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キラキラはきみにある

掲載日:2026/01/08


 今日は二学期の終わりの日。十二月二十四日。クリスマスイブ。小学三年生のりことりなはたくさんの宿題をランドセルにつめて帰り道を歩いている。通りをはさんで向かいに住むりことりなは幼稚園から仲良しでいつもいっしょ。名前は似ているけれど性格は正反対。りこは短いかみが好きだけれどりなは長いかみが好き。りこはしょっぱいせんべいが好きだけれどりなは甘いケーキが好き。りこは外で遊ぶのが好きだけれどりなは家でゲームをするのが好き。全然ちがうのに二人は友だちだ。

 今日は学校でクリスマス会があった。教室はみんなで作った折り紙のリースでかざられ、みんなで決めたクイズやしりとり、イス取りゲームをして楽しんだ。最後に先生が「みんなもしサンタさんに会えたらどんな人だったか先生に教えてくださいね」と言った。明日はクリスマス。今日の夜中にサンタさんがプレゼントを届けに来る。けれどその姿を二人は一度も見たことがなかった。りこは毎年絶対にねないでサンタさんの姿を見るんだと意気ごむけれどねむくなってねてしまう。りなは毎年夕方にねて、夜中に起きようとするけれど朝までねてしまう。

「サンタさんってどんな人なんだろう?」

 りこは会ったことがないサンタさんについて考えた。

「白いひげが生えてて、多分目が青くて、すごく体が大きくて、たしかフィンランドの人なんだよね?」

 りなはサンタさんについてスラスラとしゃべる。

「そこってすごく遠いよね? 日本にまでプレゼントを届けるの大変じゃない?」

 りなが言ったことはりこも知っていた。けれど本当に自分の家にもそのサンタさんが来ているのかわからなかった。

「空飛ぶトナカイのソリに乗るから大丈夫だもん」

 りなはフンッと鼻を鳴らす。ちょっと不満だったようだ。りなの中ではサンタさんもサンタさんが乗っているトナカイもイメージが固まっているのだ。

「トナカイって空飛べないよ」

 りこは動物園でトナカイを見たことがある。空は飛んでいなかった。

「サンタさんのトナカイは空飛べるもん!」

 りこの顔にりなのつばが飛ぶ。りなはおこってしまった。

「……わたしはサンタさんは色んな国にいて、その国のサンタさんがその国の子どもたちにプレゼントを配ってるんだと思う」

 二人のところに来るサンタさんは日本のサンタさんで、トナカイは空を飛ばず、いっしょうけんめい走っている。それがりこの予想だった。

 二人の意見はまっぷたつに割れてしまった。

「それはちがう」

「あんたこそちがう」

 気付けば二人の顔はくっつくほど近付いていた。

「「……キラキラしてる」」

 二人の口から言葉がこぼれる。二人はおたがいの目をじっと見ていた。

「りなの目、宇宙で花がさいてる」

「りこの目は魚が並んで泳いでる」

 二人はパッとはなれた。

 二人の頭の中で花がさき、魚が泳ぐ。りこがちらりとりなを見る。りこもまたちらりとりこを見る。目が合って二人はすぐに目をそらした。素敵なことを言うじゃないか、と二人は照れていた。

 赤城神社の前にある信号で二人は止まる。歩行者用ボタンをおすのはいつもりなだ。りこはそこにこだわりはない。青信号にかわりりこは白いところだけに飛び乗る。これがりこのこだわりだ。りなはボタンをおしたことに満足して横断歩道をただ渡った。

「目がキラキラしている人って心がきれいって聞いたことある」

 りこはふとそんな言葉を思い出した。

「わたしもある」

 りなもうなずいた。

 二人は考える。心がきれいな子とはどういう子だろうか?

「良い子ってことかな?」

 まずりこの頭にうかんだのはこれだった。心のきれいな子を想像してみるとその子は良い子だった。

「じゃあわたしダメ。ごはんの前におかし食べちゃうもん。ごはんもおいしいんだけどさ、おかしはみりょくがあるからさぁ」

 りなは指で一つバツを作る。りなは食べることが好きだ。なんでも食べる。でも特におかしが好きだ。だからごはんの前でも食べてしまう。おかしを食べ過ぎてごはんが食べられなかったこともある。

「わたしもダメ。好ききらいいっぱいある。ピーマンでしょ、大根でしょ、ゴボウでしょ、うん、他にもいっぱい」

 りこの頭が少し下がる。りこは食べられないものが多い。それは良くないとわかっている。食べなきゃいけないと思うのにきらいな味や食感が多いのだ。

 二人はまた考える。自分たちは良い子ではない。心のきれいな子は他に何を持ち合わせているだろうか?一つでも持ち合わせていれば心がきれいと言えるのではないだろうか?

