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第4話 それは知らない間の出来事

バン!

という音と共に、水瓶が割れて中に入っていた水が漏れだした。

水に写し出されていたものが歪む。

「、、、。バレたみたいね」

「シャンゼルだろう。勘が良い」

さっきまでは、水瓶の中の水にクライドと外園千秋の様子が見えていたが、今は遮断されて何も見えなくなった。

「どうするの? リュクレオン」

「、、、、」

リュクレオンと呼ばれた男は、考える。

外園千秋を狙うだけなら簡単だが、何をするにしろ、彼女を守るべくクライドがずっと側にいる。クライドだけならともかく、シャンゼルもいるとなると、 これは手段をよくよく考えなくてはならない。

「シャンゼルがいるとなると、王が直々にこの娘の保護に動いてる、と考えた方がいいな」

「、、、そうね。でも、どうして今までこの娘の存在が分からなかったのかしら」

見れば、外園千秋の持つ魂は、他の人間と比べ物にならない程、美しく輝いていた。それもかなり目立つ位に。魔族にとってはかなり上級の獲物になる。

「クライドが周りを騙してたんだろう。子供の頃から、この娘と結婚するつもりでいたらしいからな」

そうでなかったら、王が動いているのだから、シャンゼルか、他の誰かが王命でこの少女を守っていたか。

「親子2代に渡って人間の娘にうつつをぬかすとは、王家も地に落ちたもんだ」

それは、別に自分達だけでなく、他の誰もが思っている事だろう。下手をすれば、王家そのものの転覆を狙われかねないというのに。

「私は王家なんてどうでもいいわよ」

「分かっているよ、アルフィン。とにかく手をうつから、そうカリカリするな」

アルフィンと呼ばれた少女は機嫌悪そうに、リュクレオンを見た。

「で? どう手をうつつもり?」

ぶっちゃけクライドとシャンゼルの双璧に守られてるこの外園千秋に、手を出せるかといえば無理がある。

リュクレオンは考えて、

「まあ、人間には人間で処理してもらうのがいいかもしれない」

そう言ってニヤリ、と笑った。

「まかせてもいいのよね」

「安心しろ、アルフィン。数日中にはこの娘は処理できる」

すぐに手を打つ。リュクレオンは、アルフィンの頭を優しく撫でた。

「クライドと結婚するのはお前だ」

アルフィンは、そう言われて育って来た。

今更、他の誰かにクライドを奪われるなど、論外の話だった。

小さい頃、クライドと出会って一目で恋をした。それからというもの、クライドの妃になるべく今まで努力してきたのである。

「頼んだわ、リュクレオン」

アルフィンはリュクレオンの手を握った。

リュクレオンはそんなアルフィンに優しく微笑んだ。



5月某日の月曜日。

この日は朝から雨だったが、それが昼頃には激しい雷雨になっていた。

「凄い雨だね」

教室の窓は全て締め切られていた。雨が入ってくるからである。

千秋は窓に打ち付ける雨を見て、窓側に立っていた。

「千秋、カーテン閉めて」

ギイは自分の席に座ってそう言った。

「? 雨、嫌いなの? ギイ」

「いいから閉めて」

若干強い口調で言われて、千秋はカーテンをかけた。

「これでいい?」

「ああ」

ギイは、微妙に緊張した顔になっている。

「? どうかしたの?」

「まあ、ちょっとな」

ギイは、視線を感じとっていた。それも外からだ。距離は大分離れているようだが、誰かがこちらの様子を伺っている。それを察知していた。

今はカーテンをかけたから、こちら側は外から見えないだろう。

(一体、どこから、、、)

