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第3話 蠢動

シャンゼルは、現国王の盾であり、右腕であり、それ以前は王妃の側近で、ギイの教育係だった。

以前、大きな戦争があった時、その戦争を終戦させた立役者でもある。

国の至宝を取り込み、国一番の魔力を持つシャンゼルに逆らう者は誰もいない。

ギイですら、シャンゼルには頭が上がらない。

「そんな凄い人が、なんでうちの学校に?」

シャンゼルは学園の制服を着ていた。

「俺がいるからだろ。様子を見に来てるだけか、それとも、、、」

そのさきを考えて、ギイは嫌な気分になった。それでなくとも、千秋を狙ってる。

「第3の選択肢ってなに? ギイ」

千秋にきかれて、ギイは黙った。

千秋の頬にふれて、確認する。

千秋が目の前にいて、見てるのはギイで、千秋が想っているのも、ギイだと言う事。

「千秋を救う選択肢が増えた」

ギイは言った。

「千秋が死ぬ事なく、俺は男に戻れる」

「え?!」

「ただし、千秋がシャンゼルのものになったら、の話だろう。千秋と契約するつもりだあいつ」

でも、それには何か代償がいる。

代償、、、。千秋から捕れる代償。

まさか、、、。ギイは益々気分が悪くなった。

言わずもがな、シャンゼルと千秋の取り合いになった場合、勝てる自信がギイにはない。シャンゼルだけは敵に回したくない。国のやつなら誰もがそう思っている。

「ギイ?」

「、、、」

不安そうなギイは、初めて見る。

そんなギイに、何て声をかけたらいいのか。

「おはよう千秋」

教室に入ると、学が千秋の所にやって来た。

「ごめんな! 昨日のカラオケの事、実は合コンだって黙ってて、、、」

そういえば私は、何も知らされずに参加させられていた。

「学、私、ああいうの嫌なんだけど」

千秋にしてみれば迷惑な話だ。

学も恵も、合コンとか千秋が嫌いなの分かってる筈なのだ。千秋は、恋人探しをするのではなく、自然に自分が好きになった人と、自然にお付き合いしたいのである。

「いや、だから、ほんとごめん! 恵がどうしてもって言うから、、、」

「ちょっと!私の名前そこで出さないでよ!」

慌てて恵も千秋の所にやってきた。

「私はさ、千秋に新しい出会いを提供したかったっていうか、、、」

ギイが気に入らないから、とは本人を前にしては言えない。

「私、そんなの頼んでないでしょ」

「それはそうだけど。だって、千秋がクライドさんと結婚なんかする事になったら心配だし」

千秋に叱られて、恵がしどろもどろに言う。

「千秋には家族がいないでしょ。クライドさんと結婚したって、クライドさんがもし先に死んじゃったら千秋、また一人になるし」

「? 俺は長生きだぞ。何千て寿命があるんだから」

ギイは真面目な顔で言う。

「子供だって、何人でももうけてやるぞ。千秋が考える以上にな」

銀色の長い髪をはらって、望むところだと言わんばかり。これには千秋は赤面した。

「女の子同士でどうやって子供作るのよ!」

恵が言うが、ギイはそれには黙っている。

本当は男だって、言えたらいいんだけど。

でもギイは、今は女の子で、超が付く程の美少女で、説明しようがない。

「ねぇギイ」

千秋はギイに言った。

「2人には、本当の事話しちゃダメ?」

ギイは、少し考えて、

「千秋がそうしたいなら、まあ、構わないが」

それで、うるさい恵と学が黙って温かく見守るようになるなら。

「うん。でも、皆には内緒だから、話すとしたら、お昼か放課後かな」

話が長くなりそうだし、と千秋は言った。

「なによ、本当の事って」

恵が怪訝そうな顔で問い詰めてくる。

「何か隠してるの?千秋」

「いや、隠してる訳じゃないよ。単に話せなかったというか、説明しずらいというか、、、」

「???」

「放課後話すよ」

千秋は恵と学にそう言った。

「いい?ギイ」

「ああ、俺から話そう」



