第1話 再会
子供の頃に交わした約束。
「大きくなったら結婚しよう」
必ず迎えに行くから。そう言って彼は、自分の国に帰ってしまった。
あれから10年もの月日が流れ、私、外園千秋はそんな約束を可愛い思い出位に思いながら、半ば忘れかけていた。
そんなある日である。
「ハイハイ、皆静かに。席について」
朝、担任の田中先生が朝礼を始める為に教室に入ってきた。見知らぬ生徒も一緒で、その美しい容姿に、それまでざわついていた教室が静まりかえる。
銀色の瞳に、銀色の長い髪。透き通るような白い肌。学園の紅色ジャケットにそれらがよく映えている。
「転入生を紹介する。クライド・G・スペンサーさんだ」
田中先生がそう言うと、その転入生は
「宜しく」
一言だけそう言って、ある一点をひたすら見ていた。
視線の先がどこかといえば、
(え、、、?)
私だ。
「千秋」
目が合って、その転入生が私の名前を呼び、席にまでやって来た。
「久しぶり千秋。覚えてるか?」
(え?え?)
「ギイだよ、ギイ。ほら、昔一緒に遊んだだろ」
ギイの事は覚えている。
銀髪に銀色の瞳。その昔、結婚の約束をした少年がギイだ。
でもちょっと待って欲しい。
「ギイ、、、??」
「そうだよ。会いたかった千秋」
ギイはそう言って私の手に触れた。
「なんだ、ちゃんと約束覚えてるじゃないか」
嬉しそうな、ちょっと照れた顔でギイは言った。
「俺はさ、千秋。お前を迎えに来たんだ」
私は、意味が分からなかった。
なぜなら、目の前にいるのギイがスカートをはいていたからである。
胸も、私より遥かに大きい。
どこぞのモデルかと思うような長身の美少女。どこからどう見ても女の子なのである。
(どういう事?)
私の勘違い?ギイって男の子じゃなかったの?!ェエ!!?
「千秋」
私の名前を熱っぽく呼びながら、指先に口づけるギイ。
「あの、ちょっと、、、」
「本当に、会いたかった」
せつなげな声。
うっすら涙目になっているギイに、どう反応していいのか分からなかった。
「なんだ、外園。知り合いか?」
田中先生は、
「席は外園の隣だから、丁度良かったかな」
軽く面倒を見てやれとばかりに、ギイの席は私の左隣になっていた。
(えっ?)
偶然?
転入したのも、席が隣なのも何か違和感があった。
「妙な所だけ勘が良いな」
ニヤリと笑ってギイは手を離した。
この、人の心を読んでるとしか思えない口振り。間違いなくあの、ギイだ。
「俺、学校って初めてなんだよな。宜しくな、千秋」
満面の笑顔。
何が宜しくなのか、私の脳は停止したままだった。
少しずつ、ギイの事を私は思い出し始めていた。
その1、ギイに嘘は絶対通用しない。
何考えてるかまで何故かばれる。
その2、ギイは人や物の居場所を特定するのがめっぽう強い。
かくれんぼで勝ったためしがない。すぐに居場所がバレる。失くした物をギイに話すと何故かそれが手元に戻ってくる。
その3、手品が上手い。
どうやってたんだか全く分からないけど、本を宙に浮かせたり、飛んでった風船を引き寄せて手に戻してくれたりした。
以上の事により、私はギイを魔法の国の王子かなんかだと思って、ギイの事を好きになって毎日ギイと遊んでいた。
「魔法の国の王子ねぇ」
親友の長田恵が、私の知るギイの事を話すと、
「もしかして初恋だった?」
何故か目を輝かせている。
「千秋ってさ、そういう話は一切しないから何か新鮮だわ」
「結婚の約束したとかさ、可愛いじゃん」
可愛い、とか言いながら面白がっているのは友人の安生学だ。
この二人は中学からの付き合いで、結構何でも話している。しかし、ギイの事を話したのは今日が初めてだ。
かくいうギイはといえば、休み時間おきにクラスメイトに囲まれて絶賛人気急上昇中。
「クライドさんって美人だよな。他のヤツらとか、天使が舞い降りたとか言って舞い上がってるぜ」
