第7話 クラス懇親会①
「これから1年1組のボウリング大会を始めたいと思いまーす!」
蓮の掛け声にいぇーい!とクラスの声がボウリング場に響き渡る。参加者はなんとクラス40人全員と、とりあえず第一目標は達成できたわけだ。
「そしてなんと1位を取ったグループには、優勝賞品である学食無料券が配られる!みんな優勝目指して頑張ろー!」
なにか1位なる目標があれば盛り上がるとのことで、参加費をほんの少し多めに徴収して優勝賞品を用意することにした。学食にあるものであれば1度だけ無料で食べられるチケットである。普段学食を利用している生徒であれば是非とも手に入れたい賞品である。
「全部で2ゲーム投げてもらって、合計数が多いチームが優勝になる。あと個人で1位だったやつにも同じ賞品があるからな!チームで協力していけよー!」
個人で良い記録を出して優勝できなかったらもしかしたら不満が出るかもしれない。なので個人優勝の人にも渡すことにした。これであまり雰囲気を崩すことはないだろう。
じゃあゲームスタート!との掛け声とともに、それぞれのチームがボールを持って投げ始めた。あとは勝手にチーム内で進めてくれるだろう。
「ん、司会お疲れさま」
「おう!じゃあ一番手いかせてもらうぜ」
投げる順番は蓮、如月、結城、俺となった。ボウリングは小学生に両親に連れてもらってきた以来なので戦力になれる自信はない。
「やるからには優勝狙うから…神崎よろしく!」
「いやそこは蓮に期待してくれ…俺はまったく自信ないからな。ちなみに2人は自信あるのか?」
「わたしは普通ぐらいかな!」
「わたしも特に苦手意識があるわけでもないですよ」
なんだと…。これはもしかしたら俺がグループ最下位になる可能性があるのか。そこそこのスコアを出せればいいと思っていたが、これでひどいスコアを出したらその印象が根付いてしまう。
俺は蓮が投げている様子を観察する。1投目は8ピン倒したらしく、いま2投目の準備をしている。立ち位置、ボールを持つフォーム。そしてボールを投げだす時の腕の位置を観察した。蓮が投げたボールは見事残っていたピンを倒して結果はスペアとなった。
よっしゃ!と言いながら席に戻ってきて如月、結城とハイタッチをしている。自ら求めていけるなんで凄いよな…。もしかえって来なかったらへこむ自信しかないな。
「出だしは順調だな、頼むぜ翔!」
「だからなんで俺なんだよ…頼むから過剰な評価はやめてくれ」
なぜみんなこう期待しているような言葉をかけるのだろう…。別にプレッシャーに感じることはないが、変に期待されても困る。
そんな話をしていると、如月が戻ってきた。戻ってくるの早いなと思ってスコアボードを見るとストライクのマークがついていた。
「いぇーい!ストライクだったよ!」
嬉しそうに戻ってきた如月は結城と一緒に喜んでいる。
おい全然普通じゃないだろ。ちゃんとうまいじゃないか。
「これは優勝狙えるかもな!」
「いけるいける!」
はぁ…なんでこのグループになってしまったんだ。もう少しこう…言い方は失礼だが苦手意識があるやつと組みたかったな。
結城は2回投げて、合計8ピンだった。ストライクやスペアではないが上々の立ち上がりじゃないだろうか。
ふぅ…次は俺の番か。無難にこなせるように頑張ろう。
先ほどの蓮の投球フォームを思い出す。立ち位置はこのあたりで…確かこう投げてたはず。
投げたボールは…真っすぐいくことはなく左に逸れていきガーターとなってしまった。続いて2回目の投球、ボールが左に逸れてしまったのでもう少し右側に立ちボールを投げてみた。だがまたしてもボールは真っすぐいかずガーターになると思ったが、どうにかボールが生き残り左の2ピンだけだが倒すことができた。
肩を落としながら席に戻ると、3人が手を挙げてハイタッチする格好で待っていた。
「…その手はなんだ?」
「ん?ハイタッチに決まってるだろ」
「そうそう、最初はみんなそんなもんだから落ち込まないでよ!」
あんまり同情しないでくれ…と言いながら不器用に3人の手をたたく。
「なんか神崎って…可愛いね!」
「あ、それ分かります!」
「なんでだよ…結城も同調しないでくれ」
俺は男なんだぞ。こんな不器用な男のどこが可愛いだよ…そして結城はなぜ頷くんだ。
今の1フレーム目を頭の中で反省しながら、俺は他の3人の投げている姿を見て雑談に興じることにした。
◆◆◆
1ゲームの結果を見て俺は少し安堵した。スコアは100を超えたためとりあえず最低限の仕事はできたのではないかと思う。
他の3人はどうだったか見ると、蓮は168、如月は130、結城は116だった。みんな普通にうまいじゃないかと思いながらスコアを眺めながらぼーっとしている。
すると席を外していた結城が戻ってきて、隣の席に座ってくる。
「神崎くんお疲れさま。みんなのスコア見てきたけど、今のところ3位だったよ」
「お疲れ、マジか3位か…完全に俺のせいじゃないか」
これは完全に俺が足を引っ張ってるな…後半はなんとなくだがコツは掴めてきたし頑張らないとな。
「そんなことないよ、私も全然だし…2ゲーム目も一緒に頑張ろう!」
そう言って手のひらをこちらに向けてくる。慰めてくれてるんだろうなきっと…。
そんな優しさを素直に受け取り、俺も手を出してハイタッチに応えることにした。
続いて2ゲーム目、相変わらず調子が良い蓮、如月。そしてスペアを取って喜んでいた結城の手を重ねて、俺はボールを持つ。
実は先ほど少し時間が空いた際に、ボールの投げ方動画を見ていた。その動画内容を思い出し、そして1ゲーム目での反省を生かしてボールを投げる。するとボールが曲がることなく真っすぐいき、ベストな場所にピンが当たる。するとすべてのピンがはじけ飛ぶ。
「よっしゃ!」
生まれて初めて取れたストライクに俺は感情が表に出てしまい、思わずガッツポーズをしてしまった。
その姿を見られてしまい、からかわれるんじゃないかと思い後ろを振り返ろうとしたが…それより前に蓮に肩を組まれていた。
「やったな翔!ストライクじゃないか!」
まるで自分のように喜んでくれている蓮の姿がそこにあった。
「あぁ…これで少しはチームに貢献できたよ」
それを見たからか、逆に冷静になり冷たい返しをしてしまった。
「ツンデレだな」
「ツンデレだね」
「ツンデレですね」
「やかましい」
3人に突っ込まれたが、それでも初めてのストライクに笑みが引っ込まず席に戻ってもにやけてしまっていた。
すると結城から…
「神崎くん、おめでとうございます!」
なぜか結城も表情を見てわかるぐらい喜んでくれており、手のひらをこちらに向けてくれている。
「ん…ありがとう結城」
少し恥ずかしくなってしまったが…ここは素直になってみようと思い、結城の手のひらに手を重ねるのであった。