放課後になり、誰も教室にいなくなったのを見計らって、ギイは恵と学に本当の事を全て話した。

ギイが人間ではない事、千秋を生き長らえさせる為に契約した事、それで女になってしまった事。主にそんな話だ。

「なによそれ」

嘘みたいな話に、恵が疑っている。

「まあ、論より証拠だな」

ギイはパチンと指を鳴らす。

すると、ギイは男の姿で現れた。

「?!」

恵と学がギイを凝視した。

「これで分かっただろ。俺は本当は男だ」

ギイは腕組みした。

「分かったら、俺と千秋の間に入って邪魔しようとするのはやめろ」

「え?え?クライドさん、なの、、、?」

女の子のギイが消えて、男のギイが現れた事に2人は目を白黒させている。

ギイは、またパチンと指を鳴らした。

すると、女の子に戻った。

恵は興奮気味に千秋に言う。

「なにちょっと千秋、めちゃクライドさんって格好良いじゃないの」

格好良い。

確かにギイは格好良い。

千秋は赤面した。

「なんだ、男なんだったら最初から言ってくれればよかったのに」

恵はそういうが、本当の所を話さずに女でなくて男だと言って、信じてくれたかは怪しい。

「なんか、ごめんな千秋。俺ら、二人の事情とか何もしらなかったから、、、」

学は、合コンの事を言ってるのだろう。

「いいよ、もう。怒ってないし」

「本当か?」

「二度目はないがな」

ギイが2人を睨み付ける。

綺麗な顔のギイに睨まれると怖い。

恵も学も畏縮した。

「ええと、それでいつ結婚すんの?」

学の問いに、

「きかれてるぞ、千秋」

ギイが話を千秋にふった。

「いや、いつって言われても、、、」

学生の内は結婚したくない。

ギイの事をもっと知ってからがいい。

「お前まさか、びびってるんじゃないだろうな」

「え!」

ギイに問われて焦った。

びびってないと言えば、それは嘘になるからだ。

「結婚したからってすぐに子供を作る訳じゃないんだがな」

言われて千秋は真っ赤になった。

「子供なんて生めないよ!」

私はまだ、16才になったばかりである。

冗談ではない、そんな話。

「分かってるよ。だから、ちゃんと千秋のペースに合わせてるじゃないか」

ギイは言う。

「でもな、男が目と鼻の先に恋人がいて、一切手も出せずにいるかって言われたら、それは無理があるぞ千秋」

そして、頬にキスする。

「この位は許せ」

「う、、、」

嫌ではない。

嫌ではないが、恥ずかしい。

人前ではそこまでスキンシップしなかったのに。

学と恵に話してしまったからだろうか。

それならちょっと早まってしまったかもしれない。若干千秋は後悔した。

「話は済んだし、帰るぞ千秋」

ギイは千秋の腰に腕を回した。

と、瞬間移動でギイの館へと移動した。

残された学と恵は、ギイと千秋が急にいなくなったのに絶叫した。

「消えたーーー?!」



ギイの館に着くと、玄関の前にシャンゼルがいた。

「お帰り、二人とも」

何しにきたんだ、とギイの顔は嫌そう。

「今日から俺もここに住む事になったから」

「?!」

「父君から、クライドの事宜しくって言われてるからさ。まあ、仕方がないよね、王命だし」

ギイは無言のままだ。

でも、怒っているのが分かる。

「宜しくね、千秋ちゃん」

シャンゼルはニカッと笑った。



千秋は部屋に戻ってから、私服に着替えた。

二階から一階へ続く階段を降りていると、沢山の本を担いでいるシャンゼルと出くわした。

「シャンゼルさん」

「あ、千秋ちゃん。着替えたんだ? ワンピースが似合うね」

私服を褒められて、ちょっと照れた。

「何してるんですか?」

「ああ、この本?」

これ、クライドの勉強道具だよ、と言って歩く。向かった先は一階の書斎室だ。

ついていくと、机に頬杖をついて、不機嫌なギイがいた。

「ハイ、これもやってね」

シャンゼルは、運んできた本の山を机の上、ギイの前に置いた。でも、机の上は既に他の本や紙が山々と積み上げられている。

「勉強道具って、、、」

まさかこれ、全部勉強するの?!

