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第19話 彷徨失措

処刑は夜明けに行われた。

広場に三本の絞首台が立ち、その下に三人の男が縛られていた。村を焼いた報復として兵士を殺した、あの三人だ。顔は日に焼け、手には豆があり、服はボロボロだった。農民の姿のままだった。


民衆が広場を囲んでいたが、誰も声を出さなかった。静寂の中、兵士が絞首台の下に立ち、合図を待っている。

私は城壁の上からその光景を見ていた。遠く、小さく、だがはっきりと見えた。カールが手を上げた。


兵士が綱を引いた。三人の体が落ちた。

一瞬の沈黙の後、広場から低いざわめきが聞こえた。泣き声、呻き声、そして何も言わない人々の息遣い。私は目を閉じなかった。見なければならない。これも私の任務の一部だから。


「レイフ隊長」


背後から声がした。振り返ると、副官が立っていた。


「陛下がお呼びです」


私は城壁を降りた。執務室に入ると、カールは既に地図の前に立っていた。窓を背にして、朝日が金髪を照らしている。レーネ、レーヴェンハウプト、アームフェルトも既に到着していた。


「揃ったな」


カールは地図を指した。


「ポーランドは広い。ワルシャワだけでは足りない。トルン、クラクフ、サンドミェシュ。この三都市を二ヶ月以内に制圧する」


私は地図を見た。ヴィスワ川沿いに点在する都市群。それぞれが百キロ以上離れている。

「レーネ、お前はトルンだ。北部の守りを固めろ」


「承知しました」


「レーヴェンハウプト、お前は東部、サンドミェシュを抑えろ」


「了解」


「アームフェルト、お前は南部の街道を確保しろ」


「はっ!」


カールが私を見た。


「レイフ、お前は余と共にクラクフへ向かう。中央、ヴィスワ川沿いを進め」


「はい」


カールは地図を叩いた。


「各都市に守備隊を配置し、街道を確保しろ。アウグストの残党が南部に逃げ込んでいる。補給路を断つ」


レーネが一歩前に出た。


「陛下、各部隊が分散すれば、連絡に時間がかかります」


「構わん。それぞれが独立して動け。月に一度、報告を送れ」


月に一度。それは長い。


「異論は?」


カールが私たちを見た。誰も何も言わなかった。


「では、三日後に出発する。準備しろ」


「はっ」


私たちは頭を下げた。部屋を出ると、廊下でレーネが私の隣に来た。


「レイフ、体調は大丈夫か?」


その問いに、私は少し驚いた。


「ああ問題ない」


レーネは私を見た。その深い皺の中に、何か心配の色があった。


「そう言うのならいいがな」


レーヴェンハウプトが振り返った。


「しばらく会えねえな」


「ああ」


アームフェルトが私の肩を叩いた。


「無理するなよ」


「大丈夫だ」


「本当か?」


私は彼の茶色の瞳を見た。


「本当さ。お前こそな、アームフェルト」


彼は何か言いかけたが、やがて頷いた。


「ああ、また会おう」


彼らはそれぞれの方向へ歩いて行った。私は一人、廊下に残った。窓から見える広場には、役目を終えた絞首台が朝日に照らされて、影が長く伸びている。

三日後、私は部隊を率いてワルシャワを発った。


クラクフへ向かう街道は長く、両側に森が広がっていた。行軍は順調で、一週間後には最初の中継地、トルンの手前に到着した。カールは先行部隊と共に既に街に入っていた。私は後続部隊を率いて翌日到着した。