探してみるが、今はその気配が消えて分からない。

「お昼にしよっか、ギイ」

今は昼休みだ。

「私、今日張り切ってお弁当作ったんだよ。はい、これ」

そう言って千秋は、ギイにお弁当とお茶の入った水筒を差し出した。中身は千秋とお揃いだ。

朝から料理をしていると思ったら、お弁当か。ギイは、

「なんだ、必要なら俺が作ったのに」

と言ってお弁当を受け取った。

「いいの。私が作りたかったんだから」

日頃お世話になっているお礼のつもりだ。

とはいえ、食材そのものはシャンゼルに用意してもらったのだが。

「有り難う。じゃあ、遠慮なく」

ギイは、お弁当の蓋を開けてお箸を手にした。千秋の手料理は、初めてだ。

「うん、旨い」

ギイは、嬉しそうにお弁当を食べた。

「ほんと?」

「ああ。千秋は良い奥さんになれるよ」

言われて千秋は赤くなった。

ギイは、お弁当の中のタコさんウィンナーを見て笑った。

「子供が喜びそうなデザインだな」

ちゃんと、黒胡麻の目が付いてる。

千秋の、こういう所がたまらなく愛しくなる。きっと子供が出来たら、同じものを作ってるのだろう。その時の子供の反応を想像すると、なんだか微笑ましい。

「可愛いでしょ、タコさんウィンナー」

「そうだな。気に入った」

そう言って、ギイはタコさんウィンナーを満足気に食べた。

千秋は、ギイに見惚れた。箸使いが、ギイは凄く綺麗なのである。いや、それ以前にギイそのものが美しいのであるが。

「千秋も早く食べろよ。昼休みがなくなるぞ」

言われて、私は自分の席に座ってお弁当を広げた。

「いいわね、お弁当」

恵は千秋の前の座席に座って、羨ましそうにギイと千秋のお弁当を見た。そして購買部で買って来たパンをかじる。

「恵もたまにはお弁当にしたら?」

恵はいつもパンだ。聞けば、母親が料理下手らしく、作ってもらいたくないんだそう。

「私、母親ゆずりの料理下手だから」

だから、自分で作ろうにも作れないと言う。

「弁当なんて適当で作れるだろ」

学はギイの座席前、恵の隣に座ってそう言った。学は毎日自分で弁当を作っている。

「前の晩の余り物入れたりさ、簡単だぜ?」

「そんな余り物なんて残らないわよウチは。食べ盛りの弟たちが全部食べちゃうし」

恵には、下に3人の弟と妹がいる。

「もう、食事は取り合いなのよ? 」

それには、千秋が羨ましいと思った。

「あはは。賑やかでいいじゃない」

千秋は一人っ子だ。兄弟で争うとか、そんな経験がない。それ以前に千秋には両親もいない。育ててくれた祖父も他界してしまって、本当に一人だ。

「私、恵の家に生まれたかったなぁ」

文句言いながらも、ワイワイ毎日楽しそう。そう言うと、

「何よ、千秋。あんた今クライドさんちに居候してるんでしょ?」

「うん、まあ」

「そっちの方が羨ましいわよ。ずっと恋人と誰にも邪魔されずに一緒ってさ」

おまけにその恋人は、超美形だし。と付け足して、恵はギイを見やる。

「言っておくけどね、千秋の恋人なのは納得したけど、千秋に変な事したら私、許さないから」

言われてギイは首をかしげた。

「変な事ってなんだ?」

「そんなの考えたら分かるでしょ! 千秋はウブなんだから、ワケわかんない事しないでって言ってるのよ」

「お前の言ってる事の方が訳がわからん」

「なんですって?!」

どうして恵はこう、ギイに対してケンカごしなのだろう。

「くっくっく。恵は千秋の事溺愛してるからな」

二人のやりとりを面白そうに学が見ている。

「溺愛って言うのかな?」

「じゃなきゃ、過保護」

恵は千秋の事を妹か何かのように可愛がっている。

「お前の事、いつも心配してるからな。まあ、それは俺もだけど」

学は千秋の頭を撫でた。

「何かあったら、相談しろよ? 恋人には話せない事だって、俺らなら聞いてやれる」

「、、、うん。有り難う、学」

千秋は、二人にはこれまで何でも話してきた。

良い友達を持ったなって、つくづく思っている。恵も学も、甘えるのを許してくれる。千秋はそれが嬉しかった。

「けどさ、クライドさんて人間じゃないんだろ? それもびっくりだけどさ、だったらクライドさんと結婚したら、お前、どうなるんだろうな」

「どうって?」

「どこに住むのかとかさ」

それは千秋には分からない。

「寿命の問題もあるんじゃないのか? クライドさんは長生きでも、千秋は人間だろ」

ギイは、何千年と長生きだと言っていた。でも人間の寿命はせいぜい80歳とかそこらである。ギイと結婚しても、どう考えても千秋の方が先に死ぬ。そうなったら、ギイはどうするんだろうか。

