5話 お食事をご用意します
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「あ、が……」
攻撃を求める俺が畏怖の対象となってしまったのか、周りのコボルトたちはもう襲ってこない。
俺たちの間に道を開け、それでも肉をハイエナしてやろうという考えはあるのだろうか、決して逃げることも視線を外すこともしない。
俺の好みは単純な痛みだけでなく支配、束縛されることなども含まれが、逃げ腰で向かってこず、優位に立とうとしてくれないのではどうも盛り上がりにかけるというものだ。
だがそれでもこの視線は……悪くない。
話すことのできないコボルトたちからひしひしと伝わる死のコールを浴びれば浴びるほど俺は……。
「ふ、ふはは……昂る、昂るなぁ!! さぁ早く!! 早く撃て!! そして馬鹿な人間だと、俺を笑え!!」
「が……ああっ!!」
弾を放つコボルト……進化個体はそれに応じるように鳴き、その両腕に力を込めた。
そうするだけで腕の太さはおよそ2倍に膨らみ、今まで感じることのなかった殺気を放った。
その迫力に気圧されたのか、何匹かのコボルトは泡を吹いて倒れるほど。
こいつはまさに異常。
その上に立つ存在。
おそらくこのあり得ない殺意が押さえきれず、俺までの道を邪魔していた仲間のコボルトを殺し、殺しまくって……進化に至ったのだろう。
「その証拠がその返り血で汚れたごわごわな毛であり……。その目、殺すことに快楽を覚えた瞳というわけだ。つまりお前はお前でサディストに目覚めてくれたんだな。ありがとう、本当にありが――」
――ボゴン……。
感謝を告げながら一歩、進むと上腕二頭筋辺りで鈍い音がした。
不思議と骨が折れる音はしないが、痛い。
――ボコン、ボコン。
続けて進化個体が大きく腕を振って両手を合わせると、今度は額と左脚で鈍い音がした。
痛みはついさっきの一発よりも軽いが、その手の重ね方によって空気の弾き方も変わって、複数の弾を生み出すことが出来るらしい。
「う、ぐふ……」
「があ!」
口から息が漏れ、額からは血が流れた。
それを見た進化個体は安心したのか自ら近寄って何度も何度も、より強力な空気弾を放ち、俺ももっともっとそれを求めた、のだが……。
「あ、れ? また?」
「が?」
再び痛みがなくなってしまった。
攻撃をされる、それだけに興奮を覚えないこともないが、俺としては痛みあってこその快楽なわけだからこれでは味気がなく、撃たれ損で反対に気持ち悪いとすら思ってしまう。
例えるなら味のなくなったガムをずっと噛み続けるような感じ、か。
結局のところその原因は分かっていないが……俺にはこれに対しての1つ作戦が思い浮かんでいた。
進化個体は俺との間にいた仲間のコボルトを殺し、そして……それを食ったことで強くなることができたはず。
モンスター同士が食い争ったことでレベルを上げたという報告例もあるし、返り血だけとは思えないほど進化個体の顔が血塗られている、その理由もそれならば納得がいく……。
「以上の考察結果から作戦『お食事会で強化』を実行……。お前には……あなた様には特別強くなって頂きます。そのための餌をこちらで用意して差し上げますね。食事の準備をして待っていてください」
進化個体に向かってお辞儀をすると、俺は周りにいたコボルト、その中でも1番ぼけっとしている個体目掛けて駆け出した。
「殺しとか攻撃とか……そんなのは基本好きではないが、誰かのいいように働き、淡々と気がおかしくなりそうな単純作業に没頭する、というのは割と好きなんだ。悪いが、黙って殺されてくれ」
「が!?」
絶対に回避されないよう、俺はコボルトの首にしがみついた。
その様子を進化個体は笑いながら見つめ、その場に腰を下ろしさえしてしまっている。
俺の言葉を理解してくれたのだろうか?
……ともあれ、この主従関係は興奮で背筋がゾクゾクす、る――
「――ぎゅ、あっ……」
「え? 俺、まだ……」
コボルトの首に巻いた自分の腕に7割ほどの力を込めた。
すると、たったそれだけでコボルトは絶命。
穴という穴から水を吐き出し、ぐったりと両腕を地面に落とした様は中々にグロテスクだが、そんなものが気にならないくらい俺は自分の力が信じられなかった。
なぜなら試験の際、攻撃力を確かめるために叩かされたパンチングマシーンの数値は最下位。
筋力測定だってどれもこれも、スポーツマンとは思えないものだったから。
まさかダメージがなくなる原因は――
「「がう!!」」
「なっ!?」
次の標的は自分になるかもしれない、そうコボルトたちは思ったのか、大勢で俺との距離を埋めてきた。
しかもただ攻撃したり拘束に専念するのではなく、掴んだその手のままで俺の身体を高く宙に放り投げたのだ。
ちなみに掴まれる際思い切り反撃は試みたのだが、当たった個体にはほどほどのダメージ。
首締めのように短時間で絶命させられることはなかったが、それはコボルトを殴り倒せるだけのものだった。
つまりこいつらは勝てない敵ならば、できるだけ遠ざけた上で逃げようという考えか?
「わうぅぅっああああっ!!」
「いや、違っ――」
俺が放たれた先に待っていたのは跳躍自慢のコボルトたち。
数は3。
オーバーヘッドキックの要領で身体をくるりと回し、その踵を俺の顔面目掛けて振り下ろす。
コンビネーションが極まり過ぎている。
このまま、俺の打撃力では奴らからまた1匹殺すのは難しい、か。
防御面は問題ない。
ただ苦手を補う必要が、攻撃力が……俺にも必要になるときがきてしまったか……。
――ひゅう。
「ちょ、馬鹿! なんでこっちに来るのよ!」
それからまもなく、時間にして1秒ほど。
思考に耽りつつ、落下による風切り音を聞いていると、なぜかそれに混じってここにいるはずのない女の声が俺の耳に聞こえてきたのだった。