「俺がいない間、さぼってたの知ってるぞクライド。まあ、その分頑張って」

ニカッと笑ってシャンゼルはそう言った。

「~~~っ」

ギイは物凄く嫌そうだ。

千秋はギイの側に寄った。

「私、ギイとお出かけしたかったけど、無理そうだね」

「おでかけ?」

千秋は時間が余っていた。

「明日は学校お休みだけど、明日は遊べる?」

「明日は、、、」

考えるが、机の上のこの量である。

明日までに終わるかどうかって、どう考えても無理だ。

千秋はもじもじしながらギイの返事を待った。

「とにかく、なんとかする」

ギイは、折角の千秋からの誘いを断れなかった。

「私、そこで本でも読んでる」

「ああ、分かった」

千秋は床に座って本を広げた。

子供の頃にギイに読んでもらった本だ。

(懐かしいな、、、)

ギイの方は、ペンを片手に何やらシャンゼルと話をしている。

「これが停戦条約? 分が悪いんじゃないのか?」

「まあおかげで移民が増えて、この辺りはスラム状態だよ」

「親父は何やってんだよ。そっちの本をとってくれシャンゼル」

何の話をしているのか、千秋にはさっぱり分からない。だが、真剣な顔をして勉強しているギイを見るのは初めてで、新鮮だ。

(なんか、凄いな)

ギイが格好良い。

見てて飽きない。

視線に気づいてギイが千秋の方を見る。

目が合って、千秋は少し照れたような顔。

ギイは、そんな千秋を見て微笑んだ。



「ギイ、終わった?」

もう夜中12時を回っている。

千秋は暖かい紅茶を入れて、ギイのいる書斎室に入った。ギイは、夕食も抜いて机にかじりついていたのである。

見ると、ギイは疲れた様子で椅子に座ってうなだれていた。

「今、終わった」

取り敢えず明日までのノルマはこなした。

そう言いながら、千秋の方を見やる。

千秋の髪が濡れてる事に気づいて、ギイは千秋の肩にかかっているタオルを取ると、千秋の髪をふきふき。

「自分で出来るよ」

千秋は少し慌てた。

「いいからこの位はさせろ」

今日は、帰って来てからずっと千秋を放ったらかしにしてしまったから。

ギイは、すまなかったな、と謝る。

子供扱いではなく、恋人扱いで髪を拭いてるギイに、恥ずかしくなって千秋は顔を赤らめた。

「今日はでも、ちっとも退屈しなかったよ」

千秋は言った。

「真剣な顔して勉強してるギイが何か新鮮だったし、それに、、、」

「?」

「か、、、」

格好良かった、と言おうとして言葉が出ない。でも、ギイはそう思ってる千秋の思考を読んでいる筈で、千秋の顔は益々紅潮する。

「ギイがいれるやつより美味しいかどうかは分かんないけどさ」

千秋はソファーの前のテーブルに、紅茶の入ったカップを並べた。

「いや、旨いよ」

ソファーに座って紅茶を飲みながら、ギイは言った。

「でも、俺にはちょっと甘いかな」

千秋もギイの隣に座る。

「砂糖2杯入れたんだけど」

「俺は1杯だ」

成る程、今度は失敗しないように覚えておこう。ギイは、お砂糖が1杯、、、。頭の中で復唱する千秋に、ギイが笑う。

「千秋はさ、何か望みとかないの?」

「望み??」

「願い事とか」

ギイに言われて考えるが、願い事って言われても何も思い浮かばない。

「えと、、、明日晴れたらいいな、とか?」

「そんなの願い事の内に入らないだろ」

「じゃあ、ギイにとって、良い奥さんになれるように、とか?」

「それも何か違うだろ。(嬉しいけど)」

「ぇえ?」

そんな事言われても、それなら願い事そのものがどういうもの何だか千秋には分からない。

うーん、と考えて、千秋は手にしていたティーカップをソーサーの上に置いた。

「あ、でも、ずっとこんな感じだったら良いなって思う」

千秋は閃いたように言った。

「ギイが隣にいて、ずっと一緒にいて、それで楽しかったら良いかな」

言いながら、無邪気に笑う。

ギイは、千秋が自分で何を言っているのか、分かっていないと思った。

「ずっと一緒、か、、、」

遠回しにプロポーズでもされてる気分になるが、千秋がそう言う意味で言ってるかと言えば、違う。

でもギイは嬉しかった。

千秋は、子供の頃から変わってない。

無欲で無垢で、正直。

そういう千秋が、やはり好きだ。そう思った。

「俺さ、千秋にキスしたくなった」

「は?」

キス? キスなんて、ギイはしょっちゅうしてくるじゃないの。

千秋は、頭や手に当たり前のようにキスをするギイの、その過度なスキンシップに慣れない。

「おれがキスしたいのは、ここだよ」

苦笑して、ギイは千秋の口唇に触れる。

「!!」

「まあ、したいけど、やったら千秋が泣くからやらんがな」

千秋は脳内が爆発しそうになった。

「それは、、、」

ちょっと待って欲しい。ギイが恋人になったのはつい最近の話で、自分がギイを好きだと認識したのだって昨日くらいの話である。

(ギイって、手が早い!)