「その話、言ってなかったか?」

ギイだ。

「俺と結婚したら、千秋も長い時を生きるようになる。俺の寿命の半分を分け与える事になるから」

「えっ?!」

「千秋は人間じゃなくなる。俺の半身になるんだよ」

ギイはさらっと言った。

「だから千秋とは、ずっと一緒だ」

そして微笑む。

千秋には、そんな長生き人生なんてぴんとこない。

「ギイみたいな人たちって、皆長生きなの?」

「魔族は人間と比較すれば遥かに長生きだよ。寿命も伸ばそうと思えば伸ばせるから、死なないって言った方がいいな。まあ、殺されない限りはだが」

「、、、」

それなら私は、永遠の時をギイと過ごすという事になるのではないか。

「そうだよ。まあ、人生に飽きて自分から消滅する奴も中にはいるがな」

信じられない。死ぬ、という事がないだなんて。

「じゃあさ、クライドさんて今何歳?」

不思議に思った恵がたずねた。

「俺は18歳だ。大人になるまでの成長は人間と一緒だよ。大人になってからが、あまり老いなくなっていく」

「じゃあずっと若いままなのね」

「まあな」

お弁当を食べ終わって、ギイは席を立った。

「美味しかったぞ千秋」

そして千秋の頬にキスする。

千秋は赤面した。

「また、作ってくれるか?」

「う、うん。私、毎日作ろうと思ってるんだけど」

「それなら早起き頑張らないとな。まあ、無理はするな」

千秋は早起きが苦手だ。

早起きできたらお弁当を作り、そうでなかったら、食堂で食べている事が今まで多かった。

「ちょっと、シャンゼルと話してくる」

ギイはそう言って教室を出た。

ギイがシャンゼルのいる教室に向かおうとすると、分かっていたように、教室の外、廊下にそのシャンゼルがいた。

と、言う事は、

「なんだ、気づいてたんだな」

シャンゼルも、外からの視線に気づいていたらしい。

「、、、視線の主に心あたりは?」

きかれても、ギイには分からない。

「ある訳ないだろ」

「なんか、人間ぽかったけど」

「人間?」

人間に狙われるなど、それこそ心あたりがない。

「俺、ちょっと調べてみるわ」

シャンゼルは思う所があるように、顎に手をやりながらそう言った。

「調べるって、どうやって?」

ギイがたずねると、シャンゼルはにぱっと笑って言った。

「当たりがでたら、1個貸しだぞクライド」



シャンゼルは、王命でこれまで千秋を守ってきた。千秋自身は全く分かっていないが、ギイの魂が入ってる千秋は、普通の人間以上に強烈な光を放っていた。その光は、宝石にすれば大粒のダイヤか何かが出来そうな位で、それが魔族の標的にならないなよう、ギイが千秋のその光を誤魔化して、周囲を騙してきたのである。

