折雫を落としている。そのまま視線を下ろすと、粗い岩壁においらの影が大きく映って揺らめいている。どうやらここは、どこかの洞穴のようだ。


「お、兄ちゃん、やっと起きたか」

「っ!?」


いつから居たのだろうか、焚き火の前に雨に濡れた黒いレインコートを目深に被った人物が立っていた。

顔はよく見えないが、声と背恰好からして女性だろう。


「あの…貴女は」

「ちょっと待ってな、もうすぐ飯できるから。ほれ、木の実でも喰うて待っといて。あ、服はそこに置いてるから。もう乾いてんで」

「え、あ、はい」


名を尋ねようとするも、矢継ぎ早に訛りのある言葉で遮られ、大きな葉っぱに山盛りに乗せられた木の実を押し付けるように渡された。


「んで、兄ちゃん誰や?」

「(今おいらが聞こうとしたのに…)」


この人から会話の主導権を取るのは難しそうだな…とおいらは心の中で溜め息をつく。


「おいらの名前はドート。マスカルド王国のラビッツァ侯爵家に仕える執事見習いっス」

「ふーん、偶蹄目には見えんけどなぁ」

「執事っス!し・つ・じ!」

「あっはっは!冗談に決まっとるやん!兄ちゃん中々えぇツッコミするなぁ〜」


ボケが微妙に分かりにくいっス…


「うちの名前はジルや。本名は長ったらしいからジルでえぇよ」


レインコートの隙間から見えた装備と荷物から察するに、彼女は旅人のようだ。見たところ体つきは一般女性の例に漏れず華奢な細身だ。短刀を所持しているが、気配からは戦士特有の警戒感や緊張は感じられない。この物騒なご時世、山賊や魔獣に遭遇せずに旅など出来るものではないというのに、よく今まで生き残れたものだ、と我ながら偉そうなことを考える。


「んで、そのなんちゃら家の執事が何でこないなトコにおんねん?」

「ラビッツァ家っス。あと、おいらは未だ見習いっス!」

「細かいこと気にしてたら禿げるで兄ちゃん」

「禿げないっス!」


只でさえ遺伝子的に不安なのに、そういう事言わないでほしい。


「兄ちゃんの毛根はどうでもえぇから、何でこんなトコおんのか教えてぇな」

「(誰のせいっスか…)実はおいら、旦那様…というかお嬢様の命で黒竜の巣を探しに此所までやって来たんス。それで、やっとの思いで見つけたんスが、入口でうっかり足を滑らせて崖から落ちちゃったんス。………あれ?」


ここまで喋って、おいらは漸く自分の体の異常に気付く。

あれほど岸壁に体を打ち付けて虫の息だった筈なのに、どこを触っても擦り傷一つ見つからない。寧ろ森へ入る前より、体調が良いくらいなのだ。


「え?あ、あれぇ??」

「あぁ、怪我なら治しといたで。兄ちゃん死にかけとったからなぁ」

「んなっ、治したぁ!?」


ジルは何てことはない、といった口調でにこやかに答える。俄かには信じられない。確実に全身の骨が砕ける重傷だった。まともな治療を受けたとしても、直ぐにどうこうなる怪我ではなかった筈だ。


「一体どうやって……」

「ん?あぁ、コレ使ってん」


そう言って彼女が懐から取り出したのは、赤い拳大の宝玉だった。


「これは…?」


はて、どこかの本で見たような……!?


「っ!!!!!!!」


声を出さなかった自分を誉めてやりたい。

おいらの目の前にあるものは紛れもなく、伝説の秘宝『竜珠』だ。

竜珠には癒しの力が宿っていると云われ、どんな絶望的な怪我でもたちどころに治したという。コレが本物であるなら、おいらの傷を治せたのも納得だ。


「綺麗やろ?コレ結構凄い石やねんで?」

「ああああのっ…!こっ、これを一体どこでっ!?」


この五百年、全人類が欲して已まなかった宝を前にして、思わず声が震える。


「あー、実はな…………」

「じ、実は?」

「は………」

「は?」

「はっっくしょーーーい!!チクショウ!ずずっ…」

「………」


…空気を読まない豪快なくしゃみである。


「うー、しもた、雨具着たまんまやったわ。チョット待っといて。着替えてくるから」


そういってジルは竜珠を紙屑の様にぺっ、と放り投げて岩影に入っていった。

その場に残されたのは、おいらと無造作に転がる竜珠。


「………」


伝説の秘宝に対して余りに無警戒でぞんざいな扱いに、言葉を失う。

売り払えば国を一つ買ってもお釣りが来るというのに。


「あの人、凄いとか言ってた割に竜珠の価値を分かってないんスかねぇ…」


せめて傷が付く前に布にでも包んでおこう、と憐れな竜珠に手を伸ばした。


「ん?」


すると竜珠はころりと転がり、おいらの手を避けた。


「??」


どこからか力が加わったような不自然な動きに、不審に思い注視する。すると……


竜珠と目が合った・・・・・



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