雪波姉妹
1
「カオル!」
「カオル先輩!」
先生の元に行くと、僕は先生の後ろにいた二人の女性に抱きつかれる。
「!?!? 先輩に雫ちゃん!?」
「やぁ、一昨日ぶりだな。後、私の事は鈴と呼べと言っただろ?」
「こんにちはです、先輩」
「そそそ、そんな事より離して下さい!!」
僕は顔を真っ赤にし、全身を硬直させながらそう言った。緊張で震えているのが分かる。
「何故だ?」
「何でですか~?」
「むむむ胸が当たってててますすす!!」
「ハハハ、カオルは面白いな! それに、当てているんだ」
「先輩震えすぎですよ(笑)。それに、当ててるんです~」
グニッと言う感じで変形している二人の胸。此処までされるのは初めてで、僕の心臓は破裂しそうなくらいドキドキしている。
しかも男子生徒からは――
「何で落ちこぼれのあいつが!」
「いや、今は落ちこぼれじゃなくてもうらやまし過ぎる!」
「二人とも萌え~。しかしあいつは氏ね!」
「はぁはぁ…、鈴様に雫タン、可愛すぎるよ~。ただしあの男は死ね!」
――などと言う声が上がっている。
いやいやいや、僕が悪いの!? 僕が悪いんですか!?
そしてレナ、アリア、ミリアの三人からはどす黒いオーラが出ている。一緒にいるシンとカナが顔を真っ青にして震えている。
「レナが……居ながら………デレデレして…」
「あの女垂らし! 戻ってきたらタダじゃおかない…」
「カオル君が…カオル君がカオル君が! もうこれは監禁すべきですね…」
三人がそんな事を言っていた事を僕は知らない。
何か寒気がする。兎に角、この二人に離れてもらわなければ、僕が気絶しそう。
「マジで離して下さい…」
僕がそう言うと二人は渋々と言った感じで離れていく。
「むぅ、わがままだなカオルは」
「そうですよ。嬉しくないんですか~?」
「いや、嬉しくないと言ったら嘘になりますが………僕が持ちそうにないので…」
僕は顔を真っ赤にしながらそう呟く。
「と言うより、何で此処にいるんです?」
そうだ。先――
「鈴!」
読心術でも持っているのか? まぁ良い。鈴先輩は一つ上だし、雫ちゃんに関してはまだ中等部だ。
「私達が居る理由は、カオルと――」
「お前と戦ってもらうためだ」
「――言葉を遮らないでくださいよ」
「あぁ、成程………って、何故に何だと何ですと!」
オッと、うっかり三段活用を……じゃなくて、何で二人で僕に?
「いや、お前Sクラスの五人と戦って一人で勝ったからこの雪波姉妹二人と戦ってもらおうかなと思ってな。ちなみにこの二人はあそこの五人より強いぞ」
いやいや、そんな事は知っている。
「この間、鈴先輩とは戦って引き分けているんですが…」
妙な沈黙が僕と先生を襲う。
「………マジで?」
「マジで」
僕がそう言うと、先生は僕から視線をずらし、頬を掻きながら苦笑する。
「ハハ、ハハハハハ……」
「……先生…」
僕はジト目で先生を見続ける。すると先生が――
「あーもー五月蠅い! とっととやられて来い!!」
「そんなあんまりだ!」
僕は先生に舞台に投げられる。
「じゃあ、ルールを説明する。どちらかが降参、又は気絶、又は転移されるまで続けてもらう。ちなみにこの闘技場では致死量のダメージを喰らえば自動転移されるようになっているから。勿論、死にはしないぞ。だから思う存分やってくれ。では、始め!!」
有無を言わさずと言う感じで、先生が即座にルールを説明し、コールをした。
「僕に人権はないんですか!」
僕は先生に向かってそう言った。
「フフッ、そんなに余裕で良いのかなカオル?」
「先輩、ボク達を舐めないでくださいね」
何で!?
「何故に二人は戦闘態勢なの!?」
僕がそう言うと、二人は当然のように口を開く。
「そんなの」
「カオル先輩が」
「「好きだからに決まっているじゃないか(じゃないですか)」」
……堂々とした告白をありがとう。しかし、理由になっていない!