でも今は、千秋の存在は誰もが知っている。

千秋は誰に狙われてもおかしくない。

「しかし、厄介な事になったな」

シャンゼルは呟いた。

学校が終わってから、シャンゼルはギイの館の自分の部屋で、パソコンにかじりついていた。

「なんだ?」

ギイもそのパソコンを見る。

「傭兵で、日本に詳しい者にオファーがかかってる。それも、残らず」

オファーをかけてるのはアメリカだった。

「おまけに調べてみたら、対テロリスト養成所からチームごとごっそり日本に入国してる」

ギイはぽかんとした。

「それが全部、千秋を狙ってるって話か?」

「アメリカ大統領が、大統領に当選したのは、裏で手を引いてるやつがいたから」

「誰?」

「リュクレオン・ジョースターだよ」

「リュクレオン?」

リュクレオンは幼馴染みだから知ってる。

リュクレオンは、ギイの生まれた国の公爵家の子息だ。

子供の頃、何回か遊んだ事がある。

「リュクレオンに頼まれて、アメリカ大統領が動いてる、とまあ、そんな所だろう」

「なんでリュクレオンが千秋を狙うんだ」

「旧知の仲だからって、安心できないねぇ」

シャンゼルは笑った。

「リュクレオンが双子の妹を溺愛してるって有名だぞクライド」

「アルフィンか」

「そのアルフィンは、お前の婚約者候補だ」

「、、、」

アルフィンがクライドの王妃の座を狙っている、とすればこの状況の辻褄が合う。妹の願いを叶えるべく、リュクレオンが動いている。おそらくは、そんな事だろう。

「お前が千秋ちゃんと結婚するって正式に発表した時、抗議の書簡がいち早くリュクレオンから届いてただろ」

「ああ、そんなのもあったな」

「確定じゃないけど、多分コレ当たりだと俺は思う」

それ以外で、不穏な動きを見せているものはない。

「、、、」

自分たちは傭兵なんぞに狙われても平気だが、人間の千秋は別だ。やれ爆弾だの、ピストルだのに狙われたら間違いなく命を落とす。

「いっそこの館に閉じ込めておくか?」

シャンゼルに言われてギイは考えた。

ギイの住むこの屋敷は、時空の狭間にある。

だから、人間からは一切手出しできないようになっている。ここは安全だ。

「いや、千秋を不安にさせたくない」

千秋には、いつも通りでいて欲しい。身の安全と引き換えに屋敷に閉じ込めたら、千秋は不満を漏らすだろう。

だが、とんでもない数が襲ってくる危険な状況なのは間違いない。

「大統領と掛け合うか?」

てっとり早く済ませるには、その方が良い。

シャンゼルはそう思ったが、ギイは首を横に振った。

「いや、まだ決まった訳じゃないからな。それは放置でかまわない」

「なら、どうするんだ?」

「、、、。狙撃と誘拐、そのどちらかを狙うにしても学校か、その周辺だろう」

「まあそれはそうだろうな。それは俺がなんとかしよう」

シャンゼルはパソコンの電源を落としてそう言った。

「俺を出し抜けると思ってる連中には、お仕置きしておかないとねぇ」

言いながら、不敵な笑みを浮かべる。

と、コンコンと扉をたたく音がして、ギイがその扉を開けた。

「どうした? 千秋」

そこにいたのは、千秋だ。

「宿題で分からない所があるの」

千秋は数学のプリントを手に、困った顔をしている。

「ギイ、シャンゼルと話中?」

「いや、もう済んだよ。で、どれが分からないんだ?」

「えっと、これとこれと、ここと、、、」

きけば、殆ど全部だ。

「俺の部屋においで。ゆっくりやろう」

「ギイが教えてくれるの?」

「そうだけど、シャンゼルの方が良かったか?」

「いや、だって、、、」

ギイには、シャンゼルから出されたお勉強の山がある。それをこなすのが大変そうで、これ以上ギイの手を煩わせていいのか、と、千秋は思うのだ。

「俺はかまわないよ。この宿題、俺もやらないといけないし。やりながら教えるから、遠慮するな」

ギイはシャンゼルの部屋から出ていく。

「、、、何かあった?」

千秋はギイの顔を見上げた。

ギイは何か考えている様子。

「いや、何もないよ。ただ、千秋にやってもらうお勉強について、シャンゼルと話してただけだ」

これは嘘だが、千秋に本当の事を話す気がギイにはなかったからだった。

「私、何をするの?」

「そうだな。とりあえずはダンスでも覚えたらどうだ?」

「ダンス??」

「いずれ来る御披露目パーティーにしろ、何にしろ、ダンスをする機会が沢山あるから、それは覚えた方が良い。千秋、身体動かすのは別に不得意じゃないだろ」

「うん」

なんだ、ダンスか。私は安堵した。

普通に勉強させられるのかと思った。

「まあ、普通の勉強もしてもらうけどな」

