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4話 コボルト

「なにか……いつもと違う。それが何かは分からないが……なぁ、お前ならならそれが分かるか?」

「がうあ、ぐうぅ……」



 必死に俺の腕に噛みつくコボルトをそっと撫でながら、俺は問いかけた。


 だが、当然それに答えることはできないコボルト。


 それどころか、その必死な形相はさらに強まり犬歯をぐりぐりと押し当ててくる。



 その結果……ノーダメージ。



 俺の皮膚は犬歯を跳ね返し、まるでゴムのようにぶよぶよとうねる。


 元々こんな体質ではないし、そういったスキルを取得もしていないんだが……。

 その証拠に最初はそこそこにそれは刺さっていたじゃないか。



 こいつらのだらしがない、という感じではないようだが……。



 ともあれ、俺にとってはこれ程までがっくりすることはない。



 ではなぜこうなってしまったのか、それを考えてみようとしようか。



 お復習(おさらい)になるが、最初コボルトの歯は皮膚を破り肉を抉っていた。


 これはこれは心地のいい痛みだったわけだが……突然それは起きなくなった。

 そのまま肉を引きちぎられることも、骨を割られることもなくだ。



 そんなこと、攻撃をスキルもなくほぼ無効化することが可能なのは大きなレベル差が存在する場合のみ、というのが探索者試験攻略参考書からの情報であり、俺とコボルトの間にそれは成立していないはず。



 なぜなら俺のレベルは確か3。


 試験内容に含まれるレベルなどの測定とスキルの鑑定によりこれは間違いない事実。



 対してコボルトは一般的に雑魚モンスターと呼ばれ、普通の人であっても倒すことが可能なモンスター。


 モンスターも人同様に個体によってレベルが異なるとはいえ、研究データによるとその平均レベルは2。



 参考書の記載の差がたったの1を表していたわけがない。



 だとすれば可能性が最も高いのは新規スキル。



 ユニークスキルとは別に後天的に授かるスキル、正式にはノーマルスキルというのが存在する。


 その獲得方法は様々であり、モンスターが現れるようになってから今日までで判明しているものの数は数十種類あるとされている。


 ただしそのどれもが簡単に獲得できるものではない上、戦闘用のものは十に満たない。



 ましてや、自分の身体に弾性を付与するという大きな変化をもたらすものは……未だ発見されていないはず。


 この戦闘が特異なものでありそれを獲得した可能性……なくはないが、明確にはできない。



 そもそも後天的にスキルを獲得した瞬間に立ち会ったことも、獲得したこともないのだから。



 まったく、モンスターが現れてレベルだのスキルだのが生まれたのだからゲームのように簡単に可視化されないものかな。



「……。これでは原因も、この状態の解除も出来そうにない、か。で、あれば仕方ない。あまり得意ではないし、試験でもおそらく最低の評価をもらったこの拳撃を受けてくれ」

「うが……!?」



 側に群れるコボルトたちを最早用済みと判断して、俺は拳を握った。


 そしてそれを振り上げ、それらしいフォルムで打ち出したのだが、コボルトはこれを軽く回避。



 一応試験のためにボクシングジムに通ったりはしたのだが……素質を大幅に越える能力を手に入れるには時間が足りなさすぎたようだ。



「まったく当たる気がしないな。でも逃げないのなら、まだ分からな……。ん?なんでお前、そんなに毛を逆立てているだ?それに動く様子も……。いや、お前だけじゃないな」



 気付けば俺の腕や脚に噛みついていたコボルトたちも毛を逆立て、しかもその口をあんぐりと開けていた。


 まるで強敵に、強者にでも出会ってしまったようなそんな反応で、こっちなら攻撃は当たりそうに見えた。



「逃げてくれるなよ――」



 ――ボコン……ぴしゃっ!



 そんな無防備なコボルト目掛けてもう一度拳を振り上げようとした時、俺の頬に温かい何かがかかった。


 それがなんなのか、それを確認するために視線を上げようと試みるも、なかなか身体が言うことを聞かない。


 その事に苛立ちを感じつつも、俺は自分の腹当たりにある痛みに幸福を感じた。



 間違いない。



 誰かが、こいつらよりも強力な何かが俺に攻撃をしてくれた。



「は、はは……。しばらく遊んでやった甲斐があった――」



 ――ドゴ、ン……。



 再び腹を襲う痛み。


 そして今度はその原因を捉えることができた。


 いや、正確には視認ができているわけではないが……。



「見えないことが確証。つまり空気を弾いてそれを……弾丸にしたってわけか」



 纏わりついていたコボルトの後頭部、それにさっき俺から距離をおいたコボルトの腹にはぽっかりと大きな穴が空き、その弾丸の威力を見せつけていた。



 人間だってこんなスキルを持っていれば直ぐに上位ランクに入れそうだが、これを放っているのは……。



 ――バタン。



「がぅああ……。あが……。あががががががががぁっ!!」

「雑魚なはずのコボルト、か。進化個体……これが。……。ふふ、あははははは!! その姿、その笑い顔にスキル!! 落ち込んでた被虐心を復活……どころか、もっと高めてくれてありがとう!! それで? お前、もっと強い弾を持っているんだよな?」



 腹に穴の空いたコボルトが地面に倒れると、その後ろに全身を血で染め、仲間の死体を踏みつける筋肉質な、でもやはり基本の特徴は変わらない……進化を遂げた、大笑い中のコボルトが姿を見せた。


 そしてそんなコボルトに俺は我慢が出来なくなりこちらも笑い、腕を広げたまま歩み寄るのだった。

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