1話 M
「おめでとう。探索者試験の結果定はF。ぎりぎりだけど合格。えー、探索担当場所は……東京都世田谷だね。あーなんというか、死なないように頑張って」
探索者。
それはモンスターの現れるようになった現行世界で特定の地域を調査し、新たな資源の発見、さらにはモンスターの討伐や人間の居住地域を守る目的を持った職業。
危険な役割を持ってはいるがその稼ぎは時に年収数十億を超えるといわれており、運動能力の高いスポーツ選手や頭脳明晰な高学歴な人間がこぞって応募する人気職業でもある。
俺、堪平歩も今日の試験結果を受けて運よくその職業に就くことができたわけなのだが……その担当場所は通称死の区。
他の区よりもモンスターの湧く数が多く、死亡者も新人が担当することのできる場所の中では最も多い。
ちなみに新人が死亡する確率は……99%だとか。
つまりこれは合格発表という名の死の宣告を受けたといっても過言ではない。
合格を通達してくれたお姉さんがやけに素気ないのはかどうせすぐ死ぬ人間に愛想を振り撒く必要はないから、といったところだろうか。
「……ありがとうございます。精一杯頑張ります」
「あ、うん……。そ、それじゃあそろそろ送迎のバスが来るからちょっと待っててね」
「今日からもう戦場に?」
「あー、なんでも最近は人手が不足しているみたいで……。だ、大丈夫初日は戦闘させないって言ってたから『あの子』」
受付の女性は歯切れ悪く俺の質問を誤魔化した。
するとこのやり取りを聞いていたのだろう、周りの連中がくすくすと笑いだし、俺を指さした。
よっぽど不幸な俺を見下すのが楽しいのだろう。
まぁ今日までの俺の態度を思えば妥当な反応――
「――いや! いやああああああああああああああ!! 私のお父様に言いつけるわよ!! この私が世田谷担当だなんて絶対嘘ですわ! だって私は優秀なのだから!!」
「あー、残念ながらE判定は優秀じゃねえよ。それと、抵抗すると刑務所行き。親の顔を立てるためにもわがまま言うのはやめとけって。ほらバスもう来てるからよ」
辺りを見回していると、ロビー全体に女の泣く声が響いた。
どうやら俺と同じく世田谷行きの探索者らしい。
「あ、迎えがもう来たみたいね。あとあの人について行ってちょうだい」
「わかりました」
「……」
淡々と返事をした俺に物珍し気な視線で刺した受付のお姉さんは一拍おいて手を振り、送り出してくれた。
「ふふ、どうやら『予想通り』最悪の展開になってくれたみたいだな。いや……最高って言ったほうが正しいか」
そんな混沌とした探索者の試験会場で俺は笑いをこぼすと泣き喚く女と共にバスに乗り込んだ。
◇
「――あんた、怖くないの?」
バスが走り出して1時間ほど経った頃。
泣いていた女は目を真っ赤に強いながらも、ようやく落ち着きを取り戻したのか俺に話しかけてきた。
バスの車内にいるのは呼び出しにきた男性と運転手、さらに探索者らしい男女が一人づつ。
いまだ外にはモンスターらしい生き物の存在を視認することはないが、緊張感は異常。
そんな中なんだかんだ俺に話しかけてきたこの女はある意味でメンタルが強いと思った。
「ああ。怖くない」
「そう……。やっぱり変わり者ね。堪平歩って人間は」
「……」
突拍子もなく俺の名前を出した女。
それに同乗していた人間たちもピクリと反応を示す。
「その反応、やっぱりそうなのね。でもまさかこんなところであなたと同じバスに乗ることになるなんて思ってなかったわ。きっとあなたみたいな人間はもっと上に行くと思ってた」
「探索者としての能力、その判定は実績とは別。それはあなたも実感したはずです」
「それは……そうね。でも、まさかこうなるなんて思いもしなかった。だってお父様もお兄様もお前は大丈夫だからって送り出してくれたのよ。それに会社も全力でバックアップするからって……。全部、全部嘘だったって言うの?」
「……」
女は募った感情を俺にぶつけるようにして言葉を吐いた。
よく見ればこの女、有名食品会社桜屋の娘。
傲慢でわがままなキャラクターと俳優顔負けの美貌でバラエティ番組に引っ張りだこ、炎上するこも度々あったのが人気はあった。
そういえばそれが急に業界から姿を消したとして話題になっていたか。
「さっきから電話だって出てくれなくて……こんなのありえない」
再び泣き出しそうな顔に戻り女は呟いた。
……。探索者としての人生にシフトしようと準備期間を設けさせ……親族としては鬱陶しい娘を排除、さらには国のために命を懸けたとして最後に花を添えさせる。
しかもそれをきっかけに会社の評判も向上させよう、という魂胆が見えるな。
探索者という職業を利用したビジネス商法……。
実際知り合いも同じようなことで何人か死んだ。
そしてそれを聞いて俺は悲しみを感じながら……高揚していたっけ。
「最高の状況だな」
「あんた……今なんて言った? 私を、この私を馬鹿にしたわね!?」
――パン!!
ついつい口に出てしまった言葉に反応した女は胸ぐらをつかむと、顔を真っ赤にしながら俺の頬を思い切り叩いた。
痛い。かなり痛い。
ただ叩かれただけとは思えない強烈すぎる一発に脳が揺れた気がした。
これが探索者としての素質、すなわちユニークスキル。
――ハズレスキル【痛覚上昇】だ。
それが俺をFランクとした原因であり、俺を有名人へと……そして探索者へと転身させた理由。
そう俺は常により強烈な痛みを欲し、最悪な状況を羨み……。
「もう一発……って堪平あんた、この痕――」
『きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
バスの外から聞こえてきた女性の声、急停車するバス。
慌て出す探索者と運転手。
……高揚して笑いを溢す、俺。
「ふふ、とんでもない変態。ドMってやつなんだよ。残念過ぎることに」




