12 喪失
雪は、まだ降っていた。
窓の外で白い粒が静かに落ち続け、屋根を叩く音が遠くで小さく鳴る。
ファズは外を見たまま、しばらく黙っていた。
黙りが長いというより、言葉を探してない沈黙だった。
「俺にも、娘がいてな」
ケイリは顔を上げた。
「三人で暮らしてた。俺と、妻と、娘。……冬の山に入った時だ。狼が出て、娘とはぐれた」
淡々とした声。けれど、淡々としているぶん、事実が骨のまま転がってくる。
「見つけた時には、雪の中で倒れてた。担いで帰った。……それだけだ」
“それだけ”で済む話じゃないのに、ファズはそう言った。
済ませるしかなかった言い方だ。
雪が窓に触れて溶ける。
「翌日、首に蕾が生えてた。妻は喜んだ。俺もな。――生き返ったって、思ったからな」
そこでファズは少しだけ言葉を噛んだ。噛んだだけで、飲み込んだ。
「でも、身体は戻らねぇ。顔色も、飯も、息も。良くならねぇまま、日だけ進む。……だから街の医者に連れて行った」
ケイリは、息を止めて聞いていた。
「そこで聞いた。屍咲草の話を」
雪の音だけが続く。
「娘はもう死んでると言われた」
言葉が、静かに落ちる。
「妻は壊れた。俺を責め続けた。俺も、責められて当然だと思ってた。……そういう日が続いた」
ファズは窓の外を見たまま言う。
自分の話なのに、まるで狩りの報告みたいに。
「ある日、家に帰ったら赤い花が咲いてた。娘は眠ってるみたいに終わってて、妻はいなかった」
そこで初めて、ファズが一拍だけ止まった。
止まって、息を吐く。
「……俺は、ほっとした。責められねぇって思った。そう思った自分が嫌でな。………ずっと」
ケイリは言葉を失った。
何か言えばいいのに、何も言えない。慰めも、同情も、ここでは軽すぎる。
やっと絞り出す。
「……それで」
声が掠れた。
「俺たちに会ったのは……偶然ですか」
ファズは、初めてケイリを見た。
目は冷たいわけじゃない。ただ、余計な熱がない。
「叫び声が聞こえた。それが一番だ」
そう言い切ってから、少しだけ続ける。
「ただな。今朝、狩猟小屋に入った。誰かが泊まった跡があったのに、火を使った形がねぇ。……妙だろ」
ケイリの胸が沈む。
「雪の跡は新しかった。街の方へ向かってた。運がよけりゃ会うかもなと思って歩いてたら、お前の声だ」
偶然。
でも、偶然だけで片付けられない線の引き方だった。
そのとき――奥の部屋で、コト、と小さな音がした。
木が鳴っただけか。布が擦れただけか。
けれどケイリの背中は、それだけで跳ねた。
(今の話――聞いてたのか)
身体が先に動いた。
息は遅れて、喉に引っかかった。
ケイリは立ち上がる。
「シイナ」
ファズも視線だけ向ける。
ケイリは扉へ駆け寄り、取っ手を掴んで開ける。
部屋の中は暗い。
ベッドは――空だった。