城の広間で報告すると、カールは地図を見たまま頷いた。


「街道の確保は順調か」


「はい」


「ならば、予定通り進める。お前は明日、南部の村々を巡回しろ」


「はい」


それ以上、言葉は交わされなかった。私は部屋を出た。廊下は静かだった。もう誰もおらず、それぞれが遠く離れた場所にいる。

翌日から、村の巡回が始まった。ゲリラの捜索、治安維持、住民からの聞き取り。最初の村で、私は兵士たちに命じた。


「全員、広場に集まれ」


人々がゆっくりと集まってくる。老人が杖をついて歩き、女が子供の手を引き、若い男たちが肩を丸めて立っている。誰も私の目を見ない。


「家を調べろ」


兵士たちが家々に入っていく。扉が開かれる音。家具が動かされる音。鶏が驚いて鳴く声。女が何か言いかけて、すぐに口を閉ざす。老人が唾を吐く。地面に、私の馬の足元に。


私は馬上から村人たちを見下ろしていた。三十人ほどだろうか。その全員が、沈黙の中で立っている。ある女が赤ん坊を抱いていた。布で包まれた小さな体が、女の腕の中で動いている。だが泣き声は聞こえなかった。女が手で口を塞いでいるのだ。赤ん坊を泣かせないために。


「隊長、何も見つかりませんでした」


兵士が戻ってきた。私は短く頷いた。


「ならいい、撤収する」


次の村でも、同じだった。人々が集められ、家が調べられ、何も見つからず、私たちは去っていく。三つ目の村で、ある男が前に出てきた。白髪で、背中が曲がっている。


「お願いがあります」


男の声は掠れていた。


「息子を返してください」


「息子?」


「はい。三日前、別の部隊に連れて行かれました。何もしていないのです」


私は副官を見た。副官が首を横に振る。記録にない。


「調べてみる」


男が頭を下げた。


「お願いします」


だが私は、その約束を守れるかどうか分からなかった。どの部隊が、誰を、どこへ連れて行ったのか。記録は曖昧で、伝達は遅れ、全てが混乱している。


四つ目の村で、ある若い女が私の馬に近づいてきた。兵士が槍を向けたが、女は止まらなかった。


「あなたたちは何を探しているんですか」


その声には、恐怖ではなく、疲労があった。


「私たちは何もしていない。畑を耕して、作物を育てて、それだけです。なのに毎日、違う部隊が来て、同じことを訊いて、同じように家を荒らしていく」


女は私を見上げた。


「いつまで続くんですか」


私は答えられなかった。女はしばらく私を見ていたが、やがて背を向けて去っていった。

五つ目の村は、もっと小さかった。十軒ほどの家が集まり、井戸が一つある。人々が集まった時、私は気づいた。男がほとんどいない。老人と女と子供ばかりだ。


「男たちは?」


私が訊くと、ある老婆が答えた。


「森に逃げました。あなたたちが来ると聞いて」


「なぜ逃げる」


「そんなの、あなた方に連れて行かれるからに他ならないでしょう」


老婆は私を見た。その目には、非難も怒りもなかった。ただ、深い諦めがあった。


「あなたたちが来るたびに、誰かが消える。だから男たちは逃げるのです」


私は何も言えなかった。兵士たちが家を調べ、何も見つからず、私たちは村を後にした。馬を進めながら、私は老婆の目を思い出していた。あの諦め。あの静かな拒絶。


六つ目の村で、子供が石を投げてきた。小さな石で、私の鎧に当たって跳ね返った。兵士が子供を捕まえようとしたが、子供は母親の背中に隠れた。母親が兵士の前に立ち、両手を広げて子供を庇う。


「お願いです!まだ子供なんです、何も分かっていないんです!!」


私は兵士を止めた。


「いい。行け」


母親が頭を下げて、子供を連れて走り去った。だが子供は振り返り、私を睨んでいた。小さな顔に、大きな憎しみを浮かべて。


七つ目の村で、私は馬から降りた。広場に人々を集めたが、今回は自分も地面に立った。馬上から見下ろすのではなく、同じ高さで。だが人々の視線は変わらなかった。冷たく、硬く、拒絶に満ちている。