「言葉のキャッチボール! と言うか戦うしかないのか!?」
僕がそう言うと、二人は頷く。
あーはい、わかりました。
「もう良いや…(泣)。魔王十二刀のⅠ、斬殺…“斬王・紙”!」
僕の手に細身の野太刀が現れる。
“斬王・紙”。ただ斬る事だけに特化した刀で、能力に完全切断、想像斬撃がある。
完全切断は、召喚武器以外は簡単に切り裂く事が出来る能力。想像斬撃はその名の通り、頭の中で思い描いた斬撃を飛ばす事が出来る能力。
「私も行くぞ? 来たれ、布都御魂!」
「ボクも行くよ~? 童子切~!」
二人の手に刀が現れる。そして――
「「喰らえ!! 双神抜刀<鬼神連撃>!!」」
二人は同時に逆方向に飛び、僕に斬りかかってきた。
「チッ、八獄六寒・青蓮!」
障壁を展開し、二人の攻撃を防ぐと同時に、二人を峰で打ち、打った部分めがけ紙を振るう。
二人はそれを紙一重で避けたが、少し掠ったようだ。
「ッ…、やってくれるな!」
「この程度じゃ終わらないよ~!」
青蓮は一撃目の打撃で青あざを作り、二撃目の斬りでその青あざから血が噴き出るようにする技。本来ならばかなり脅威となる技なのだが、当たらなければ意味が無い。
「今の一撃が決まれば楽だったのに…残念です…」
僕は鞘に紙を納め、抜刀の体制を取る。
「八獄七熱………大焦熱!」
斜め下から上に斬りあげるように刀を振るう。鉄が擦れる音と、空気を斬った音が闘技場に響く。
完全に静まりかえる闘技場。しかし、一人の生徒が笑いだす。僕を落ちこぼれだと言っていた、ギルフォードが笑いだす。刀を振っただけで何も起きていないじゃないかと大笑いする。それにつられ笑う者が現れ、闘技場が笑いに包まれる。
しかし、僕と対峙する雪波姉妹、Sクラスの皆、そして僕の担任のシンヤ先生は笑わずに、何が起きたかを察しようとしている。
「……罪には罰を、堕落せよ大焦熱地獄まで」
僕はそう一言言い、刀を鞘に納める。その瞬間――
――リィィン――
――鈴の音の様な音が闘技場を包む。その音で笑いは止まり、雪波姉妹は何かを察したのか、左右に急いで飛ぶ。顔を青くしながら。
その直後だ、闘技場に広範囲殲滅兵器がぶち込まれ大爆発を起こした様な轟音と、地割れでも起きたかと思う位の巨大な溝が闘技場に出来た。
「!?!? 反則じゃない!?」
「先輩滅茶苦茶です~!」
雪波姉妹は顔を一層青く染め上げ、此方を見る。
「おいおい、どんな技使ったんだあいつ…」
「敵にだけは回しとうないな」
「………!?」
「学校を壊す気なのかしら…」
「ほぇ…、凄過ぎです…」
五人はポカーンとした表情を浮かべ、此方を見る。
「あぁあああああ!! 闘技場斬りやがってぇえええ!! 給料がぁああ! 俺の給料が減るかもしれねぇじゃねぇかああああ!!」
「いやシンヤ先生!? 給料より生徒の心配をしましょうよ!!」
教師は約一名、頭を押さえ叫びながらのた打ち回り、もう一人の先生はそれにツッコミを入れていると言う何とも言えない状況だ。
2
暫くして全員が落ち着きを取り戻す。雪波姉妹も何とか戦闘態勢を整え、刀を構える。しかし――
「ごめん、降参する」
僕はそう一言言った。
「……ハァ?」
「……ハェ~?」
二人はポカーンと言う表情になる。闘技場にいた殆どの人がそうだ。しかし、シンヤだけは見抜いたのか此方に近づき、二人の勝利をコールする。
「勝者、雪波姉妹」
「え? いや、先生? 一体どう言う事だ?」
「そうですよ~。カオル先輩はまだ戦えるんじゃ…」
闘技場の全員が疑問に思う。闘技場を斬り裂いた様な技を使う者が、何故此処に来て降参するのかと。
「おい、カオル。お前の腕を見せてやれ」
シンヤがそう言い、僕の方を見る。僕は一回頷くと、ローブの中から腕を出した。
「「!?!?」」
雪波姉妹は目を見開き絶句した。
まぁ無理もないだろう。血を噴き出し、あらぬ方向へとねじれ曲がっている僕の腕が其処にあるのだから。
「いやぁ、まだ不完全だから使ったらこうなる事くらい分かっていたんだけど……つい」
「全く、怪我をするな怪我を。もしかしたら俺の責任になって治療費を持つ事になるかもしれないじゃないか」
本当に教師なのかこの人は…と言う疑問が闘技場の全員に浮かぶ。
「さてと、僕は医務室へと行ってくるよ。あそこならこの腕を治す位できるだろうし」
「あぁそうしろ。迅速にな。下手したら給料が減るかもしれんから」
僕はシンヤにそう言われたので、すぐさま医務室へと向かい治療を受けた。
3
今回の後日談なのだが、僕はレナ、アリア、ミリアの三人にこれでもかと言う位説教を受けた。その時間何と一人に付き約三時間。しかもその間ずっと正座と言う拷問付きで。更に完成するまでは絶対にあの技を使うなと約束までさせられ、契約書まで書かされた。僕の拇印付きで…。
何とも納得のいかない結果となってしまった。
そして余談なのだが、雪波姉妹が積極的に僕に会いに来てはくっ付いて来るようになった。正直、以前にまして辛い(半分は嬉しい)日々を送っている。ちなみにこの事でレナ、アリア、ミリアの三人も余計にくっついて来るようになったのも僕の悩みの一つになってしまった。