ついていけない。

千秋は警戒した。

「だから、やらないって言ってるじゃないか」

「そういう問題じゃないよ!」

やらずに思っただけなら、思うだけで口に出して言わないでほしい、そんな事。

「こっちは何かと我慢してるんだから、大目に見ろよ」

「はあ?!我慢てなに!」

「、、、。いや、だから、、、」

千秋は恋愛経験値がゼロである。

説明してもいいが、そんな事をしたらもっと警戒されるだろう。

「ちょっと待て。ケンカしたい訳じゃないんだから、少し落ち着こう、な、千秋」

うっかり本音を漏らせばこうか。

ギイは反省した。

「ギイ、もう私に触るの禁止!」

「え?」

千秋は興奮したように言った。

「私はギイを満足させる道具じゃないんだから!ギイは楽しいかも知れないけど、私、死にそうな位毎回恥ずかしいんだからね!」

ソファーから立ち上がったと思ったら、千秋は部屋から出て行く。

バン!ともの凄い音を立てて扉はしまった。

完全に怒らせた。ギイは、少なからず後悔した。

「子供の頃の方が、まだマシだったんだけどな」

溜め息をついた。

大人になるにつれて、千秋に触れたい、抱き締めたい。出会ってからは、泣いてもいいから、キスがしたいと思うようになった。

子供の頃は、千秋が手の届かない存在だったから、髪1本触れる事すら躊躇った。

ただいつも、千秋を失わないように、、、。

毎日そんな事を考えながら、千秋と遊んでいた。

でも今は千秋は婚約者で、恋人で、手を伸ばせば届く所にいる。だから、ブレーキを踏むのがいつも大変。

「触るの禁止って、俺を殺す気か」

ギイはソファーに寝そべった。

朝になったら、千秋の機嫌が直ってないか。直ってなかったら、どうやってそれを回復させようか。

考えて、目を閉じた。



朝になり、千秋を起こしに千秋の部屋に訪れようと思ったギイは、それをやめて、少し様子を見る事にした。

シャンゼルが、千秋の部屋にきていたからだ。

「何か、機嫌悪そうだね千秋ちゃん」

千秋はずっとムッとした顔をしている。

「クライドとケンカでもした?」

「ケンカはしてないけど、何か、腹が立って、、、」

「まあまあ、朝ご飯でも食べて元気だしなよー。俺さ、張り切って作ったんだ朝食。千秋ちゃんの口にあえばいいんだけどさー」

そう言ってシャンゼルは千秋の背中に手をやり、ぐいぐいと部屋から廊下に千秋を連れ出す。

「シャンゼルさんが、朝食作ったの?」

「シャンゼルでいいよ。千秋ちゃんの方が、何れは階級が俺より上になるんだし。まあ、千秋ちゃんがギイと結婚したらの話だけど」

「、、、、、。」

「あれ?」

益々機嫌が悪くなる千秋を見て、シャンゼルはすぐに話題を変えた。

「和食は好き?」

「あ、はい」

「良かった。俺、和食しか作れないからさ」

シャンゼルはぺらぺらしゃべる。

「俺って王妃様つきの、王妃の世話役やってた事があるんだけどさ、王妃が日本人で和食派だったから、毎日その王妃様の為にご飯作ってたんだ」

ギイの母親が日本人という話は、聞いている。

「今は、その王妃様の為に作ってないんですか?」

「作ってあげたくても、無理だもん」

シャンゼルは言う。

「王妃様は死んで、もういないし」

「え?」

「昔大規模な戦争があって、ちょっとね。ギイにはこの話はタブーだから、千秋ちゃんはギイに聞かない方が良いかな」

喋ってる間に、ダイニングルームについた。

テーブルの上には、焼鮭、冷奴、煮物が3品、だし巻き卵、そしてみそ汁とご飯が用意されている。

「本格的ですね」

シャンゼルの腕前に千秋は驚いた。

シャンゼルが、椅子をひいて千秋を誘導する。

「座って」

「あ、はい」

千秋は席について、お箸を手にとる。

「シャンゼルさんは、食べないんですか?」

「シャンゼルだよ、千秋ちゃん」

シャンゼルが注意する。

「あ、はい」

何故か逆らえない。

ギイの教育係をしているからだろうか。

「俺、朝は食べないから。悪いけど、食事は千秋ちゃん一人で」