「家を調べろ」


私は命じた。だがその声は、もう自分のものではないように聞こえた。誰かが私の口を使って喋っている。私はただ、そこに立っている。見ている。


その夜、天幕の中で報告書を書いていた時、羽根ペンが震えた。文字が歪む。私はペンを置き、両手を見た。指が細かく震えている。私は拳を握りしめたが、震えは止まらなかった。

副官が入ってきた。


「隊長、明日の予定ですが」


「ああ」


私は報告書を手渡した。副官がそれを受け取り、目を通す。


「隊長」


「何だ」


「お顔の色が」


「大丈夫だ」


その声は、必要以上に強かった。副官が一歩下がる。


「失礼しました」


彼が出ていった後、私は水の入った盆に顔を近づけた。水面に映る顔。頬が痩けて、目の下に隈ができている。いつからこうなったのか。私は水面から目を逸らした。

一週間が過ぎた。


報告のために街へ戻ると、カールは既に次の街へ向けて出発していた。副官から伝言を受け取った。


「クラクフへ先行する。合流せよ」


それだけだった。私は再び部隊を率いて出発した。街道沿いの村々を巡回しながら、クラクフへ向かう。

ある村で、家を調べている時、兵士が奥の部屋から何かを持ってきた。


「隊長、これを」


それは小さな木彫りの人形だった。粗雑な作りで、顔の造作もはっきりしない。だが丁寧に磨かれていて、手に馴染む。


「どこにあった」


「子供部屋です。藁のベッドの下に」


私は人形を手に取った。軽い。だが、確かな重みがある。誰かが、この人形を大切にしていた。子供が、夜、この人形を抱いて眠っていた。


「置いておけ」


「はい?」


「元の場所に戻せ」


兵士が人形を受け取り、家の中へ戻っていった。私は広場に立つ人々を見た。その中に、小さな女の子がいた。五歳くらいだろうか。母親の服の裾を握って、私を見ている。

別の村で、井戸の近くに血が残っていた。古い血で、既に黒ずんでいる。


「これは?」


私が訊くと、村人の一人が答えた。


「三日前です。別の部隊が来て、若い男を一人、連れて行きました。抵抗したので、殴られました」


「その男は」


「息子です」


答えたのは、白髪の老人だった。背中が曲がり、杖をついている。


「息子は戻ってきますか」


私は答えられなかった。老人はしばらく私を見ていたが、やがて背を向けた。

また別の村で、ある家の壁に血文字があった。


{侵略者は去れ}


粗雑な字で、血が乾いて茶色くなっている。兵士がそれを見て顔を顰めた。


「消しましょうか」


「いい。そのままにしておけ」


「しかし」


「いいんだ。仕方ないことだ」


兵士が下がった。私はその文字を見ていた。血は誰のものか。書いた者は今、どこにいるのか。

クラクフに到着したのは、それから三日後だった。


街は大きく、ワルシャワに次ぐ規模だった。ヴァヴェル城が丘の上にそびえ、その下をヴィスワ川が流れている。城に入ると、カールが既に到着していた。執務室で地図を広げており、周りに数名の将校が集まっている。