学はクラスの中でも人気者だ。その学が言うのだから、大半の男子がギイの事に浮き足立っているに違いない。
「で、するの?千秋」
「なにが?」
「だからさ、結婚だよ結婚」
私は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「する訳ないじゃん!」
相手は女の子だ。全力で否定した。
「ギイが女の子だって分かってたらそんな約束してないし!」
「なんで男だと思ってた訳? 普通分かるでしょ」
「何でって、、、」
考えるが、記憶の中ではギイは少年である。
「いつもズボンはいてたから、とか?」
「そういや、一人称がオレ、って言ってるな。日本語教えたやつがしくじったんかな」
「ギイ、子供の頃から日本語はペラペラだったよ。何か、漢字も全部読めてたし、他所の国の言葉も話してた」
「マジか。それって英語?」
「分かんない」
ギイの事は、後はよく分からない。
「所でさ、何で呼び名がギイなわけ?」
「それは、俺の日本名がギイチだから。俺の母親は日本人だったからな」
ギイだ。
取り巻きをまいてきたらしいが、その取り巻きはまだギイに関心が向いているのが見てとれる。
「いいの?放っておいて」
恵が気にするが、ギイはその取り巻きに疲れた様子だ。
「俺もギイって呼んでいいかな」
その方が呼びやすいという事だろう。学が言うと、
「それは駄目」
ギイは、
「俺をそう呼んでいたのは母親だけだから駄目だな。まあ、千秋は特別だから構わないが」
そう言って私に微笑む。
(うう、なんて眩しい、、、)
天使。いや、天女か。ギイの微笑みに周囲も見とれている。
「こうして会えるようになるまで10年かかった。長かったな」
ギイは、私の方を向いて自分の席に座る。足を組む姿も、どこかごうごうしい。
「正直、何から話せばいいのか分からない」
それは私の方だってそうだ。
目が合って、ギイがじっと私を見る。
「あのね、ギイ」
私は意を決して言った。
「私、ギイの事は男の子だと思ってたの」
ちょっと、どきどきした。
ギイが何て言うか。
でも、ギイは、
「そんな事知ってる」
とかって、まるで返事にならない返事。
「私、その、勘違いしてたみたいで」
「心配しなくたって、俺の初恋もお前だ千秋」
「いや、だから、その、、、」
もしかしてこっちの話きいてたの?!
「ああ、聞いてたよ、全部。魔法の国の王子か何かだと思ってたって話までな」
「!」
「俺とは結婚しないって?」
げ!
「俺がキライ?」
ギイは、まっすぐ見つめて来た。
「俺をキライになったのか?」
「キライじゃない、けど、、、」
ギイの事は、知ってるようで私は知らない。
どこ出身で、今まで何してて、何処にいて、どんな人と関わってきたとか、家族の事も何も知らない。
「千秋が心配する事はないよ」
ギイは、優しい顔でそう言った。
「誰からも、何からも俺が守ってやる」
「いや、ええと、だから、、、」
「その為にこうしてわざわざこんな姿で転入したんだしな」
、、、え?
ギイは、銀色の長い髪をいじりながら、何か考えている様子。
ギイの瞳が、一瞬赤くなった気がした。
「フフ」
何がおかしいのか分からない。
少し、分からないギイが怖い。
窓の外では、一羽のカラスがこちらの様子を見ていた。
そのカラスは、飛び立つと、学校の近くのビルの上にいた主の元へとたどり着く。
「へー。何だかなんのへんてつもない子じゃないの」
カラスから報告を受けて、その主はニヤリと笑った。
「どーしよっかなー。何するにしてもクライドが邪魔なのよねー。千秋だっけ?もう、物凄く美味しそう!」
ペロリと舌をなめて、考えて考えた。
「まあ、足止め位にはなるかな」
パチンと指を鳴らす。
その頃ギイは、廊下を歩いていた。
外からも下からも、異形な人形が現れて、ギイの周りを取り囲む。
ギイは、ため息をついて窓の外を睨みつけた。すると、
パン!
