プロローグ
―ごめんね―
それが最後の言葉だった。
母親はにっこり笑いボクの頭を優しくなで、ボクが寝ている部屋から出た。
次の日の朝のことは忘れようとしても消して忘れられない。狭い居間の畳は真っ赤に染まっていた。そして赤い畳の上にはぐったりとした母親が横たわっていた。ボクは泣くことしかできなかった。
それから先のことは覚えていない。多分6歳の時のことだから忘れてしまったのだろう。
そのあとボクはおじさんに引き取られた。おじさんはお金持ちでお金には困らなかったが、おじさんは毎日のように仕事でどこかにいっていた月に1、2回くらいしか家に帰ってこなかった。だから昔から一人でいたボクは寂しかったのだろう夜遅くまでお母さんのことを考えながら広いリビングの隅で体育座りをしてうずくまっていた。
どうしたらお母さんに会えるのだろう…
どうすればお母さんと同じところにいけるのだろう…
その答えが見つかったのは小5の時だ。
自分を愛してくれたお母さんはこの世にいない。
なら自分もこの世から離れればいいのだと。お母さんと同じように死のうとカッターを自分の首に当ててみたけれど怖くなってすぐに手を離してしまった。
ボクは生きる亡霊だ、自分を愛してくれる人は誰もいなく、誰からも必要とされていない、存在価値のない人間だ。
死にたい衝動はそれから何回もボクを襲ってきた、そのたびにカッターを自分の手首や首に当て付けては見るけど、一歩が踏み出せていない。
なぜなのだろう、亡霊の筈なのに死ぬ時に死ぬことが怖くなってしまう。その答えはわからなかった。
高校にあがってもボクは何度も死にたいという衝動になんども襲われ、そのたびにひとりになれる場所を見つけては挑戦するけどっぱりできない、怖いのだろうか。そう思うとなんだか泣けてくる。
生きている意味などない筈なのに、生きていたって何も無いはずなのに、怖い、死にたくないと、まだ生きたいと思う自分に…