「レイフ」


カールが顔を上げた。私は部屋に入り、報告書を差し出した。


「街道を確保しました。村々の治安も維持しています」


カールは報告書を受け取り、目を通す。


「よくやった」


その言葉は短く、感情がなかった。カールが私を見た。その蒼い瞳が、私を捉える。


「レイフ、残れ」


「はい」


他の将校たちが部屋を出ていった。扉が閉まり、私とカールだけが残った。沈黙があった。カールは窓の外を見ている。


「お前、少し痩せたか」


その言葉に、私は息を飲んだ。


「いえ、任務が」


「顔色も悪い」


カールが私を見た。


「少し、休め」


「いえ、まだ」


「命令だ。剣も研がねば折れる」


カールの声が、低く響いた。私は頭を下げた。


「はい」


「三日間、戦闘任務から外す。お前の部隊はクラクフの街の警備のみを担当しろ」


「承知しました」


カールは地図に戻った。


「下がれ」


私は部屋を出た。廊下で、私は壁に寄りかかった。カールが私を心配した。休めと命令した。だが、その声に温もりはなかった。ただ、道具の手入れを指示する主人の声だった。


しかし三日後、新たな命令が下った。

クラクフ南部の森で、ゲリラの活動が報告されている。部隊を率いて掃討せよ、と。まだ三日経っていない。

副官が言った。


「他に出せる部隊がないそうです」


私は報告書を受け取った。正直カールに指摘されてから疲れが溢れ出てきており、少し視界も眩んでいた。だが、


「分かった。2時間後に出発する」


私は命令を断るわけにはいかなかった。

そして私は百名の部隊を率いて森に入った。森は深く、木々が密集していた。道は細く、馬が二頭並んで通れるほどだった。


「警戒しろ」


私は副官に命じた。兵士たちが弓を構える。私たちは慎重に進んだ。鳥の鳴き声が聞こえ、風が木々を揺らす。それ以外は静寂だった。

やがて、森が開けた場所に出た。そこで、私は地図を確認した。この先に村があるはずだった。だが実際には、地図にない谷があった。


「前進しろ」


私は命じた。前衛が谷に差し掛かった時、突然、矢が飛んできた。


「伏兵だ!」


誰かが叫んだ。矢が雨のように降り注ぐ。兵士が倒れ、馬が嘶いた。


「退け!」


私は叫んだ。だが頭が回らなかった。地図を見る。だがこの谷が、載っていない。


「隊長!」


副官の声が聞こえた。


「左翼を前進させて敵を包囲しましょう!」


「左翼、前進しろ!」


私は叫んだ。左翼が動き出す。だが、それは間違いだった。左翼が前進した先には、崖があった。


「隊長! 左は崖です!」


誰かが叫んだ。既に遅かった。左翼が混乱し、隊列が乱れる。敵の矢が、その隙を突いてきた。兵士が倒れる。悲鳴が上がる。


「隊長! 下がってください!」


誰かの声が聞こえた。


「こっちは俺が繋ぐ!」


見ると、一人の将校が前に出ていた。大柄な男で、荒々しい顔をしている。ヘニング・ブロム中尉だ。


「てめえら、死にてえのか! 右に回り込め! 崖を避けろ!」


兵士たちが動き出す。ヘニングの指示は的確で、混乱が収まっていった。


「弓兵、援護しろ!」


もう一人の声が聞こえた。若い兵士が、震える手で弓を引いている。カール=エーリクだ。顔は青ざめていたが、矢を放ち続けている。


「撃て! 撃ち続けろ!」


彼の声が、他の兵士たちを鼓舞していた。やがて、敵の矢が止んだ。ゲリラたちが森の奥へ逃げていく。


「追うな。まず負傷者を確認しろ!」


ヘニングが叫んだ。兵士たちが動き出す。私は馬から降りた。足が震えていた。


「隊長」


ヘニングが近づいてきた。


「大丈夫ですか」


私は何も答えられなかった。ただ、頷いただけだった。負傷者は五名、死者は出なかった。野営地に戻ると、私は一人、天幕に入った。座り込んで、頭を抱えた。私のせいだ。地図を読み間違えた。判断を誤った。兵士たちが傷ついた。