と、学園の窓ガラスが光に飲まれて一校舎分全て吹き飛んでしまった。と同時に、異形な人形たちが紙くずのように散る。
千秋たちは、体育館で体育の授業真っ只中だったが、窓ガラスが割れた異変に気付き、騒ぎになっていた。
「窓、全部割れてる」
学がぽかんとした顔で体育館入口から校舎を見上げていた。
「何かの爆発?」
「テロだったりして」
クラスメイトのざわつきに、体育教師が笛を鳴らして集合をかけた。
が、集まろうとした生徒たちが集まらなかったのは、その教師の後ろに異形の人形が立っていたからだった。
「?」
教師が後ろを振り向いて、驚く。
「な、な、なんだこいつらは?!」
異形の人形たちは、教師や生徒に襲いかかってきた。生徒たちは、悲鳴をあげて体育館から出て行く。
「ねーねー」
「な、なに?」
ただ一人、残っていたのは千秋だ。
服をつかまれて振り向くと、大きな目の少女がそこにいた。肩にカラス?を乗せている。
「えっと、どちら様?」
「ふーん。本当に何も知らないんだ?」
「???」
少女が何を言っているか分からない。
大きな帽子の間から、大きな耳が飛び出している。それがぴくぴく動いているのを見て、なんだか小動物を思い出してしまった。
(なんか可愛いなぁ)
「えっと、迷子? お母さんは一緒じゃないの?」
「は?」
「今日って参観日かなんかあったかなぁ」
子供が一人で校内をウロウロする筈がない。
そんな事を考えていると、その少女がわなわなと震えながらいきなり突き飛ばしてきた。
もの凄い力でずっこけてしまったが、立ち上がろうにも少女が上にのっかかってきて、動けない。
「だれが迷子だ誰が! 子供扱いしやがって、こちとらアンタのなん十倍も生きてるんだよ!」
少女の左手が千秋の首を掴む。
「さあーて、どう料理しようかなぁ」
少女の右手が、ギラリと刃物で光っている。
その指の全てが、長いナイフになっていた。
(え?え?なにこれ、どんな状況!?)
もしかしなくても殺されるのではないか。
そんな不安がよぎったその時、
「げ!」
少女が下品な悲鳴を挙げて横に吹き飛んだ。
「誰の許しを得て、何をやってる?」
低い声。
「千秋に手を出すとは、殺されたいのか」
つかつかと、少女の前に歩み寄る青年。
「クライド!」
「欲を出したらどうなるか、お仕置きが必要だな」
少女は明らかにその青年に怯えていた。殴られたように、片頰が腫れ上がり、歯が折れている。
青年の目が赤く光っている。
「す、す、すみませぇーん!!」
少女は土下座をすると、即座にその場から消えた。
(え?え?なに??)
幻でも見ていたのだろうか。目の前にいた少女が空気にでも溶けたようにいなくなってしまった。
「全く、親父の部下も躾がなってないな」
ため息をついて、青年は千秋を見た。
が、千秋は状況がよく分かっていないのと、殺されかけたのではないかという恐怖で、その青年を遠巻きにしていた。
(あれ? でも、、、)
さっき見たのは何だったのか、青年の瞳は銀色になっていた。
髪も銀色。何処か懐かしい風貌。
「千秋、俺だよ」
「え?」
「ギイだよ、ギイ。こっちが本当の姿なんだって」
何を言っているのか、よく分からない。
分かるのは、目の前にいるのが、昔約束をしたギイだという事だけだ。
「ギイ?」
「そうだ。でも悪かったな、怖い思いをさせて」
ギイは、千秋の前まで歩み出た。
そうっと千秋の頬に触れて、優しく微笑む。
ヤバい。私、ちょっと泣きそう。
「ギイ、本当にギイなの?、、、今までどうしてたの?」
「本国で軟禁生活してたな」
笑いながら言う。
「ちょっと事情があって、なかなか千秋には会いに来れなかった」
銀色の瞳に映る私の顔は、やっぱり泣き出しそうになっている。
「う、、、」
「千秋、すまなかった」
謝られても、困る。
「残念。抱き締めたいけど、時間切れだ」
そういうと、ギイの体がぽん!っという音と共に消えた。
消えて、そして現れたのは、転入生の、女の子のギイだ。
私は涙が出そうになっていたのが止まった。
(はい???)