でも、側にはいるから、とシャンゼルは言う。

ギイと同じ事を言うなぁと、千秋は思った。

「じゃあ、いただきます」

「どーぞ」

みそ汁を飲んで、

「美味しい!」

千秋はおかずにも手をつけた。

「そんなに美味しそうに食べてもらえたら、また張り切って作ってしまいそうだ」

シャンゼルは食事をしている千秋を見てそう言った。そして、空いてる椅子に座る。

千秋は、美味しい朝食に機嫌が直っていた。

「所でさ、千秋ちゃんて願い事とかないの?」

シャンゼルは、昨日?ギイが聞いてきた事と全く同じ質問をしてきた。

「特にはないですけど、、、」

「あれ?クライドがいるのに、特に何もないってさ、それは損だよ千秋ちゃん」

「損?」

「俺たちは契約で他人の願いを叶える事が出来るけど、クライドは大抵の事は契約でなくて、魔法で叶える力を持ってるのに」

「、、え?」

「クライドは特別なんだ。だから、次の王に選ばれた。まあ、本人は嫌々みたいだけどね、王様になるのは」

嫌々、、、。

それは初耳だ。

「知らなかったの?何も」

「はい」

てっきり、王位を継ぐのを張り切ってると思っていた。だって、その為に勉強を頑張って来たみたいだし。

「それは違うよ。千秋ちゃんを守る為だよ」

「私?」

シャンゼルは言う。

「クライドは王位なんて継ぎたくないけど、千秋ちゃんの身の安全の保証をカードに出されて、仕方なく後継ぎになったんだ」

当時、本国に日本から戻ったギイは、自分が女になってしまった事を王に言って騒ぎになりそうになった。

ギイは千秋と結婚すると言ってきかず、そこで王がギイと取り引きした。

子供のギイに、誰かを守る力はあまりなかった。

だから、次の王になるなら千秋を内密に守ってやる。その代わり、必ず王位を継げ。

それが、取り引きの内容だった。

「実際に今まで千秋ちゃんを守ってきたのは、俺だよ千秋ちゃん。王の命令でね」

シャンゼルはにぱっと笑っていう。

「ギイが勉強を頑張ったのは、周りになめられたくないからだよ。人間と結婚するってさ、かなり周囲から反対されるからね。口を挟む隙を作ったらつけこまれたり、そこをつつかれたり、それ以外にも色々大変だから」

なんだか知った風に話すんだな、と千秋は思った。

「そういえば、ギイのお母さんて、確か、、、」

日本人だと聞いている。

「そうだよ。ギイは魔族と人間の間に生まれた子供だ。俺もそうだよ」

「!」

「クライドの母君である王妃は、常に周りから狙われてたよ。人間が王妃であるが為に戦争も起こった。クライドはその事に関して、学習してるから、まあ、なおの事王として完璧であろうとして努力してる」

「、、、」

まさかとは思うが、ギイのお母さんが死んだのは、、、。

千秋は嫌な想像をした。

「人間が魔族と結婚するのは、そんなに駄目な事なんですか?」

戦争が起こる位である。

千秋はごくり、と唾を飲んでシャンゼルを見た。

「それ自体は別に問題じゃないよ。ただ、クライドが次の王で、そうでなくとも特別な存在だからさ」

「人間が、餌だから?」

「そうだね。おまけに、クライドと結婚したい、婚姻関係を結びたい、そう思ってる側からしたら千秋ちゃんは邪魔な存在だ」

「、、、」

「千秋ちゃんは、クライドが何に見えるの?」

何に?

そうきかれても、ギイはギイである。

「クライドはね、この世界でいう神なんだよ、千秋ちゃん」

シャンゼルはキッパリ言った。

千秋は絶句した。

「神、、、って、、、」

「神は神でも、神々を統べる神。何れは最高神になる存在だ。そこん所、分かっておかないと」

そんな事言われても、ぴんとこない。

ギイが神様? 神様って、神様だよね。

千秋は硬直した。

「まあ、そんなクライドと結婚するんだからさ、千秋ちゃんも俺、教育しないといけないんだよね」

「え?!」

「王に言われてるからさー」

千秋は、昨日ギイの机に積まれた勉強道具の山を思い出して、顔面蒼白になった。

勉強は困る!