夜、焚き火の音が聞こえた。兵士たちが集まって、何か話している。私は天幕から出ようとしたが、足が止まった。私には、あそこに行く資格がない。


「隊長」


背後から声がした。振り返ると、ヘニングが立っていた。


「焚き火に来ませんか」


「いや、私は」


「来てくださいよ」


ヘニングの声は、有無を言わさぬものだった。私は彼について行った。焚き火の周りに、十数名の兵士が座っていた。私が近づくと、みんなが顔を上げた。沈黙があった。


「座ってください」


カール=エーリクが言った。私は座った。火が揺れている。誰も何も言わなかった。


「すまない」


私は言った。


「今日、私のミスで」


「隊長」


ヘニングが遮った。


「謝らないでください」


「だが」


「あんたが判断を誤ったのは事実だ」


ヘニングは火を見た。


「でも、あんたは前に立ってた。俺たちの前に」


カール=エーリクが頷いた。


「僕も、怖かったです。でも、隊長が前にいたから」


「だから俺たちも立てた」


ヘニングが私を見た。


「あんたが怖がってくれるから、俺たちも怖がっていいって思える」


私はその言葉の意味が分からなかった。


「怖がる?」


「ああ」


ヘニングは火に枝を投げ込んだ。


「俺の前の隊長はスコーネで戦ってた」


彼は遠くを見た。


「あの人は何も恐れなかった。何も迷わなかった。だから俺たちも、恐れちゃいけないと思ってた。迷っちゃいけないと」


「でも?」


「でも、それは嘘だった」


ヘニングは私を見た。


「俺たちは怖かった。そりゃ死にたくねぇし殺したくもねえさ。普通の人間ならな。ただ、それを言えなかっただけだ」


カール=エーリクが小さく言った。


「僕は今日初めて人を撃ちました」


彼は震える手を見た。


「怖かったです。手が止まらなくて。でも、隊長も震えてた。だから、僕も震えていいんだって」


私は二人を見た。炎が揺れている。二人の顔が、明るくなったり暗くなったりする。


「私など」


言葉が喉で止まった。


「人を導く器じゃない」


その言葉が、口から出た。


「将軍として失格だ」


「だから、いいんだよ」


ヘニングが肩を叩いた。


「あんたは俺たちと同じだ。だから、一緒に立てる」


カール=エーリクも頷いた。


「隊長がいれば、僕たちは戦えます」


私は何も言えなかった。ただ、火を見た。温もりがあった。小さいが、確かな温もりが。


「隊長」


ヘニングが酒瓶を差し出した。


「飲みましょう」


私は瓶を受け取った。口をつけると、酒が喉を通った。温かく、少し辛い。


「隊長」


エーリクが言った。


「明日も、お願いします」


私は彼を見た。若い顔だった。まだ十代だろう。だが、その目には強いものがあった。


「ああ」


私は答えた。


「明日も、頼む」


その夜、私は少しだけ眠れた。完全にではない。まだ、様々な顔が浮かんでくる。村で見た子供の顔。連行された男の顔。泣く女の顔。処刑された三人の顔。だが、ヘニングとエーリクの顔も、浮かんできた。


翌朝、私たちはクラクフへ戻った。

カールの執務室で報告した。


「ゲリラは掃討できませんでしたが、追い払い治安を確保しました。」


カールは報告書を受け取った。


「負傷者は」


「五名で死者はいません」


「そうか」


カールは地図に戻った。報告書を読みもせずに、机の隅に置く。


「次はトルン方面だ。レーネとの連絡を確保しろ」


「はい」


「もう休んだのだろう」


「はい」


「ならば問題ない。明日出発する」


私は頭を下げた。部屋を出る時、カールは既に地図に向かっていた。私の報告に、何の関心も示さなかった。負傷者のことも、戦闘の詳細も、何も訊かなかった。


廊下で、私は立ち止まった。焚き火のことを思い出していた。ヘニングが肩を叩いてくれたこと。カール=エーリクが震える手を見せてくれたこと。あの温もり。


だが、カールの執務室には温もりがなかった。地図があり、命令があり、次の戦いがあるだけだった。私は道具として扱われ、道具として次の任務へ送られる。


私は窓の外を見た。クラクフの街が広がっていた。人々が動き、煙が上がり、川が流れている。占領地、征服地。


その中に、ヘニングとカール=エーリクがいる。恐れを共有できる者たちが。

だが、カールは恐れない。迷わない。何も感じてないのだろうか。

そんな彼が私は少し怖くなっていた。


私は廊下を歩き出した。足音が響く。誰もいない廊下を。次の任務へ。

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