「すまんな、千秋。今は普段が女の体なんだ。男の体に戻れるのは、僅かなんだよ」
意味不明だ。
「えっと、何がなんなのか、、、」
全く分からない。
ギイは苦笑した。
「俺が男だって分かったら、今はそれでいい」
それより後始末だな、というと、ギイはパチンと指を鳴らした。
「?」
「校舎の窓ガラスを元通りにした。結界内の人間は、化け物があらわれた事も忘れてる。授業は終わったし、皆、教室に戻ってくる」
「???」
「後で話そう。屋上は誰も来そうにないから、そこで千秋には真実を話すよ」
ギイはそう言った。
体育の授業中の騒ぎは、何もなかった事になっていた。窓ガラスも元通りになっていて、
私だけ何か、騙されているのではないかというか。あんな騒ぎがあったのに、誰も何も知らないって、一体どうなっているのか。
(やっぱりギイは魔法使いなんだ)
魔法の国の王子なのだ、と思った。
それとも私だけなんか、変な幻でも見てたの?
思い出す、大きくなったギイの青年の姿。
昔と変わらない同じ銀色の瞳と銀色の髪。
(なんか、随分大人びてたな)
それに、体も大きくなってた。
「なんだ、惚れ直した?」
ギイがぷっと笑う。
どきっとした。
「その、人の心を読むみたいなの、なに?心臓に悪いからやめてほしいんだけど」
「みたいなのじゃなくて、読んでる」
なんでもありなのギイって!
「千秋の事なら何でも知りたい」
歯にきせるという言葉を知らないんだろうか。聞いてるこっちが恥ずかしい。
顔が熱くなる。
今はギイは女の子の姿だ。
(落ち着け私、、、!)
どうにも女の子に口説かれている気分。
でも、ギイは男性だ。
(う、、、なんか、やりづらい)
「それで、真実を話すとかって話は?」
授業が終わり、私とギイは屋上に来ていた。
誰も来ない場所で話すんだから、何かとんでもない話でもするのではと、私は気分が落ち着かない。
「そうだな」
ギイは一呼吸置くと、とんでもない話を切り出した。
「まあ順に話せばだな、実は千秋、お前は本当は死んでたんだ」
「は?」
いきなり、何を言い出すんだ。
「昔、雨の日に車に乗ってて事故にあったのは覚えてるな?」
「ああ、それなら何の怪我もなくて、入院したの1日だった」
おじいちゃんの運転だった。対向車のトラックが居眠り運転で突っ込んできて、助手席側と衝突。運転席は無事だったから、おじいちゃんは軽傷で済んだけど、助手席側はぼろぼろで、そこに乗ってた私はよく無事だったって、ニュースにもなった。
「本当は死んでたんだ、あの時」
ギイは、話していて辛そうだ。
「俺がかけつけた時には、千秋はもう死ぬ直前になってて、俺は、千秋を助ける為に血の契約をした」
血の契約とは、魔族が人間と交わす契約で、人間から代償を得て、その代償にあった願いを叶えるというものらしい。
「魔族?って、、、」
まさかまさか。
「まあ、魔法使いってニュアンスは合ってるな」
「待ってよ、魔族ってなに??」
「この世界で言う神や悪魔、精霊の事だよ」
「ギイ、人間じゃないの?!」
「昔言ったぞ、ちゃんと。千秋はよく分かってなかったみたいだが、、、」
が~ん!
ちょっと待ってよ、だったら何でその魔族様とやらが避暑地でバカンスしてたんだ?!