「え!」

「でも、この屋敷には千秋が出来そうな勉強の教材がないから、用意しないと」

明日にでも本屋に行こう、とギイは言った。

うう、勉強なんてやりたくない。

私が嫌な顔をしていると、

「大丈夫だ。千秋はやれば出来る。人一倍集中力もあるし、やりだしたらスムーズにはかどると思う」

何を根拠に言っているのか分からないが、ギイはそう言った。

「まあ、俺にまかせておけ。勉強、嫌いではなくなると思うぞ」

「はあ、、、」

やる流れになっている。

仕方がない。私は将来ギイの奥さんになるのだから、やらないといけないのだろう。ギイは子供の頃から、王様になるから頑張ってきたのだ。それも、私を守る為に。そんなギイの奥さんになる私が、何も出来ないでは通らないのだろう。

私はそう思った。

だが、勉強してもらう理由は別でちゃんとあるのだが、ギイはそれは言わなかった。

千秋がやる気になってくれたら、それでいい話だからである。



翌日。

この日は昨日と違って晴天だった。

千秋はギイと学校に来ていた。

学園の周りには、病院や企業の建物が建っている。その建物郡のビルの一角から、銃を持って学園の、千秋がいる教室を狙っている軍服姿の男2人がいた。

「楽な仕事だな」

「ここは無人のオフィスだ。ここからなら、支障なく狙撃出来る」

「そうだな。でも、何でまたこんな少女の暗殺依頼が来たんだ?」

「さてね。上の考えている事は俺らには分からん」

ただ、指示された通りにやるだけだ。

そんな会話をしていると、

「う!」

突然一人の男が悲鳴を上げた。

後ろから首を捕まれ、首が回転してネジ曲がる。そしてそのまま床に倒れた。

「人間の首は柔らかいねぇ」

「なんだ?! お前は!」

そこにいたのはシャンゼルだ。

「おたくも死にたくなかったらさ、正直に話して欲しいんだけど」

「?!」

男は銃を放った。

が、シャンゼルに当たった筈が、何故か倒れない。

それは何度やっても同じだった。

シャンゼルは別に何の抵抗もしていない。

ただ、撃たれた銃の弾が身体をすり抜けているだけだ。

「うーん、分かってないな」

シャンゼルはパチンと指を鳴らした。

「ぎゃああ!」

腕が折れて、男は悲鳴を上げた。

「次は、足かな」

また、パチンとシャンゼルが指を鳴らす。

すると、今度は片足が折れて、また男は悲鳴を上げた。

「こっちの質問に答えないと、本当に死ぬよ?」

にっこり笑ってシャンゼルは、うずくまる男の前に立った。

「さて、答えてもらおうかな。誰の依頼で外園千秋を狙っているか」

男は、得体の知れない技を使うシャンゼルに青ざめた。



シャンゼルは、敵とみなせば容赦しない性格だった。甘く許せば自分が殺される、そういう世界で育ったからだ。だから敵と対峙した時、許すという選択肢など1ミリもない。

学校のある一角では、学校帰りの千秋を狙って、別の男が待機していた。

シャンゼルは、その男の後ろから現れ、首を締めて殺した。

また、別の場所では、車にのった男2人組がいて、何か話をしている。会話の内容は、千秋を誘拐するその段取りのようで、シャンゼルはビルの上からその様子を見ていた。

「今の所、これで全部だな」

指を鳴らす。

すると、その車は爆発して炎に飲み込まれた。

「まあ、とりあえずはこんなもんか」

やはり、というべきか、千秋を狙っているのはアメリカだった。それも、大統領指示である。

裏で手を引いてるのは、リュクレオンに間違いない。

リュクレオンを始末しなければ、次から次へと暗殺者が現れるだろう。

「リュクレオンを探さないとな」

シャンゼルはそう思った。

そのリュクレオンは、遠くから、暗殺部隊が殺されたのを双眼鏡で見ていた。

「全滅か」

普通の人間が、シャンゼルに敵う筈はない。

それ所か、いたずらに動いて、情報が流れてしまった。こうなったら、シャンゼルも消すしかないが、そんな方法があったらとっくにやってるというもの。

「兎に角次の手をうつか」

シャンゼルやクライドがどうにもならない相手でも、本命は人間の少女一人だ。

「必ず殺してやる」

リュクレオンは改めてそう決意した。



この日は、体育の授業があった。

「俺は欠席する」

ギイは、体育は出ないと言う。

「なんで?」

体操着を机に出しながら、千秋はギイにきいた。

「お前な、男の俺が女に紛れて服着替えるとか出来るか?」

言われてみればそうだ。体操着に着替える時、女子は教室を使う。男子は廊下だ。ギイは今女の子だから、男子に紛れて服を着替えるのも不自然。だから、自動的に体育は全て欠席なのだそう。