学校の勉強すら、ろくにした事がないのである。それがもし、あんな山積みに勉強しろだなんて言われたら憤死してしまう。

「いや、千秋ちゃんには出来る所からやってもらうから」

シャンゼルのその言葉に、少しほっとした。

「でもさ、千秋ちゃんが俺の恋人になるなら、そんな苦労もないんだけどなー」

「へ、、、?」

「俺の恋人になるって契約してくれたら、クライドは男に戻れるし、千秋ちゃんが誰かに狙われる事もなくなる。一石二鳥なんだけど」

「、、、」

「俺、前も言ったけど、一途だし、浮気とかしないし、つくすよ?」

でもシャンゼルには、ずっと好きな片想いの人がいる。

「言ったじゃん、それは手の届かない人だって。俺ももう、いい加減別の人好きになりたいしさ」

シャンゼルは苦笑した。

「ま、じっくり考えてよ」

そう言って、シャンゼルは軽くウィンクした。



朝食の後、千秋は中庭を散歩していた。

色とりどりの花が花壇に咲いている。

中庭の中央には噴水。その噴水の周りは、少し座れるようになっていて、千秋はそこに腰を下ろした。

「はあ」

シャンゼルの話をきいて、ギイに対する怒りは何処かに行ってしまった。

ギイは、子供の頃から私の為に努力してきたのである。今だって、私の事をきっと考えて守ろうとしてるに違いない。

そう思うと、ギイに怒った事を悪く考えてしまう。

おまけにギイは神様って話だ。

ぴんと来ないが、散々つくしてくれてるその神様に、何かされた訳でもないのに怒ってしまった自分が小さく感じて。

「ギイに謝ろうかな」

でも、そんな事をしたら、ギイが何をしでかすか分からない。

ウーン、、、。

考えていると、

「千秋」

ギイが中庭に現れた。

「なにしてるんだ?」

いつも通りに話かけられて、

「なにって、、、ただ、考え事、、」

考え事をしてた、と言おうとして、考えてる事はギイに全部筒抜けになっている事を思い出して、どう言っていいのか分からなくなった。

「まだ、怒ってるか?」

「それは、、、」

怒ってはいない。

ギイは千秋の隣に座って、千秋の手に触れた。確かに千秋は怒ってはいない。でも、不用意に触ったら、また怒りだしかねない。

ギイは千秋の手を離して、黙っていた。

「ねぇ、ギイ」

「うん?」

「ギイはさ、私の何がそんなに気に入ったの?」

これはずっと疑問に思っている事だ。

ギイに好かれて嬉しいけど、私はこれといって取り柄がないし、美人でもない。どちらかと言えば不器用だし、気立ての良い方でもないし、性格だって普通だ。

「それなら千秋、お前こそ俺のどこを好きになったんだ?」

ギイに聞かれて、千秋は考えた。

「何処って、、、、」

それは分からない。

「好きになるのに、理由なんてないと俺は思うんだが」

ギイは足を組んでそう言った。

そういうものなのだろうか。

でも、確かにギイを好きになった理由は見当たらない。よく分からない。

だけど、ギイが私の恋人なんて勿体無いと思うのだ。ギイにはもっと、相応しい人がいるだろう。それでなくともギイは神様なのだ。私がギイの恋人でも、ギイの役に立つかといえば、何にもならない。私がギイに出来る事なんて何もない。好きってだけで、恋人になってもいいのか。私は身分不相応だと思うのである。

また、余計な事を考えてるな、とギイは千秋を見て思った。

「千秋は、側にいてくれたら俺はそれでいいんだよ」

「、、、、」

「千秋以外を選べったって、俺困るぞ」

困らせたい訳ではない。

でも、、、。

私は、自分が思っている事がギイには分からないのではないかと思った。

私は、ギイが他の誰かを恋人に選んだら、自分は身を引けると思う。そもそも私がギイの恋人なんて相応しくないからだ。

「お前な、、、」

千秋の考えている事を読むでもなく読んでしまい、ギイは呆れた。

「なら、俺と別れるか?」

「え?」

「俺と結婚したくない、恋人になれないなら、別れるしかないだろ」

千秋は驚いてギイを見た。

ギイが、そう言うとは思わなかったからだ。

「それは嫌なんだろ、千秋」

「う、、、」

「どうしたいんだお前は」

「、、、。私、おまけだったら納得なんだけど」

「おまけ?」

所謂、2号というやつだ。結婚してもいいが、自分が一番ではなく、二番か三番位の奥さんだったらなっても良い。つまり、王妃ではなく、何番目かの奥さんだったら、まだ納得出来る。千秋はそう思ってるのだ。