ギイと出会って遊んだのは、ある年の夏の間1ヶ月程度だったと思う。私はおじいちゃんと、別荘に遊びに来ていた。ギイが住んでいた家は、別荘付近の森の中だったと思う。
「そんな話は今はいいから、兎に角、お前と血の契約を結んだら、俺は体が女になったんだ」
更に分からない話をされて、私は頭を悩ませた。
「どういう事??」
「血の契約には必ず代償が必要になる。でも、俺は無償で契約をしたしたから」
「だから女になったって?」
「残念ながらそうだ。元に戻るには、契約破棄をするか、契約した本人と結婚するかしかない」
腕組みしながらギイは続けた。
「契約破棄してしまったら、千秋、お前は死ぬ事になる。何せ、お前が生きてるのは俺の寿命を分け与えてるからだからな」
「エエ!?」
「でも俺はお前を失いたくない。だから、子供の頃、お前から将来お嫁さんにして欲しいって言われた時は、正直本当に嬉しかった」
そういえば、そうだった気がする。
「俺と結婚してくれ千秋」
ギイが、真剣な顔をして言った。
「必ず幸せにする。ずっと側にいて守るから」
ギイが、頬に触れる。
「駄目か?」
問われて、今すぐハイ分かりました、とは私は言えない。
だって、確かに昔は好きだったけど、今はよく分からない。好きだけど、ギイの事は嫌いじゃないけど、私は今のギイをよく知らない。
「俺はずっと、千秋を見てたんだがな」
少し、悲しそうだ。
「でもギイ、昔の約束、ちゃんと覚えてくれてたんだね」
そこは嬉しい。
「まあ、でも、今すぐ結婚てのは無理かな」
「何故?」
「私、まだ学生だし。学校行きたいし、今のギイを知ってからじゃないと」
「そんなの結婚してからでも支障ないだろ」
「あるよ。ギイがとんでもやさんだったりしたら困るし。結婚してから、なんか違ってたとか私は嫌」
「俺、早く男に戻りたいんだが」
「なんで? 女の子でも、美人なんだから別にいいじゃない」
「あのな、、、」
そういう問題じゃない。そう言葉にしようとして、ギイはやめた。
「分かった。だったらこうだな」
ギイは、千秋の頬に口づけた。それから手を絡ませて、優しく手にもキス。
「千秋、愛してる」
低い声で囁く。
いつの間にか、男になっている。
ドキリ。
心臓が、早鐘を打つ。
(これはずるい!)
「ずるい?」
ギイは自分の事が分かってないのではなかろうか。それとも分かっててやってるのだろうか。そんな、格好良い男性に口説かれたら、誰だって悪い気はしないし、免疫のない私にいたっては、もうどうしたら良いのか分からなくなる。
「ギイ、もうやめて」
手から指、腕にくちづけるギイに、悲鳴を上げた。
顔から火が出るんじゃないかって位に恥ずかしい。
ギイは、クスリと笑って、
「そういう千秋は初めて見る」
また、女の子に戻った。
「良い忘れてたが、俺と千秋との婚姻は本国では猛反対されてる。俺の国では人間は餌だからな」
「餌?」
「家畜って意味だよ。人間がそのまま食料になる事もあるし、命を宝石に変えて取り引きの材料にされたり、売買されるのは日常茶飯事だ。特に千秋、お前は俺の魂が入ってるから極上の獲物だ。今日に限らず今後も狙われる可能性が高いから、誰彼かまわず信用したりするなよ」
もしかしなくても、私、ギイがいなかったら今日やばかった?
「ああ、まあ、そうかもな」
「今まで誰かに狙われた事ないよ!?」
「今までは、俺が周囲を騙し続けてたからだ。だが、千秋の存在がバレてしまってな」
「エエ!?」
「結婚したら、ある程度押さえつける事も可能になるし、城にいれば守るのも容易いが、お前が結婚は今はしないって言うからだな」
なにそれ、なにそれ!
人間が餌って、、、。
「今ではお前、国中の有名人だから、ホントに気をつけろよ」
「なんで私が有名人?!」
「だって俺、千秋と結婚するって言ってあるから」
「は?」
「俺、次期国王なんだよ」
思考が停止した。
「まさか私の存在がバレた理由って、、、」
「そうだよ。結婚相手を決めないとって話になったから、仕方なくだが俺がバラした」
ギイが、ギイの国の国王って、、、。
人間は餌って話なのに、そんな私とギイが結婚なんて、そりゃ周囲も反対するに決まってる。
なに、この頭の痛くなるような話。
結婚しなかったらしなかったで、死ぬかもって話で、けど結婚選ぶのもリスクありってなにそれは。
「まあ、国でまともに俺に歯向かえる奴なんてあまりいないから、千秋の事はちゃんと守るよ」
「ギイが転入してきたのは、それが理由?」
「そうだ。俺は、ストッパーだな」
今日殺されかけたんですが、、、。
「ああ、あいつは親父の手下だから大丈夫と言えば大丈夫だ」
どこが!?
ギイの大丈夫ラインがまるで分からない。
これは本当に、死にたくなかったら気を付けて生活しないといけない気がする。
「今すぐ結婚したくなったか?」
「いや、それはー、、、」
「その方がまだ安全なのに」
そんな事言われても。
それになに。ギイと結婚したら、私はギイが王様なんだから、王妃になってしまう。
(王妃ってなに? 何するひと??)