「魔法でなんとかできないの?」

「それは出来るけど、そこまでして体育に出たいと思わない。参加したってつまらないしな」

「つまらない?」

「皆に合わせてたら、ずっと手加減して参加するはめになるから」

普通にやれば、オリンピック選手よりなんでも出来てしまう。体育では、誰も競争相手にならない。それはやっても楽しくないのだ。

「ギイって運動も得意なんだね」

「得意というか、根本的に身体能力が人間とは違う」

話をしている間に、女子が教室を締め切って、体操着に着替え始めた。

「後でな、千秋」

ギイはそう言って教室を出て行った。

千秋はちょっと残念に思った。

運動しているギイが見たかったのである。

(きっと、格好良いんだろうな)

なんでも出来るギイは、格好良い。

何もしなくても格好良いのだから、運動してる様はもっと格好良いだろう。おまけにそれが男姿のギイだったら、女子は皆、キャーキャー言うに違いない。

それを考えたら、ギイが女の子で良かった、と思う。ギイと親しくしてても、周りから嫉妬される事がないからだ。羨ましそうには見られるが、邪魔されたりしない。

「外園さんとクライドさんて仲がいいよね」

位でしか見られていないのである。

「今日の体育、バトミントンだってさ。千秋、私とペアやろうよ」

着替え終わった恵が、そう言って声をかけてきた。

「うん、いいよ」

千秋はそう返事した。



クラスの皆が体育の授業をしている間、ギイは一人、教室に戻って来ていた。

千秋の机を見やる。

しゃがんで、その机の裏を確認した。

すると、妙なものが張り付けられていた。

「盗聴機か、、、。ご苦労なこった」

夜の間に学校に忍びこんで設置したのだろう。ザルのようなセキュリティの学園である。他に怪しいものがないか確認して回ったが、今の所は大丈夫そう。

ギイは盗聴機を外して、指でそれを潰し、ゴミ箱に捨てた。

「シャンゼル」

ギイが呼ぶと、

「ここにいるよ」

どこからともなくシャンゼルが現れた。

「で、どうだった?」

ギイにきかれてシャンゼルは、やはり裏でリュクレオンが手を引いてる事を伝えた。

「アメリカ大使館に行ったけど、爆薬やら銃やらが山積みになってた」

それから隊長クラスが約10名、その下についてる傭兵が複数となると、ざっと百人は下らない数の対テロリスト要員が集まっている事を報告した。

「大使館内は治外法権とはいえ、よくもまああれだけの武器弾薬が持ち込めたもんだって位、何かいっぱい用意されてたぞ。日本の警察は舐められてる」

「実際舐められてるんだろ。手出しできないんだから」

しかし、そんな装備を整えた所で、こちら側に害があるかと言えば、それは全く通用しないのだが。

「まあ、念には念を入れてるつもりなんだろう」

向こうのターゲットは千秋だ。

「どうするんだ?」

シャンゼルにきかれて、ギイは考えた。

「良い案が一つだけある」

「ああ、俺もだ」

ギイとシャンゼルは意見交換をした。

話してみると、全く同じ考えだから驚く。

「クライドも賢くなったな」

シャンゼルはニコニコしながら褒めた。

「で、いつにするんだ?」

作戦は単純だ。敵は大部隊、誘き寄せて一気に叩くというものだった。

「舞台は広くて大きい方がいい。適切な場所をみつけないとな」

ギイは思案した。

「ああ、それなら俺、いい場所知ってるぞ」

シャンゼルは言った。

「ツインタワービルだ」


















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