蒸夏
初めて書いたので拙い部分もあると思いますが、一人でも多くの人に届き、評価してもらえると嬉しいです。
湿気の多い夏の日。
歳は三十を超え、外回りの仕事をし、時々開く店の中から漏れ出るクーラーの冷気と外の熱気が交差する中、僕の脳は何故だかわからないが、"彼女"のことを思い出していた。
彼女は僕の高校生の時の恋人だった。
それも初めてできた恋人だ。
今、何をしているのかはわからない。
何故付き合ったのかも今となってはもう忘れてしまった。
だが、彼女と別れた理由だけは覚えている。
それは、今とは正反対の、冷え切り、乾燥した12月。 店の中だった。
彼女は僕にこう言ったんだ。
「あなたはいつも遠くを見ているね。」
僕は最初、何のことか分からず
「どうしたんだい?」
と言った。
「あなたは私を見てくれない。」
しかし僕は確実に彼女を見ていた。
「今だってこうやって目を見てるじゃないか。」
僕は言う。
「ううん、見てないの」
まだ分からず僕は曖昧な彼女の態度に少し苛立ってきた。
「じゃあ一体どこを見てるっていうんだい?」
「それも、わからない。」
そう言い放った後、彼女は店を出て行ってしまった。
不思議と僕も引き留める気にはならなかった。
同じ高校ではなかったためそこから彼女に会うことはなかった。
決して仲が浅かったわけではない。
僕なりには上手くやっていたと思うし、彼女も喜んでくれていたと思う。
その時から僕は時々考える。
「僕はちゃんと人を見れてるだろうか」
「彼女の言った"見る"とは何なのか」
「逆に、彼女は僕を"見て"くれていただろうか」
「あの時引き留めていれば僕は彼女を"見て"いることになっただろうか」
「付き合って良かったか?」
と聞かれたら僕は迷わず
「はい」
と答えるだろう。
特別に可愛げがあったわけでもない彼女だが、後悔はない。
もともとは種の繁栄のために生まれた感情であるが、現代社会において恋や愛は多様化している。
そんな中で、ちゃんと相手を"見て"恋をしてる者はいるのだろうか。
彼女は自分を"見て"くれる相手を見つけられたのだろうか。
「これ、落としましたよ。」
「あぁ、ありがとうございます」
僕は今、あなたをちゃんと見れているだろうか。
感情は、恋は、人間は、あまりにも不確定で不安定で不完全だ——