私の思い描く結婚と、次元が違う。
「別に、普通だぞ」
絶対ウソだ。ギイの普通は普通じゃないにきまってる。
「うーん、周りの女は王妃になりたがってる連中ばかりだから、千秋も喜ぶと思ったのに」
浮かない顔をしていると、ギイが微妙な顔でそんな事を言う。
ほら、やっぱり普通じゃない。
はあ、、、。
私はため息をついた。
「兎に角今は何とも言えない。ギイの気持ちは嬉しいけど、、、」
急にあれこれ吹き込まれても、驚くばかりで頭も気持ちもついていけない。
「人間じゃないから、という理由ではないんだな、千秋は」
ギイは、嬉しそうに笑った。
「なに?」
「いや、やっぱり千秋が好きだなってさ」
好き。
そう言われて、私は何だか気恥ずかしい気持ちになった。
「ギイって、ストレートすぎる」
「口説いてるからな、お前を」
「私、ギイみたく美人じゃないし、取り柄なんて特にないし、なんで、、、」
どうしてそこまで私が好きなんだろう。
私にはよく分からない。
「迷惑か?」
聞かれて考えるが、迷惑ではない。
むしろ、嬉し、、、。
そこまで考えて、ハッとした。
いや、ギイは何考えてるかすぐに読むから!
そう思ったが、もう遅かったようだ。
「ああそう? じゃあ、全力で口説かないとな」
そんな事を言って、私の腰に腕を回す。
「や、、、だから、今結婚なんて私には無理だから!」
「ハイハイ」
「人の話きいてる?!」
抱き寄せて、嬉しそうに頬にキスするギイ。
抗おうとしたら、抱きつく形になってしまった。
ギイの方が頭ひとつ分は背が高いから、千秋の顔はギイの豊かな胸に挟まっている。
(う、、、。ギイ、本当に胸大きい!!)
しかも良い匂い。なんだか、エロイ。
千秋は真っ赤になった。
今はギイは女の子だ。女の子同士で抱き合う位、何て事ない筈。その筈なんだけど、どうしてか落ち着かない。
「好きだよ千秋」
耳元でギイが囁く。
「愛してる」
ぎゃー!!
心の中で叫び声を上げたその時。
「ちょっと!いつまでいちゃいちゃしてんのよ!」
一体いつから見ていたのか、恵が声をあらげながら入り口から走りよってきた。
「離れなさいよ早く!」
顔面を青ざめさせて、ギイと千秋を引きはなそうとしている。
「外国育ちだからって、そんなにハグしなくたっていいでしょ!」
「口説いてるんだからこれ位普通だ」
ギイは、千秋を離そうとしない。
「口説くってなによ!? 千秋はあんたなんかに口説かれたりなんかしないわよ!」
「千秋は俺に口説かれるのが嬉しいらしいぞ」
「はあ?!」
ギイと恵が睨み合う。
「いやー、恵がさ、千秋がクライドさんと結婚なんて事になったらって心配してさ。いや、ほら、女の子同士だし?」
恵だけかと思ったら、学もいた。
「ええっと、、、それはー、、、」
確かに結婚はしない。今すぐには。
でも、先はどうなるかはちょっと分からない。
だから、何て答えていいか分からない。
それにくわえてギイは、実は男だ。
「心配しなくたって、千秋は俺と結婚するよ」
ギイは、にっこり笑って。
「千秋は俺が好きだものな」
火に油を注ぐ。
(ああ、何か、余計な争い事を増やしてる)
恵は、単に心配しているだけだ。
おまけに、ギイの本当の姿を知らない。
でもそれをどう説明するんだって話で、
「私、あんたなんか千秋の恋人として認めないんだから!!」
恵は興奮気味にギイにそう言った。
「俺は面白いから反対しないけどね」
学の方は完全に面白がっている。
「この二人は千秋の何なんだ?」
ギイに問われて私は言った。
「友達だよ。だから、仲良くして欲しいんだけど」
今更何の説明もなく仲良く出来るだろうか。
「早く離れなさいって言ってるでしょ!」
恵の怒声が響き渡っている。
私は、更に頭が痛くなっていた。