第3話 高校生活
「ふぁ~あ、眠すぎる…」
そんなことを隣でつぶやく友人を横目に見ながら、俺は授業に耳を傾ける。
海星高校は学力と部活動両方に力を入れており自立性を重んじている。
部活動では運動部と文化部合わせて30以上存在している。運動部では全国大会に出場しているところもあり地元ではそれなりに有名な学校である。
また学力に関しても偏差値がとても高く、有名大学進学率が高い。なので授業のスピードも速いが、その分教え方がうまく理解がしやすい。
ただ規律に厳しく、授業態度や日常生活で問題を起こせば成績にとても響くので、授業中は比較的静かである。左隣に座っている友人も眠そうな様子ではあるが、静かに授業を聞いている。
俺自身も良い成績を収めて、1年生のTOP5に入り学費免除を狙っているため、余計な考えをやめ、静かに授業に集中することにした。
◆◆◆
午前中の授業が終わり昼休みになる。俺は蓮に誘われて学生食堂に来ていた。私立高ということもありとても広く、綺麗で、そしてなにより値段がお手頃なのだ。
俺はからあげ定食を頼み、食堂で受け取る。周りを見渡したが、4人用の席しか空いている様子がなかったため、そこに向かい合って座ることにした。
いただきます、と揚げたてのからあげを頬張る。
うまいなぁ……噛み応えのある肉質に肉汁が口の中に広がってくるこの感じ、素晴らしい。
「うまそうだなからあげ…一個もらっても…」
「おい…ふざけるな」
目の前から箸が伸びてくるが、その腕を素早い動きで止めることに成功した。
「おぉ…無表情で食べてたからそんなにうまくないのかと思ったぞ」
何を言っているんだこの男は…確かに昔からあまり表情に出ないとは言われていたが、美味しい食べ物を食べれば嬉しい感情にはなる。
「ん?あそこにいるのは…」
蓮がある方向を見ている…そこには座る席を探しているのか、結城さんともう1人女の子が立っている。
確か同じクラスの…如月さんだったか。
「あ、赤城!」
すると如月さんがこちらに向かって歩いてくる。結城さんも後ろに続いて歩く。
「うん?どうしたんだ2人とも」
「いや~、席が空いてなくてさ。良かったら一緒に座っても大丈夫そ?」
周りを見てみると、席のほとんどが埋まっていた。まだ昼休みは始まったばかりなので、当分の間はこのままだろう。
「俺はいいぞ、翔も別にいいよな?」
「ん、別にいいけど…」
ほんとは…遠慮したいけども。ここで嫌な顔してもいいことは何もないからな。
「ありがとう~!ほら、陽菜乃も一緒に座ろう」
「うん、ありがとうございます」
そう言って2人は座ろうとするが…いま俺たちは4人席を向かい合って座っているためこれだと隣に座ることになるだろう。
なので俺は蓮の隣に移動することにした。
「あ、ごめんね。なんか気を遣わせてちゃったかな」
「別にそんなんじゃないから、お礼は必要ないよ」
これは気を遣った行動ではない。ただ俺の隣に座ると不快になると思うから。だから移動しただけ。
「そういえば…神崎だよね!私は如月雫、よろしくね!」
如月雫。同じクラスメイトで彼女も結城さん同様バスケ部に所属している。
黒髪ショートであり、結城さん同様顔が整っており、体格もスレンダーで非常に容姿が良い。さらに気さくな性格だからか、男女ともに友人が多い印象だ。女性版の蓮みたいだな。
「神崎翔。よろしく」
「こいつこんな感じだけど、悪いやつではないから。仲良くしてやってくれ」
「おい、余計なお世話だ」
まぁ冷たい印象を抱くだろうなとは思っている…こちとら今まで女子とほとんど話したことないんだ。理解してもらいたい。
「ははは、大丈夫だよ。ほら、陽菜乃も自己紹介しなよ」
「う、うん。あの…結城陽菜乃です。よろしくお願いします神崎くん」
自己紹介するが…少し戸惑ったような素振りが見られた。
まるで…何かを隠しているような…。その違和感はおそらく俺しか気付かないだろう。
「うん、よろしく」
またしても冷たく返してしまったが…ほんと許してほしいわざとではないんです…。
まぁ…特別仲良くなる必要もないしな。これぐらいの距離感がいいだろう。
「赤城とは同じバスケ部だから知ってたんだけど…神崎は何か部活入ってたりするの?」
「いや、俺は帰宅部だよ。進学コースだし入るつもりはないかな」
「へぇ、身長もあるし体格もいいから何かスポーツやればいいのに」
それ蓮にも言われたな…確かに俺の身長は178センチほど。身体は今も鍛えているためそれなりに動ける自信はある。
「そうだよな~、体力測定だってよかったじゃねぇか。もったいない」
「中学の時は何か部活に入ってなかったの?」
……まぁ聞かれるよな。
別に不思議なことはない。会話をしていればいずれ出てくるであろう話題。幸い蓮には聞かれることはなかったが、遅かれ早かれ聞かれていただろう。
「……特にはやってなかったよ」
あまり嘘は付きたくないが…まぁしょうがない。特にバスケ部である2人にはバレたくない。
「ふーん、まぁバスケ部に入りたかったらいつでも言って!赤城が教えてくれるよ!」
「おう、任されるぞ翔」
「なんでバスケ限定なんだよ」
とりあえず追及などはされることなく、話が流れてよかった。
如月と蓮にバレていないことを確認でき、安堵した俺は2人の会話を聞きながら食事を進めるのであった。
目の前に座っている彼女が少し気まずそうにしていたが、俺は気付かないフリを続けることにした。