「優しい子ってことかな?」

 次にりこの頭にうかんだのはこれだった。心のきれいな子を想像してみると良い子であり、優しい子でもあった。

「ダメダメ。わたしはずかしくって困ってる子に自分から話しかけられないもん」

 りなは指で二つバツを作る。りなは元気いっぱいで明るくて誰とでも話せそうに見えてはずかしがり屋だ。話しかけてくれるのを待っている。そういう時、りなはソワソワしてしまう。

「わたしもダメダメ。わたしは話しかけられるんだけどこわがらせちゃう。ちゃんと笑えてないんだ」

 りこの頭がさらに下がる。人に話しかける時はやわらかいオーラをまとわなきゃいけないと思うのに話しかけるのでせいいっぱいでつい笑うのを忘れてしまう。そしてそれに気付いて途中からぎこちなく笑うのだ。

 二人はまたまた考える。自分たちは良い子ではないし、優しい子でもない。心のきれいな子は他に何を持ち合わせているだろうか?まだ何かあるはずだ。

「いや、うーん」

「そうだね、えーと」

 二人は何か思い付かないかとあごを触ってみたり、うでを組んでみたりといそがしかった。

「……正直者ってことかな?」

 やっとこさりこの頭にうかんだのはこれだった。心のきれいな子を想像してみると良い子であり、優しい子であり、正直者でもあった。

「ダメダメダメ。わたし席替えで一番後ろになりたかったのに一番前になっちゃってくやしかったのに全然大丈夫ってふりをしちゃったもん」

 りなは指で三つバツを作る。席替えでりながやけに元気な時があった。それは強がっていたのだ。りなは思い出したのかムッと口を閉じた。

「あぁ、ダメダメダメ。わたしは席替えでなりたかった窓側の席になれたのにろうか側の席になっちゃった子にカッコつけてゆずっちゃった」

 りこの頭ががっくりと落ちた。自分を良く見せたくて自分にうそをついた。本当はゆずりたくなんてなかったのだ。けれどゆずらなくてもこうかいしただろう。

「「はぁ」」

 二人はため息をつく。心のきれいなところなんて一つもなかった。

 二人の足はぴたりと止まった。右を見ても左を見ても田んぼ。遠くに二人の家が見える。家までの一本道だ。冬の冷たい風がふく。十二月の何もない田んぼに雲のすきまから光がふり注ぐ。キラキラ、田んぼの土が光る。田んぼはまぶしそうだ。

「いや待って。それはりなの意見でしょ」

 わたしの目に映るりなはそうじゃない、とりこは一歩足を踏み出す。

「どういう意味?」

 りなもつられて一歩足を踏み出す。

 二人はまた歩き始めた。

「だってりなはおいしいものがあるといつもいっしょに食べようって言ってくれるよね? 目をかがやかせてさ。それだけでうれしいんだ。りなは良い子だよ」

 りなは食いしんぼうだ。おいしいものはたくさん食べたいけれど分けたら少なくなってしまう。それでもおいしいものを分けてあげたいとりなの元へ走るのだ。

「りこだってわたしがおいしいものあげたら絶対にチャレンジしてみるよね。食べられないかもって思ってもいやとは言わずに食べてくれるじゃん。りこは良い子だもん」

 りこはりなに言われると食べてみようという気持ちになる。一口以上食べられないことのほうが多いけれど好きになった食べ物もある。マシュマロがその一つだ。

「それにね、りなは困ってる子に誰よりも早く気付くんだ。話しかけられないけど、ねぇ、あの子困ってるよって、助けてあげようって教えてくれる。優しい子だよ」

 りなは周りが良く見えている。いつもみんなに気を配って、みんなが笑っていられるように考えている。

「りこはね、困ってる子の手を取ってぐいぐい引っ張って行ってくれるの。困ってるあの子もその子も全員助けちゃうんだから。優しい子だもん」

 りなが気付くとりこは体が勝手に動く。そしてあの子もその子も助けたくなってしまうのだ。

「りなは、先生が席替えをしたいか聞いた時にクラスの誰も言い出せなかったけどノートの切れ端に自分の意見を書いて出したよね。そしたらみんなも真似してさ。りなは自分だけじゃなくみんなも正直者にさせてくれたよ」

 りなはいつもあれこれと思い付く。それも良いことばかりを。だからりなの周りにはいつも人が集まって来る。

「りこは、席替えをして一番後ろになった時にちゃんと黒板の字が見えないって先生に言えたよね。他の子もりこのおかげで言えるようになったんだもん。りこも自分だけじゃなくて他の子も正直者にさせてくれたよ」

 りこはすぐに言葉にして行動する。だからりこはいつもみんなのそばにいる。

 二人はハッとして立ち止まる。いつの間にかおたがいの家の前まで着いていた。

「「わっはっはっはっはっ」」

 二人は顔を見合わせて大笑いした。どうしてこんなにも自分を見ていてくれるのだろう。たまらなくおかしくて、うれしかった。

「わたしたちの心にもきれいなところあるじゃん」

「きれいじゃないところもあるけどね」

「それで良いじゃん」

「うん」

 りこはりなの心のきれいなところを知っていた。りなはりこの心のきれいなところを知っていた。自分じゃきっとわからなかっただろう。

 二人はもう一度、おたがいの目を見た。

「「キラキラしてるなぁ」」

 やっぱり照れくさくて二人はパッとはなれた。

「サンタさん今とってもいそがしいだろうね」

「わたしの家にはフィンランドのサンタさんが来て」

「わたしの家には日本のサンタさんが来る」

「それで良いじゃん」

「うん」

 二人はバイバイと手をふった。空はくもっているのに二人の心は晴れていた。自分のことがもっと好きになれた。それはキラキラしている友だちのおかげだ。



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