「冗談だろ。俺は側室なんて設けるつもりないぞ」

「だって、、、」

「だってじゃない。お前、昨日の夜言ってた事と違う事言ってるぞ」

ずっと一緒にいたいって言ってたくせに、それが、側室としてだなんてギイは嫌だ。

欲しいのは、千秋だけである。

「私に王妃が務まるとは思えないもの」

千秋は言った。

「ギイの役になんて立てないし、守られっぱなしの足手まといになんてなりたくし、だから私、結婚しても良いけど、二番手か三番手くらいの奥さんでいい」

「何言ってるんだお前は」

信じられない。ギイは言った。

「じゃあお前、逆に俺に同じ事を言われてみろ。俺がお前にとって、二番手か三番手の夫にしてくれって言って、千秋はそうするのか?」

「いや、それは、、、」

それは絶対ない。そんな失礼な事、ギイにしない。そもそも、その場合ギイ以外と結婚なんてしないだろう。

「自分がやらない事を俺に勧めるなよ」

ギイはますます千秋に呆れた。

「シャンゼルに吹き込まれて、怖じ気づいたのか?」

「、、、。だって、私と結婚したらさ、戦争が起きるかもしれないんだよギイ」

「そうならないように努力してる」

「ギイは、神様なんでしょう?」

私はただの人間だ。

「好きでそんな存在として生まれた訳じゃないぞ俺」

「、、、。」

何がそんなに納得できないのか、千秋は黙っている。

「今日、一緒に遊ぶんじゃなかったのか?」

ギイは話を変えた。

そんな話をしても、千秋の中では堂々巡りになっているからである。

「何がしたい? 千秋」

「なにって、、、」

特に考えてない。

私はただ、ギイと一緒にすごせたら、と思ってただけだ。でもそれは昨日の話で、今は一緒に遊ぶとか、そんな気分じゃない。

「仕方ないな」

ギイはそういうと、立ち上がってヴァイオリンを出した。

昔も、千秋が元気がない時はヴァイオリンを弾いてやった。するとたちまち千秋は機嫌良くなったものだ。

千秋は、じっと演奏するギイを見た。

ギイは、二つ目の演奏に切り替える。一曲目と違って今度はリズミカルで楽しそうな曲だ。そして三曲目は、

(あれ、、、?)

テレビの番組に使われている曲だった。

千秋はぽかんとした。そして、嬉しかった。

それは、毎週かかさず見ていた、千秋の好きな番組の曲だからだ。

「凄い!」

演奏が終わって千秋は拍手した。

ご機嫌な千秋に、ギイは安堵した。

「お気に召しましたか?お姫様」

「うん! ギイって何でも弾けるんだねぇ」

「ピアノも昔より上手くなったぞ俺」

「聴きたい!」

千秋はキラキラ目を輝かせた。

ギイって凄い。格好良い!

すっかり千秋は悩んでいた事を忘れた。

良くも悪くも千秋は単純なのである。

ギイは、そんな千秋に笑った。

「じゃあ中に入ろう。今度はピアノを弾いてやる」

「本当?」

「千秋も弾いてみるか?」

「え! 私、楽器なんて弾けない」

「俺が教えてやるから」

「エエー?! 無理だよ私には!」

そんなやりとりをしながら、二人は屋敷の中へと戻る。

その様子を2階の窓から見ていたシャンゼルは、

「ウーン。もうひとおし必要だな」

フフ、と笑いながら、パチンと指を鳴らした。

パン!

と弾けるような音がした。

(覗き見してる奴がいるな)

それは今遮断したが、油断すれば、またこちら側の様子を覗かれるか、或いは千秋を直接狙ってくるかするだろう。

「、、、、。」

誰がどんな手を使ってくるか。

思案しながら、シャンゼルは腕組みした。















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